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雨は夜のうちに止み、朝の空気はしっとりと澪の頬を撫でた。
澪は昨夜のことを思い出していた
(……朧さんが……
“あなたを大切に思っています”って……)
自分でも、顔が熱くなるのが分かった。
(あれは……どういう意味で……)
考えるほどに、心臓が落ち着かない。
廊下を歩いていると、朧が静かに声をかけてきた。
「澪さん。
昨夜は……怖い思いをさせてしまいましたね」
「い、いえ……
朧さんがいてくださったので……大丈夫でした」
「……よかった」
朧は少しだけ微笑んだ。
その笑顔が、胸に刺さるほど優しい。
(……どうして……こんなに胸がくるしいんだろう)
澪は自分の胸元をぎゅっと掴んだ。
「澪さん」
「っ……はいっ!」
朧に名前を呼ばれただけで、声が裏返ってしまった。
朧は不思議そうに首を傾げる。
「……体調が悪いのですか」
「い、いえっ……!
その……なんでもありません……!」
(なんでもない……はず、はずなのに……
朧さんを見ると……胸が苦しくなる……)
朧は澪の顔を覗き込むように近づいた。
澪は思わず顔を逸らす。
「顔が赤いです。
熱でも──」
「ち、近いです……!」
澪は思わず一歩下がった。
朧は瞬きをし、少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「……嫌でしたか」
「ち、違います……!
嫌では……ありません……」
(むしろ……
近づかれると……心臓が……)
澪は言葉を飲み込んだ。
その日の午後。
澪は庭の縁側に座り、ひとり静かに考えていた。
(朧さんは……”私を大切に思っている”と言ってくださった)
(私は……どうなんだろう)
胸に手を当てる。
(朧さんが他の女性と話すと……苦しくなる)
(朧さんに触れられると……嬉しくなる)
(朧さんの声を聞くと……安心する)
そして──
(朧さんに……
“花嫁”と呼ばれると……嬉しい)
澪はゆっくりと息を吸い、小さく呟いた。
「……私……
朧さんのこと……好き……なんだ」
その瞬間。
「澪さん」
背後から朧の声がした。
「っ……!」
振り返ると、朧が静かに立っていた。
「今……なんと仰いましたか」
「っ……!
な、なんでもありません……!」
みおいは慌てて立ち上がるが、朧は手を伸ばし、澪の袖をしっかり掴んだ。
「澪さん。
あなたの言葉……聞かせてください」
澪の心臓が跳ねる。
(……言わなきゃ……
でも……言ったら……)
──胸が苦しくて、でも逃げたなくて。
澪は震える声で言った。
「……朧さん……
私……あなたのことが……」
朧の金色の瞳が、静かに揺れた。
「……澪さん」
澪が自覚した今、朧の思いがどう動くのか──。