澪が震える声で
「朧さんのことが……」
と言いかけた瞬間。
朧は静かに、しかし確かに息を呑んだ。
「……澪さん」
金色の瞳が、澪だけを映している。
「続きを……聞かせてください」
澪は胸に手を当て、勇気を振り絞るように言葉を紡いだ。
「私……朧さんのことが……
好き……だと、思うんです」
「でも……その気持ちが分かってしまったから……
朧さんと……いつかは別れてしまうのが……怖い」
その瞬間、朧の表情が僅かに揺れた。
──驚きと、喜びと、そしてどこか切なさが混じったような。
そんな表情。
「……澪さん」
朧はゆっくりと澪に近づき、そっと手を伸ばした。
けれど、触れる寸前で止まる。
「……私は……
あなたの想いに応えたい」
「……朧さん……?」
「ですが……」
朧は目を伏せた。
「私は……あなたを巻き込んでしまった。
“仮”とはいえ、花嫁として縛ってしまった」
「そんな……私は……」
「あなたの気持ちが……
私への”義務”や”契約”から生まれたものなら……
私は……受け取れません」
澪の胸がぎゅっと締めつけられる。
(……朧さん……そんなふうに思ってくれて……)
澪は一歩、朧に近づいた。
「朧さん」
「……はい」
「私の気持ちは、契約なんかじゃありません」
朧が顔を上げる。
「あなたが優しくて……
あなたが私を守ってくださって……
あなたが……私を大切にしてくださるから……」
澪は胸に手を当てた。
「この気持ちは……私の中から自然に生まれたものです」
「……澪さん」
「だから……
“仮”なんて関係ありません」
澪はまっすぐに朧を見つめた。
「私は……
朧さんが好きです」
その言葉は、雨上がりの空気のように澄んでいた。
朧はゆっくりと手を伸ばし、今度こそ澪の頬に触れた。
「……澪さん」
その声は震えていた。
「あなたの思いが……こんなにも温かいとは……」
澪の頬を包む手が、ほんの少しだけ震えている。
「私は……あなたを大切にしたい。
契約ではなく……私自身の想いとして」
澪の胸が熱くなる。
「朧さん……」
朧は澪の手をそっと握った。
「あなたを”本当の花嫁”として迎えるには……
越えなければなさないことがある」
「……越えなければならないこと……?」
朧は静かに頷いた。
「澪さん。あなたを守るためにも……
真実を話す日が来ました」
澪は息を呑む。
(……真実……?
朧さんが抱えている”何か”……)
ふたりの指が、しっかりと絡んだ。






