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第十二章 静かなる来訪者
エルミナの森での実習を終えた一行は、夕暮れの森を歩いていた。
木々の間から差し込む夕日が、黄金色に辺りを染めている。
「今回の実習は無事に終わったね。」
ルークが穏やかに笑う。
「皆、お疲れ様。」
「ありがとうございます、会長。」
ノアが地図をしまう。
レオンハルトも肩の力を抜いた。
「思ったより平和だったな。」
「そうだね。」
ルークが頷いた、その時だった。
――ひゅう。
冷たい風が森を吹き抜ける。
「……。」
ねねの表情が変わる。
「会長。」
「来ます。」
ルークもすぐに気配を感じ取った。
「全員、止まって。」
その一言で空気が張り詰める。
ツララは何が起きたのか分からず、ルークの後ろへ下がった。
「どうしたんですか……?」
「静かに。」
ルークは前だけを見つめる。
「誰かいるね。」
木の影から、一人の青年が姿を現した。
長い銀黒色の髪。
赤い瞳。
黒い外套。
口元には余裕の笑み。
「へぇ。」
青年は楽しそうに笑った。
「これがアシュリカ王国の第一王子か。」
レオンハルトが剣を抜く。
「何者だ。」
青年は軽く頭を下げる。
「礼儀を忘れていた。」
「私は魔族十二将。」
第十一将――ゼファー。
その名を聞いた瞬間、全員の表情が変わる。
「十二将……!」
学院で学ぶ歴史の中でも、最も危険だと語られる存在。
その一人が、目の前にいた。
「安心して。」
ゼファーは両手を軽く広げる。
「今日は戦いに来たわけじゃない。」
「じゃあ何の用だ。」
レオンハルトが鋭く睨む。
ゼファーは答えず、ゆっくりと視線を動かす。
そして、
その赤い瞳がツララで止まった。
「君か。」
ツララは思わず身を固くする。
「ルミアーナ嬢。」
ルークが一歩前へ出る。
「僕の後ろへ。」
「……はい。」
ツララはルークの背中へ隠れた。
その様子を見て、ゼファーは小さく笑う。
「王子が守るとは。」
「大切なんだね。」
ルークの表情は変わらない。
「質問には答えてもらえるかな。」
「何の目的でここへ来た。」
「ふふ。」
ゼファーは肩をすくめた。
「本当に見に来ただけさ。」
「最近、面白い噂を聞いてね。」
「測定不能の少女。」
「少し興味があっただけ。」
その言葉に、ルークの目が細くなる。
「噂は、もう魔族まで届いているのか。」
「情報は速い方がいいだろ?」
ゼファーは笑う。
しかし、その笑みの奥には何か別の感情が見え隠れしていた。
(違う。)
(こいつは”測定不能”だから興味を持ったわけじゃない。)
(何かを知っている。)
ルークはそう直感した。
「ルミアーナ嬢。」
ゼファーが静かに呼びかける。
「え……?」
「また会おう。」
その一言だけを残して、黒い霧となり姿を消した。
森は再び静けさを取り戻す。
誰もすぐには動けなかった。
「……帰ろうか。」
ルークが穏やかな声で言う。
だが、その横顔はどこか険しかった。
「はい……。」
ツララは小さく頷く。
帰り道。
誰も多くを語らなかった。
ただ一人、ねねだけが心の中で警戒を強めていた。
(魔族十二将が、お嬢様を見に来た。)
(偶然ではありません。)
(これから先、お嬢様を狙う者は増えるでしょう。)
ねねはそっと拳を握る。
(必ず、お守りします。)
一方その頃。
魔王城。
巨大な玉座の前で、ゼファーは片膝をついていた。
「報告します。」
「例の少女を確認しました。」
玉座に座る魔王ゼノスは静かに目を閉じる。
「どうだった。」
「まだ覚醒していません。」
「ですが――」
ゼファーは少しだけ口元を上げた。
「確かに”あの気配”を持っています。」
部屋が静まり返る。
魔王はゆっくりと立ち上がった。
「……そうか。」
「ならば、時は近い。」
その言葉だけが、広い玉座の間に静かに響いた。
第一巻 完
王立魔法学院へ入学したツララ・ルミアーナ。
測定不能の魔力。
無詠唱という誰も知らない力。
そして魔族十二将が動き始める――。
まだ誰も知らない。
この少女こそが、世界の運命を変える存在であることを。
第二巻へ続く――。
コメント
1件
おお、第十四話お疲れさま! 第一巻の締めくくりにふさわしい、静かで重厚な終わり方だったな。 なんといっても「魔族十二将・第十一将ゼファー」の登場シーン、ワクワクしたわ。あの余裕の笑みとルークの鋭い直感の対比がすごく良くて、この先の緊張感を予感させる。特に「あの気配」を持っているっていうゼファーの台詞が気になりすぎる……。 ツララがまだ覚醒してないってのも、第二巻への期待が高まるな。完結じゃなくて続く感じが熱い。次巻も楽しみにしてる🔥