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俺にキスまでして、何の迷いもなく
はっきりと、そう言ってくれたのだ。
その言葉が、俺の心に深く響き渡った。
まるで、魂に直接触れるかのように。
「……ッ……」
視界が、簡単に潤んだ。
今度は、喜びと、信じられないほどの幸福感からくる涙だった。
熱い雫が、頬を伝っていく。
今までずっと、どんなに願っても「届かない」って、諦めていた人の唇が
ほんの一瞬前まで俺の唇に触れていて。
その感触が、まだ鮮やかに残っている。
しかもその圭ちゃんが、|憚《はばか》ることなく『好き』って、俺に言ってくれたって——
なんだそれ。
こんなことが、本当に、現実なのか。
こんなにも、俺は幸せになっていいのだろうか。
神様、もしかして俺、もう死ぬのかな。
これは走馬灯なのだろうか。
こんなに幸せなまま、死んでしまうなんてことがあるのだろうか。
そんな馬鹿なことばかり、考えてしまう。
幸福が、あまりにも大きすぎて俺の脳は正常な判断を下せないでいた。
そんなことを考えていると
心配そうな圭ちゃんの声が、俺の意識を現実へと引き戻した。
「…おい、生きてるか?」
ハッと我に返り、俺は慌てて顔を上げた。
彼の優しい声が、俺の心を落ち着かせる。
「けっ、圭ちゃん…!い、今さっき、キスしたよね?!!」
俺の声は、上ずっていた。
心臓の鼓動が、全身に響き渡る。
まるで、激しいマラソンを走り終えた直後のように、息が上がっている。
「おう」
圭ちゃんは、あまりにも普通に返事をしたので
拍子抜けしてしまった。
まるで、それが当たり前のことであるかのように。
その落ち着き払った態度が、俺の混乱をさらに増幅させた。
「そ、そそ、それに好きって…言わなかった…?俺の幻聴だったりする?」
しどろもどろになりながら、俺は必死で確認した。
脳が、目の前の現実を受け入れることを拒否している。
まだ、夢ではないかと疑ってしまう。
「言ったな」
圭ちゃんは、平然と言う。
その言葉一つ一つが、俺の心臓を鷲掴みにする。
「な……なんでそんな落ち着いて……」
声が掠れた。
俺の目の前にいるのは、本当に、あの圭ちゃんなのか。
信じられない。
圭ちゃんはそんな俺に、ふっと柔らかく微笑んで
「テンパリすぎだろ」と言った。
その表情は、俺の混乱を面白がっているようにも見えた。
でも、その瞳の奥には、確かな愛情が宿っているのが分かった。
「だ、だって最初の頃は、キスは絶対しないけどなって…!なのに、あんな……っ」
俺は、あの時の圭ちゃんの言葉を思い出し、さらに混乱する。
あの固い誓いは、どこへ行ったんだ。
あの時の彼の真剣な顔が、今も鮮明に思い出される。
俺がそこまで言うと、圭ちゃんは少しだけ拗ねたような顔で、俺の目を覗き込んだ。
彼の瞳に、俺の動揺する顔が映っている。
「なんだよ、やだったのかよ?」
その声には、少しだけ不安の色が混じっているように聞こえた。
「嫌じゃないけどさ!嫌じゃ、ないけど……っ」
嫌なわけ、ない。
むしろ、嬉しくて、嬉しくて
どうにかなりそうなんだ。
心臓が破裂しそうなほどに、嬉しい。
でも、その気持ちを、どう言葉にしたらいいのかが分からなかった。
言葉では表現しきれないほどの感情が、俺の胸の中を駆け巡っていた。
「っ〜〜……!」
俺は思わず、その場にしゃがみこんだ。
顔が熱くて、全身の血が逆流するような感覚。
恥ずかしさと嬉しさと、そして混乱と驚きと
色々な感情が爆発しそうだった。
まさに、感情の洪水だ。
このままじゃ、俺の体が、感情の奔流に押し流されてしまう。
それと同時に、こんなにも温かい
こんなにも特別な気持ちにさせてくれる圭ちゃんへの、溢れんばかりの愛しさが
胸いっぱいに広がって、止まらなかった。
彼への思いが、これまで以上に強く
深く、俺の心を占めていく。
もう、彼なしの人生なんて、考えられない。
そんな俺に、「おい大丈夫か」と言いながら、圭ちゃんも俺の目線に合わせて
優しくしゃがみこんでくれた。
その視線が、俺の混乱を鎮めるように包み込んでくれる。
彼の存在が、俺にとってどれだけ大きいか
今、痛いほどに実感する。
「……大丈夫じゃない。ほんと……今心臓口から飛び出そうで…幸せすぎて死にそう……」
俺は、弱々しく、しかし正直にそう答えた。
全身の力が抜け落ちていくような感覚。
「大袈裟すぎ」
圭ちゃんはそう笑いながらも、その目は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
彼の指先が、俺の頬に触れる。
その感触が、俺の全身に電気のように駆け巡り
心臓がさらに高鳴る。
彼の視線に捕らえられ、俺は身動きが取れなくなる。
そしてそのまま、真剣な顔で見つめられると、俺のドキドキは、もう止まらない。
彼の瞳に、俺の顔が映っている。
その瞳の奥には、俺への確かな愛情が深く
そして静かに宿っているのが見えた。
「け……圭ちゃん……?」
俺は、震える声で圭ちゃんの名前を呼んだ。
「なあ、りゅう」
圭ちゃんはそう言って、俺の手を取った。
俺の震える手を、彼の大きな手が、優しく
しかし確かな力で包み込んだ。
その温かさが、俺の心を落ち着かせ
同時に、さらなる高揚感をもたらした。
彼の指先が、俺の指に絡みつく。
「…これでお試しから本物になったな」
彼の真っ直ぐな目に射抜かれると、何も言えなくなってしまう。
その瞳は、俺の心の奥底を見透かすかのように強い光を放っていた。
彼の言葉の重みが、俺の心を震わせる。
それでも、一つだけ、どうしても確認したいことがあって
俺は震える唇で、言葉を紡いだ。
この言葉を口にするまで、どれだけの勇気が必要だっただろう。
「…本当に、付き合ってくれるってこと…?」
まるで、夢の中で確認するように、もう一度
その言葉を圭ちゃんの口から聞きたかった。
それが、俺の心を、完全に納得させる唯一の方法だった。
「ああ…まぁ、親にもダチにも簡単には言えねぇだろうけど」
圭ちゃんの声は、どこか照れくさそうで
でも、その中に確かな決意が感じられた。
彼の言葉には、現実的な厳しさも含まれていたけれど
それ以上に、俺への真剣な思いが伝わってきた。
「うん…わかってる、男同士だし…仕方ないよ」
俺は頷いた。
現実は、まだ厳しい。
社会の目は、きっと冷たいだろう。
でも、圭ちゃんが隣にいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられるような気がした。
彼の存在が、俺の心を強くする。
「いま、公言できるとしたらウチの姉ちゃんぐらいだ」
「えっ?そんな、いいよ無理にしなくても…!」
俺は慌ててそう言った。
確かに圭ちゃんのお姉さんは理解がある人だが
圭ちゃんの家族にまで、俺たちの関係が知られるなんて、まだ想像もできなかった。
彼に、これ以上負担をかけたくないという気持ちが、俺の心を占めた。
「俺が教えてぇんだよ、お前のこと」
圭ちゃんの声は、静かだったが
その中に、揺るぎない覚悟と
俺への深い愛情が込められているのが分かった。
その言葉は、俺の心を温かく包み込み
俺の存在を、彼がどれだけ大切に思っているかを教えてくれた。
彼の言葉の力強さに、俺の胸は熱くなる。
その帰り道、圭ちゃんの隣を歩く俺はまだ夢見心地で、まるで雲の上を歩いているようだった。
体は重いはずなのに、足取りは軽い。
夕暮れの空は、さらに深い藍色に染まり
星が一つ、二つと瞬き始めていた。
街の明かりが、宝石のようにきらめいている。
アスファルトの冷たさも、風の肌寒さも、今の俺には何も感じられなかった。
全身が、圭ちゃんの体温で満たされているかのような錯覚に陥る。
彼の隣にいるというだけで、世界がこんなにも輝いて見えるなんて。
「圭ちゃん…もう1回聞くんだけど、冗談抜きでガチで俺のこと好きになってくれたの?」
と、つい尋ねてしまう。
一度聞いたはずの言葉なのに
その重みが、あまりにも大きすぎて
現実のものとして受け止めるにはまだ心の準備ができていなかった。
その問いは、俺の心の奥底に巣食う
小さな不安が、また頭を擡げた証拠だった。
信じたい。
でも、あまりにも出来すぎた話で
あまりにも夢のような展開で、心のどこかで
これはいつか覚める夢なのではないかと疑っている自分がいる。
こんな幸福が、本当に俺に許されるのだろうかという根深い自己否定感も
まだ完全に消え去ったわけではなかった。
彼の言葉が、耳の奥で反芻されるたびに
それが真実なのか、それとも幻なのか
その境界線が曖昧になる。
すると、圭ちゃんは一瞬、怪訝そうな顔をした。
その眉が、わずかに吊り上がる。
まるで「またか」とでも言いたげな、呆れたような表情。
しかしすぐに、眉間にシワを寄せ
少し不機嫌そうに、でも、どこか諦めたようにため息をついた。
その息遣いが、俺の髪をそよと撫でる。
彼の不機嫌そうな顔は、俺の質問がどれほど彼を苛立たせているかを物語っていたけれど
それでも、彼の表情には、俺への深い愛情が滲み出ていた。
「は?お前まだ疑ってんのかよ」
その声には、少しだけ不機嫌な響きが混じっていた。
その声音は、彼の苛立ちを物語っているようにも聞こえたけれど
不思議と、その不機嫌さの中にも
俺への確かな愛情と、そして、呆れるほどの優しさが感じられた。
怒っているようで、怒りきれていない
そんな圭ちゃんの表情に、俺は少しだけ笑みがこぼれそうになった。
彼の言葉一つ一つが、俺の心を揺さぶってきて
俺は、慌てて弁解した。
「そりゃそうだよ!だって突然すぎるし……」
本当に、突然すぎたのだ。
噴水での杉山さんの芝居。
圭ちゃんの突然の登場。
そして、彼からのまさかのキスと、告白。
俺の人生の中で、これほど劇的で
そして衝撃的な出来事がこの数分の間に立て続けに起こっただろうか。
感情のジェットコースターに乗せられているかのように、俺の心は高揚と混乱の間を揺れ動いていた。
心臓はまだ、激しく鼓動を打ち続けている。
圭ちゃんは、俺の言葉を聞き終えると
再び深いため息をついた。
その息は、どこか諦めにも似た
でも、だからこそ、強い説得力を持つ響きだった。
彼の視線は、真っ直ぐに俺を捉え
そこに一切の迷いや偽りはなかった。
その瞳は、夕暮れのわずかな光を反射して
まるで深い湖の底を覗き込むかのように俺の心の奥底までを見透かしているようだった。
彼のまなざしに、俺は抗うことができない。
「突然だろうが何だろうが好きになっちまったもんはしょうがねぇだろ」
彼の声は、夕闇が迫る帰り道にはっきりと響いた。
その言葉は、街の喧騒や
遠くで聞こえる車の音さえもかき消して
俺の鼓膜に
そして心の奥深くにゆっくりと
しかし確実に染み渡っていく。
好きになったんだから仕方ない。
その、あまりにもシンプルで、あまりにもストレートな言葉が俺の心の奥底に巣食う全ての不安を
全ての疑念を確実に打ち消していくようだった。
圭ちゃんは、本当に俺のことを
ただ「俺」として、好きになってくれたのだ。
社会の枠とか、男同士だとか
そんなものは、彼にとっては何の意味も持たない。
ただ、好きだから、それでいい。
その事実に、俺の胸は、もう一度熱く燃え上がった。
幸福感で、全身が満たされていく。
彼の言葉は、まるで魔法のように、俺の頭の中を駆け巡る。
今まで自分を縛り付けていた鎖が一つ、また一つと音を立てて砕け散っていくような感覚。
俺は、ずっと「はみ出し者」だと自分を責めてきた。
誰にも理解されない、異質な存在だと。
けれど、圭ちゃんのこの言葉は
そんな俺の存在そのものを、まるごと肯定してくれた。
彼の「好き」という感情に何の条件も、何の制約もない。
ただ純粋に、俺という人間を好きだと言ってくれる。
それだけで、俺の人生は、色鮮やかなものへと変わっていくような気がした。
値踏み色で溢れていた世界に、鮮やかな色彩が加わっていく。
俺は、圭ちゃんの横顔をそっと見つめた。
夕焼けに照らされた彼の横顔は、いつもと変わらない
見慣れた顔なのに、今は、世界で一番眩しく
そして愛おしく見えた。
彼の口から発せられた言葉の重みに、俺の心臓はまだ落ち着きなく高鳴っていたけれど
その高鳴りは、もう恐怖や混乱からくるものではなかった。
それは、純粋な喜びと、彼への深い恋心
そして、これから始まるであろう新しい未来への、期待と希望に満ちた鼓動だった。
俺は、彼の隣を歩く。
肩が触れるたびに、胸の奥がきゅうと締め付けられる。
この温かさ。この確かな存在。
これは夢なんかじゃない。
俺は今、圭ちゃんと、恋人として、隣を歩いているのだ。
その事実が、俺の心を、どこまでも満たしていく。
「……圭ちゃん」
俺は、もう一度、彼の名前を呼んだ。
今度は、もう震えていない。
その声は、真っ直ぐに彼の元へと届いた。
圭ちゃんは、俺のほうを向いて少し首を傾げた。
彼の優しい視線が、俺を捉える。
「ん?」
俺は、彼の目を見つめ、深呼吸をした。
そして、心の底から湧き上がってくる偽りのない感情を、彼に伝えようと決めた。
この想いを、今、伝えなければ。
「俺…圭ちゃんのこと好きになってよかった」
その言葉は、夕闇の中に溶け込みながらも俺の心から、真っ直ぐに圭ちゃんへと届けられたはずだ。
圭ちゃんは、一瞬、目を見開いた後
くしゃりと顔を綻ばせ、優しく俺の頭を撫でた。
その手つきは、まるで宝物を扱うかのように
丁寧で、そして、限りなく愛情深かった。
彼の温かい手が、俺の髪をそっと撫でる感触が俺の心に深く刻み込まれた。
この瞬間が、永遠に続けばいいと、心から願った。