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「この度は皆様の貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」
普段は人の多い玉座の間。今日だけは数える程しか人はいなかった。これは今、挨拶をした王女の要請によるものだった。
「ナナリー。人払までしたのだ。期待して良いのだな?」
「はい。陛下。早速ですが、今日ここにいる方々の中に、神器を隠した犯人がいます」
!!!
玉座の間にいる面々は息を呑んだ。
ここにいるのは、見届け人の国王と王女、そして勇者パーティの7人だけである。
「タクマさんの嫌疑は晴れたのではなかったのですかっ!?」
聖女マリアが仲間を案じる声をあげた。
普段、物静かな聖女である。余程腹に据えかねるものがある様だ。
「一度ならまだしも、二度目は神もお許しになりませんっ!…いえ。神が許したとて、私が許せません」
「聖女様。私は、犯人がタクマ様だとは申していません」
!!
失礼しました…聖女はそう呟き、バツが悪そうに頭を下げ、一歩下がった。
「聖女様の気持ちは痛い程わかります。私も同じ気持ちです。いえ、同じ気持ちだったと申しましょうか…勇者タクマ様は犯人ではありません」
王女のこの言葉に安堵する声は聞こえなかった。
そう。勇者本人からも。
「ナナリー姫…やはり、やめないか?こんなの意味がない…」
「勇者様。これは私のために行なっています。このままでは、私は…勇者様の望み通りには生きて行けません」
勇者からの提案を、王女はキッパリと切り捨てる。
「ここに集まった俺達しかタクマの部屋に入ってなかったんだよな?」
「はい。見張りの騎士達の証言からも、私を含め、勇者様のお部屋へと入ったのはこの中の人達だけです」
剣鬼が言うように、これはこれまでの証言通りだ。そして、それを否定した者もいない。
「次に聖女様ですが、貴女も犯人ではありません。貴女が勇者様のお部屋へと入ったのは一度きり。それも皆様が揃っての時、最後の入室者でした。犯行は不可能です」
これもこれまでの証言通りだ。
「これで残すは、余と其方、それに拳聖と魔女の二人か…」
「陛下。陛下が盗むメリットはありません。唯一考えられる理由は、勇者様の威光を脅威に持つというものがありますが、これはあまりにも戯言に過ぎません。陛下がそれを求めていないことも知っていますが、この様なことをしなくとも、他にもいくらでもやりようはありますから」
娘である王女は、これ以上話をややこしくするなと、言外に伝えた。
「私が何らかの方法で魔導具の開け方を知っていたとすると、私の身の潔白は証明出来ませんが、恐らくそれは必要ないでしょう」
「何でだ?」
「犯人がそれを望んでいないからです」
王女の言葉に剣鬼が疑問を挟み、すぐさま王女は答えた。
「わりぃ…全く意味がわかんねぇ」
「正確に言うと、この中の『誰』が犯人にされることも、犯人は望んでいないのです。
そして、その理由こそが犯人を突き止める手掛かりとなりました」
聖女を含め、剣鬼にもアリバイはある。
王女の話が真実であれば、残すは拳聖と魔女の二人。
「この一連の騒動の犯人は、魔女アフロディーテ様。貴女です」
!!!
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!ディーテは『タクマ様。私のことなのです。私が説明します』……わかった」
このままでは拙いと思った勇者が口を開くが、王女に制される。
「証拠はあるのですか?」
魔女が王女へと問う。このままでは自分が犯人にされてしまうからか。
「証拠は…ありません。流石大陸一の魔法使いといったところでしょうか。痕跡は一切残っていませんでした」
神器が保管されていた魔導具は、正確な手順で開けられていた。
「ですが、逆から見ると、この中でその様な芸当が出来るのは貴女だけなのです」
「出来るから犯人っていうのは些か乱暴ではありませんか?」
魔女の言う事も尤もだ。
しかし、王女は止まらない。
「おさらいしましょう。この事件では不可思議な事がいくつも起こっています。
その中の一つに『勇者様の自白』というものがありました。それはなぜ起こったのでしょうか?」
「それは…度重なる取り調べにより、タクマが疲れたのでは?」
「勇者様がその程度で諦めるお方ではないのは、魔女様の方が私よりもご存知なのでは?」
度重なる苦難に打ち勝ち、魔王を討伐したのだ。勇者には不屈の精神が宿っている。
「じゃ、じゃあ騎士に脅されて?」
これはあり得ない。魔女は言いながらもそのことに気付くが、口は止まらなかったようだ。
「一介の騎士が、人類最強の方を脅せるのでしょうか?」
「……わからないですね」
魔女は力なくそう答えた。
「はい。勇者様は犯人に気付き、その方を庇う為に一度自供したのです。
そして、そこまでしたということは、勇者様を問い質しても答えは得られないということでしょう。違いますか?」
ここにきて王女は勇者に問うが、勇者は俯いて答えなかった。それは答えているのと同義である。
「でもよぉ。犯人がそうだとして、何でタクマはディーテを庇うんだ?悪い事をしたのは事実だろ?」
剣鬼は思う。ここまで来ても、仲間がした事であって欲しくないと。
「それがこの事件を起こし、ややこしくしてしまった要因なのです。そして、この事件を起こさせてしまった原因は……私なのです」
場はさらに静まり返る。
犯人は魔女であり、それを庇ったのが勇者であり、原因は王女。
「タクマ様。気付いていたのですね」
「あ、ああ。ちゃんと聞こうと何度も考えたけど……勇気が出なかったんだ…」
「「「???」」」
誰も話についていけていない。当事者の三人だけが納得していた。
「ナナリー…何の話なのだ?」
「陛下…いえ、お父様。私にはずっと想いを寄せているお方がいるのです」
「タクマであろう?」
「違います」
「なに…?」
魔王討伐に向かう前、あれだけ仲睦まじい姿を見せていたのは幻だったのか?
王はこれまで見てきたモノが信じられなくなった。そんな顔をしている。
「私はタクマ様から聞いていたので。ですが聞いていないこの国の人が見れば、アレは…将来を誓い合った仲に見えることでしょう」
「すまない…こんなにややこしい事になるなら、別の手段を取ればよかった…」
「いえ、知らないものは仕方ありません。こちらの勝手で急にこの世界へと呼ばれたのです。タクマ様に非はありません」
「せ、説明して欲しいのだが?」
またも当事者だけがわかる会話に、ついに国王は痺れを切らした。
「はい。タクマさんの居た世界では、好きになった方の側に男女関係なく近づくようです。例えば、好きな方が花壇の手入れをしていれば、それを手伝うという口実で一緒に過ごしたり」
「っ!!そうか…あれはそういう事だったのだな…」
王は漸く理解したものの、自身が気付いてやれなかったことを悔やんだ。
それもそうだろう。自身の娘が好いている相手だからこそ、タクマの申し出を受け入れ、婚姻の約束をしたのだから。
「んー。じゃあ、あれか?王女様がタクマを振って、ヤケになったタクマが自供した?」
「全く違うと思いますわ……ローさん。ここの邪魔をしてはなりません。あちらでご説明しますわ」
「お、おい、ちょっ!?」
剣鬼の発言に呆れた聖女は、全てを理解したのか、剣鬼を引っ張って周りから距離をとった。
「どうやら某もこの場に相応しくない様だ。マリア殿から話を聞くとしよう」
ここに来て初めて発言した拳聖も、その場から離れていった。