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「勘弁してくださいよ、運動は苦手なんです」
「ついて来てたんだ」
背後に息切れた彼女がいた。私も大概であるが、それ以上に疲弊しているようで「ひーひー」といった、か細い高音が息の度に鳴っている。
私は振り返ることなく、このままの位置で会話を続けた。
「でも無駄。私に、創作に触れる資格は無い」
「何故ですか」
「わかるでしょ」
「……わかりません」
「わかるわよ」
「……わかりません」
「わかって」
「……」
徐々に彼女の声は弱く、そして潰れたものへと変わっていく。同じ言葉を繰り返している事だけは伝わるのだが、残念なことにそれらは、すぐ真横を通る自動車に搔き消されてしまっていた。
だが、それでも私たちは言葉を交わし続けた。私の言葉に気配が答える。こう、何度も儚く、シャボン玉のように弾けた。やがて私は、ただ泣くだけになった彼女を後にした。
靴が落ちていたのが彼女の前だったため、その時に軽く服をつかまれた。だが、誉田美蘭を見に人が集まってきていたので離れると、その手も案外あっけなくほどけた。
それはまるで映画のワンシーンのように。
一〇は軽く超えるほどの人が集まっているというのに、泣き崩れるたった一人の女性に目をやる者は、誰一人としていなかった。だが、今その人々に責められているのは、その女性ではなく、美蘭のほうで。人々は自身の正しさを疑ってはいなくて。少女はそんなことは望んでいなくて。
流れるエンドロール。人々は、青白く光るスクリーンに映る、そのラストに困惑を浮かべていた。
少しすると、それらの人たちは口元を震わせ、笑い始める。よくないことだという考えはあるものの、周囲も同じような状況ばかりであったため、わずかであったそれはすぐに大きくなって客席を包んだ。