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「ど、何処に行ってたの……?」
「私が何処に行っていたかってエトワール様に関係ある?」
「ひぃっ! な、何か怒ってる?」
リュシオルの笑顔は怖くて私は思わず背中を丸めて頭を下げてしまった。メイドに頭を下げるというのはダメだと、リュシオルは言ってくれていたが其れをすっかり忘れるぐらい、彼女の笑顔が怖かった。私が何かをしでかして、リュシオルが怒っているのではないかと思い、私は気が気でなかった。
だが、そんな私の様子を見てか、リュシオルは大きなため息をついた後肩をすくめて、顔を上げるように言った。
「何も怒ってないわよ」
「え、え、じゃあ何でそんな……」
「少なくとも怒っているのは貴方に対してじゃないわ。私も理解していたし、耳にしたことはあったけど、エトワール様に対してあまりにも暴言が過ぎるというか」
そう言うとリュシオルは、辺りを見渡した。
先ほどの貴族達みたいに私達に絡んでくる輩はいなかったが、ヒソヒソと私を見ては、何か言いたげに目線を逸らす貴族達の視線を感じ、私はまたか。といった感じに肩を落とした。リュシオルはどうやらそれが気にくわなかったらしい。彼女が私の為に怒ってくれることも、気にしてくれることも嬉しいし、同じ気持ちに、立場に立って考えてくれることも嬉しい。でもそれで、彼女が辛い思いというか、不快な思いになってしまうのはまた違うと思った。親友として、彼女にそんなことで悩ませたくないから。
私は無理矢理笑顔を作って、大丈夫だからといった感じに、彼女に微笑みかける。
「私は、気にしてないから。ほら、慣れちゃったし。そりゃあ、嫌だけどさ……って、まあこの話し何回もしていると思うけど……」
そこまで言うとリュシオルは分かっていないとでも言うように、私の方に両手を置いて、しっかり顔を見るようにと目で訴えかけてきた。
彼女が、ここに来る前に、私がついているから大丈夫よと言ってくれた言葉を思い出す。だからこそ、気にしていたのではないかと。でも、私が悪く言われると言うことは、アルバもそうだけど、私の従者というか私のお世話をしてくれている人も悪く言われているのではないかと、心配になる。現に、言われているところを見てしまったせいで、アルバも私を庇って酷いことを言われたりもして、矢っ張り何だか申し訳なくなってきた。
「エトワール様、そんなことなれちゃダメよ」
「でも、仕方がない事ってあるじゃん」
そう返せば、それでもよ。とリュシオルは言った。
確かにそうかも知れないけれど、彼女にはそこまで詳しく話していなかったけれど、中学時代の虐めもあって、半分そういうのを諦めている節もある。そりゃあ、嫌だし、言われたくもなければ聞きたくもないわけだけど、人ってそういうのを言ってストレスを解消しているところもあるからなんとも言えない。私だって、期待していたアニメが作画崩壊したらぼろくそに言ってしまうもん。そこに努力があるのを知っていても、自分が気にくわないと言うだけで文句を言うと言うことは人間誰しもあってしまうことなのだ。
でも、リュシオルが気にしてくれていたので、私はさらに偽りの表情を顔にはっつけて、そうだね。と返した。彼女は納得しないようなかおをしていたけれど、これ以上言っても無駄だと思ったのか諦めてくれた。
「でも本当に私を頼ってね。私はいつでも貴方の味方だから」
「ありがとう、リュシオル」
「私も、エトワール様の味方ですから!」
「うん、ありがとう。アルバ」
アルバも、負けじと、私もと手を挙げてくれて、それだけで私の心は温かくなった。そうだ。一人でも自分を好いていてくれる人がいればいいと思った。皆に好かれようとしなくて良いし、そんなことする必要も全くないのだ。本当に自分を必要として、心配してくれる人がいるだけで贅沢だと思う。
「リュシオルさんがいなかったとき、エトワール様は私を庇って、貴族達に物申して下さって」
「そ、そんな……そこまでのことは」
アルバは、先ほどの事をリュシオルに事細かく説明しており、リュシオルはその話をうんうんと聞きながら、自分がいればその貴族達をもっとけちょんけちょんにしてやったのになど、聞かれたら不味い内容を二人で話していた。相変わらず、過激だなあと思いつつも、そんな二人の会話を聞いていたら楽しくなった。
「アルバ様、メイドの私にさんなどつけなくても大丈夫ですよ」
リュシオルは、話の伏を折るようで悪いですが、みたいな感じにアルバに言った。それは、ヒカリに私がさんづけで呼んだときと同じ反応で、やはり階級制度というのは面倒くさいというか、そこまで気を配らなければならないのかと私は苦笑いをするしかなかった。私は、聖女という特殊階級で貴族のご令嬢と同じような扱いをしてもらっているため、下のものには三をつけなくて良いみたいな感じなのだけれど、メイドや護衛であるアルバは私に対しては様づけなのだ。今はもう慣れてしまったが、思えば、私達の現世ではそういうものは既になかった気がする。少なくとも、私の日常では。
リュシオルの言葉を受けて、アルバは首を横に振った。
「リュシオルさんは、エトワール様とただならぬ関係と見て取りました。なので、私が敬意を払う相手と個人的につけているだけなので。可笑しいこととは、承知の上なのですが。どうしても」
そうアルバは言って目を伏せた。私とリュシオルは目配りして、そういうことなら、とリュシオルは快く承諾した。
それから、私は先ほど気になったことをリュシオルにぶつけたことにした。
「それで、その……本当に何処に行っていたの? 会場に入るなり、何か何処か行っていたみたいだけれど」
「それそんなに気になるの?」
と、リュシオルは私の顔をのぞき込んだ。聞かれたくないようなことなのだろうかと思ったが、どうしても一度気になったことは気になってしまう達なので、私はうんと首を縦に振った。
リュシオルは少し考え込む素振りを見せた後、そうね……と空中に意味のない形を画きながら、ゆっくりと私の方に視線を戻した。
「少し話をしていたの」
「誰と?」
「ルーメン様よ」
リュシオルはそう言って、何故かため息をついていた。ルーメンさんとは、また意外な。と思ったが、彼がリュシオルに何のようなのだろうと、また気になることが増えた。ルーメンさんは、リースの補佐官で、てっきりリースにつきっきりかと思っていたが、たった一人のメイドであるリュシオルと話す時間が合ったなんて。もしかしたら、私のことを聞くためにリュシオルを呼んだのだろうか。だとしても、こんなリースの誕生日に?
(もしかして、ダンスのことで何か……)
そんな風に一人考察していると、話の続きをして良いかというようにリュシオルは私を見てきた。わたしは 慌てて、どうぞと彼女に発言権を回した。
「前から呼び出されてはいたんだけどね、私も忙しかったし、それでちょうどたまたま時間が合ったというか」
「はあ……」
「ちょっとした世間話みたいなものよ。内容は秘密だけど」
と、リュシオルはか細く笑った。それは、何かを隠しているようにも思えたし、別に私もそれについて何か聞こうとは思わなかった。聞かない方が良いような気がしたから。
とはいえ、彼女が秘密にしたい内容とは何なのだろうかと気になってはいた。ルーメンさんから、リュシオルに個人的な話とは。
(まさか、恋バナ……告白とか!?)
一瞬頭の中をちらりと横切ったのは、そんな内容だった。でも、リュシオルに限ってそんなことないだろうし、上流貴族出身のルーメンさんが一メイドに告白をするだろうかと言うこともまた可笑しい気がして、自分の考えを蹴った。
けど、もしそれが本当だったとしたら面白いなあ何ても思った。リュシオルはそういう話が上がってこないというか、彼女自身私にそういう話をしてこなかったからである。私と同じで、二次元が大好きで、腐女子だったから、色恋沙汰に関しては本当に凪いでいたというか。でも、告白されたことはあったとか、なかったとか。まあ、リュシオルの前世は、本当に強い女って感じがして、今もだけれど、スポーツも勉強も出来て、さばさばしていたから、そういうのを好きな男性は一定数いたし、可笑しい話ではなかった。私は、勉強は出来てもスポーツは苦手だったし。
「まあ、エトワール様には全く関係無い話だから、気にしないで。ごめんね、勝手にいなくなったりして」
「ううん。私のことかなあーって思ってたから、私のことじゃなかったらまあいいかな……あ、あ、でもリュシオルがいなくなったのは心配したから、何処か行くときには一言云ってから行ってね!」
そうね。ごめんなさい。とリュシオルは頭を小さく下げた。まあ、本当にいきなりいなくなったのは驚いたから、これからは、きっと行ってくれるだろうと期待を込めて私はにこりと微笑んだ。
それからふと、ルーメンさんに会ったと言うことはリースにもあったのかという話が聞きたくて、私はリュシオルにそれについて聞いたが、どうやらリースは見ていないらしい。彼が、本日の主役だし、もうそろそろ来るだろうと思っていたのだが。
「本来、私が会えるような階級のお方じゃないわ。皇太子殿下は」
「ま、まあそうだよね……」
もし、リュシオルがリースにあっていたら、どんな服装だったとか何か言っていたとか、聞きたいところだったが、聞いて何かになる話しでもないし、リースの姿は自分で確かめたいとも思った。
(ヒロインストーリーで、一応リース様の姿はでていたし、でも今思えばあれは晴れ姿だったわけだから、きっといつも見ているリース様より、何倍も格好いいんだろうな……)
ヒロインストーリーでは初っぱなから、着飾ったリース様が出てきたけれど、エトワールとしてここで過ごしていくと、リースの普段着というかその服と、晴れ姿はやはり別物だと言うことが分かった。分かったというか、そういう貴族って服も違うんだなあと言うことがみにしてみわかった。だから、今日は今日しか見えないリース様を存分に拝むんだという気持ちで、私はグッと胸の前で拳を握った。すると、暫くして会場に声が響き渡った。
「皇太子殿下のご入場です」