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「芳乃がつらい目に遭う事はないでしょうか? 神楽坂さんは大企業の御曹司ですし、立派な地位にいる成人男性が決められた事とはいえ、ご両親の反対に遭ったりなど……」
「問題ありません。両親には既に相談済みで、快諾をもらっています」
そこまで手を回していると思わず、私は瞠目する。
「今後、芳乃さんに恋人ができた場合は、お相手を勘違いさせてはいけませんので、その時に関係は解消したいと思います。ですがお店への援助の話を白紙に戻したりはしませんので、ご心配なく」
そう言われ、叔父は言う事をなくしたようだ。
私たちは「どうする……?」という感じで視線を交わし合い、そのあと母が決意して口を開いた。
「それでは、どうぞ宜しくお願いいたします。必ず、ご恩に報いられるよう、店を軌道に乗せていきますので。私自身、今まで主人の手伝いに甘んじていましたが、もっと経営や蕎麦の事について学ぶよう、努力いたします」
「期待しています。それでは、今後とも宜しくお願いいたします」
話は決まり、そのあと副社長は父の仏前に座ってお参りをする。
彼が目を閉じて手を合わせている姿を見て、とても不思議な気持ちになった。
雲の上の存在と思っていた人が、父が打つ蕎麦のファンだったという巡り合わせが、ピンチに陥った三峯家を救う事になるなんて……。
(あとはホテルの合否か……。受かったら副社長のためにも一生懸命働きたい)
副社長が秘書を伴って帰ったあと、私たちはささやかながら、問題が解決したお祝いにビールを飲んだ。
**
その後、合格通知がきて、私は一安心する。
店の買収に関しても、副社長の秘書が積極的に動いて、お弟子さんの店に掛け合ってくれたり、融資してくれていた銀行との間を取り持ってくれたりで頭が上がらない。
父が亡くなったのは六月の上旬で、私が面接を受けたのが六月の終わり頃。
七月初めに副社長が私たちの家に来て問題が解決し、二週目の週末には私は副社長が住む皇居添いのマンションに引っ越す事になった。
副社長に言ったように、私の荷物はスーツケースや大きめのリュックに収まる程度だ。
土曜日の午前中、副社長がまた実家まで車で来てくれた。
秘書さんが荷物を車のトランクに入れてくれ、私は副社長と共に優雅に後部座席に座って移動だ。
最後に母に挨拶したあと、車は滑らかに走り始めた。
「カフェラテをどうぞ。途中で買ってきたんだ」
「ありがとうございます」
さすが高級車で、運転席、助手席の後ろには飛行機のようにモニターがついていて、テーブルまである。
充電用のコンセントやUSBポートがあるのは勿論、足元にはフットレストもあるとか。
私は慣れない高級車にビビって緊張しながら、まだ温かいコーヒーを手にする。
「先日、ホテルでミルクを入れてたから、勝手にカフェラテにしたけど大丈夫だった?」
「はい。……お恥ずかしい事にブラックは苦手で、無糖のカフェラテが一番好きです」
「そう、良かった」
これから家政婦として彼のお世話をするからか、今日の副社長はとてもフランクな話し方をしていた。
「先日、ご家族の前では同じフロアの家でと言ったけど、本当に俺と同じ家でいいの?」
肝心な事を言われ、私はドキッと胸を高鳴らせる。
「……恋人役をするなら、同棲していないと親御さんに怪しまれると思います。やるからには完璧にこなさないと意味がないと思いますから。……もしも同じフロアの家が開いているなら、万が一家族が心配して訪れる事があった時、副社長が保有している空き家を、ダミーの家として使わせていただけたらと思います」
「分かった、そうしよう。……それで、君は俺の事を暁人って呼んでくれないの?」
「えっ……」
私は驚きのあまり、窓側に身を寄せる。
「そんなに警戒しなくたっていいじゃないか。これから俺たちは恋人(仮)になるんだよ? 名前で呼び合わないと変に思われる」
「そ……、そうですけど……」
「だよね? 芳乃」
至近距離で美形にニコッと笑いかけられ、心臓に悪い。
「う……、うう……。……はい。暁人さん……」
照れてうめくように言った私を見て、彼は「今はまだ〝さん〟づけでも仕方ないか」と呟いてコーヒーを飲む。
「今夜はお祝いにディナーに行こうか。店を予約してあるけど、フレンチは好き?」
「だ、大丈夫です」
フレンチと聞き、一瞬ウィルと行った店が脳裏をよぎる。
けれど私はそれを振り払って笑顔を作った。
「君のためにワンピースや靴、バッグとかを用意したから、それを着てくれると嬉しいな」
「えっ!?」
思いも寄らない事を言われ、私は大きな声を上げた。
コメント
2件
ウフフ…暁人さん、溺愛スタートかな⁉️❤️❤️❤️🤭 ワクワクします🎶
シンデレラストーリーの始まり始まり〜かな?ワクワクしています♪