テラーノベル
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王都の再建が落ち着き、人々の生活に穏やかな日常が戻ってきたある日のこと。
かつては反乱の爪痕で荒れ果てていた庭園も、今では元貴の術によって四季折々の花が咲き誇る、静かな癒やしの場所となっていた。
けれど、そこに立つ元貴の表情は、どこか晴れない。
「……うーん。やっぱり、少し……いや、結構、お腹周りが……」
国王としての執務が増え、滉斗と共に瓦礫を片付けていた頃に比べて運動量が減ったせいだろうか。最近、お気に入りの上着のボタンが少しきつくなった気がして、元貴は鏡の前で深くため息をついた。
国民の前では「慈愛の王」として凛としていなければならない。ましてや、冷徹な美貌を持つ滉斗の隣に並ぶのだ。これ以上、だらしない姿は見せられない。
「……よし。今日から隠れて、少し食事を減らそう」
そう決意した元貴だったが、滉斗にこの計画を話せば、間違いなく「そんな必要はない」と一蹴され、逆に栄養のあるものをこれでもかと食べさせられるのは目に見えていた。
元貴は、滉斗に内緒で、一人寂しくダイエット計画を遂行することにした。
その日の晩餐。
豪華な食事が並ぶ中、元貴は一口、また一口と、申し訳程度に食事を口に運んでは、早々に箸を置いた。
「……元貴。食欲がないのか?」
隣で食事をしていた滉斗が、怪訝そうに眉をひそめる。
「え? ああ、うん……少し、お腹の調子が悪くてね。もう十分だよ」
「そうか? 顔色が少し悪い気がするが」
滉斗の鋭い視線が、元貴をじっと見つめる。元貴は冷や汗を流しながら、無理やり笑顔を作ってごまかした。
「大丈夫だよ、ひろぱ。ちょっと疲れただけだよ。僕の術で、すぐ良くなるよ」
そう言って、元貴はその場を切り抜けた。
翌日からも、元貴の「隠密ダイエット」は続いた。朝食をスキップし、昼食は野菜ばかり、夕食はスープだけで済ませる。
元貴の術は慈愛に満ちているが、自身の体力を削って行うことも多い。食事制限と日々の術式の行使が重なり、元貴の身体は急速に限界を迎えつつあった。
数日が過ぎた頃。
いつものように元貴が一人で植物の世話をしていると、突如として眩暈に襲われた。視界がぐにゃりと歪み、膝から崩れ落ちそうになる。
その時、凍てつくような冷気と共に、大きな腕が元貴の身体を支えた。
「……やはり、そうか」
低く、どこか怒りを孕んだ滉斗の声が、耳元で響いた。
気づけば、元貴は滉斗の腕に抱きかかえられていた。いつもの冷徹な表情ではなく、明らかに動揺し、困惑した表情で元貴を見下ろしている。
「あはは……ひろぱ、驚かせちゃったかな」
「驚くどころではない。……貴様、まともに食事を摂っていないな?」
鋭く問い詰められ、元貴は言葉に詰まった。滉斗は、昨晩の残りのスープを全部隠したことや、最近元貴の身体が以前よりも明らかに軽くなっていることに気づいていたのだ。
「……少し、太った気がして。ダイエットをしてたんだ」
「……はあ?」
滉斗は呆れたような、あるいは呆れ果てて言葉を失ったような顔をした。
彼にとって、今の元貴の姿は、「太っている」などという言葉からは程遠い。むしろ、日々の激務と無理な術の行使で、以前よりもずっと華奢で、守らなければすぐに折れてしまいそうなほど脆く見えていた。
「元貴……貴様、自分の身体がどんな状態か、分かっているのか?」
「え? ……健康、だよね?」
「痩せすぎだ。これ以上痩せたら……」
滉斗は元貴を抱きしめる力を少し強めた。その瞳には、かつて戦場で見せた冷酷さとは違う、底知れない恐怖が宿っていた。
「……また、お前が消えてしまいそうで、怖いんだ」
滉斗のその言葉に、元貴は目を見開いた。
冷たい氷剣で敵を殲滅してきた最強の剣士が、自分の痩せ細る姿を前にして、震えている。それは、あの別れの日、翡翠の首飾りを渡した時の滉斗の表情と重なった。
「……ごめんなさい、ひろぱ」
「謝るくらいなら、今すぐ死ぬ気で食べろ。……俺を、一人にするな」
滉斗の腕の中で、元貴は自分の計画がどれほど滉斗を傷つけていたかを知った。彼が求めているのは、完璧な見た目の王ではない。自分と共に生き、同じ景色を見る、愛するパートナーとしての元貴だった。
その夜、元貴は滉斗に付き添われ、山のような食事を完食した。
久しぶりの満腹感に、元貴は心地よい満足感を覚えながら、眠りについた。
隣では、滉斗が元貴の寝顔を見つめながら、その身体が再び弱らぬよう、一晩中冷気を纏わせて寄り添い続けていた。
「もう二度と、そんなことはさせない」
小さな誓いと共に、最強の守護者は、愛する人の未来を、その身体ごと守り抜くと心に誓ったのだった。
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コメント
3件
わあ✨素敵🤩🤩🤩元貴くんの術が少しレベルアップしてひろぱがテンションMAXになるとこ見てみたいです!
ひろぱがお仕事で遠くへ行ってしまって…少しの間帰ってこない…的なのを見てみたい!