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5 - 旗とてのひら

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2025年05月06日

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第4章 旗とてのひら



学校帰り。

コンビニで買い食いした。

門限なんて破って、暗くなるまで遊んだ。

暖かくなったら川に飛び込んだ。


でも、顧問が送る日だけはそれも出来なかった。



体重管理の日は毎月あった。

部活前か後かくらいな誤差はあったけど、それをしないと「試合に出さない」と言われたからまあもう仕方がない。


方や同級生の私への片想いも大きくなってたから、応えてあげられるならあげたいとも思った。


きもちわるい女だな。と自分でも思った。


私の好みを3次元で探し始めた。

俳優さんなら花沢類役の人が好き。見た目も声も。松潤は嫌。

この人小栗旬って言うんだ。カッコイイ。

こんな人が好き。

背が高くて、顔も1番好み。


私の周りにはそりゃ居なかった。



ちゃんと私を好きな人を実験のようにするのは気が引けた。

仮に、もし、この歳でそういうことになったとして。

それでもいいのかも、と思えるなら相手が私を好きじゃなくても私が好きでありたかった。


だからなるべく背の高い人で恋人を探した。


その想いを寄せてる子には、2度目に告白された時に、


「もし、高校生になってもまだ好きで、同じ学校なら付き合ってもいいよ」


そう、返した。

この言葉すら周囲には広まってたけど、もうどうでもいい。


強いて言うならそうやって、周りを味方につけて、私の好みを聞いてくれないソイツへのささやかな嫌がらせだったと思う。


中学の大会では出る数に比べて優勝は減った。

けれど市の大会はまあ相変わらずで、都や地区の規模になるとどうしても3年に劣ることもあった。


それでも2年時。

1個下で強い女の子が入ってきた。

その子は小柄で可愛くて、本当に可愛い。

ぴょこぴょことしてて、ニコニコ笑うその子は本当に女の子だった。


先鋒向きのその子の剣道が揃った年、3年の先輩達が次鋒、中堅、副将を埋めてくれて。2年の私が大将だった。


私がこの学校で唯一、関東を狙える年の団体戦。


ちゃんと強かった。私たちは。

個人の強さより、楽しくて、明るくて、チームで勝ってた。


都でベスト16で、因縁らしい相手と当たった。先輩たちが1年の時に教わってた、顧問の先生が相手中学の監督。

意外とドラマチックなことってあるものなんだなとなんか喜んでた。


スコアはギリギリで、大将戦までもつれ込んだ。

息を吸って、吐いて。

私が勝たないと負ける試合。

1本勝ちで代表選。2本勝ちなら勝ち。

引き分けは負け。


心臓がすごくゾワゾワした。



ピーっと笛の音が聞こえて、主審の手が上がって。


私が一本勝ち。


そう、代表選になった。

本当にドラマチックだった。


主審1人副審2人が会場に入って、少しだけ驚いた。


暗黙のルール的な感じなのか、その所属選手がいる市の人はあまりその試合には立たないのが一般的だったんだけれど。

その試合の副審に、同じ市のおばさんの先生が立った。


その試合、東京武道館のひと会場なのに、私の市の選手男女問わず注目をしていたと思う。


私が打てば拍手が上がる。

チーム以外からの拍手は久しぶりだった。


5分くらいで一旦休憩を挟むほど、長い代表選。

何度も拍手は上がるのに、何度も私も捉えたのに。審判1人はあげるのに。


そのおばさんは絶対に上げなかった。


一瞬の休憩。

先輩たちが背中に手を当てて、顧問の声も悪くないって。

滝のように流れた汗は面をしてて拭えないけど、私は会場の外に出ても相手から目が離せなかった。


試合に出る瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。

観客席のお母さんを見た。


お母さんも頷いた。



入って、また構えて。

なんで上がらないのか。

悔しいけど、片方の副審や主審のどちらかが死角で見えない判定をする。

そこが上げれば勝ちなのに。


ひゅっ、と呼吸を吸った。


その瞬間。

相手の小柄な大将の旗が上がった。



人の期待に応えられなかった。

それもまたいい思い出。

負けた瞬間、よく分からず、最後の礼をして会場を出た瞬間。


「ごめんなさい」


って言葉がでた。

先輩達もみんな泣いてて、私が最後勝てばよかっただけなのに。

勝てなくて。


なのにみんな、そんなことないよって頭も背中も沢山撫でてくれて。

本当に申し訳なかった。


期待をさせてしまったのに。

私はしばらく立てなかった。


勝たなきゃいけない時に勝てないことがどれだけ苦しいのか、個人戦の時とは全然違う。

いくら殴られても、いくら蹴られても、怒鳴られても。

そんなものとは違う。


消えたかった。

今だけは本当に誰も見ないで欲しかった。


次々と泣いてる私を労う他のチームや学校の子達が嫌い。

うるさい。


この目立つ道着も。髪型も。全部ぜんぶ嫌。


そっとしておいてよ。


声掛けてくれる人たちみんな私を心配してた。

先生たちもわざわざ足を止めて。


「いい試合だった。」

「あの試合はでもお前の方が何本も入ってた。」


そうじゃない。

声を出して泣けない私は、鼻をすする音だけさせながら、先生たちの話を一つ一つ聞く。

もう負けたのに。



「咲弥」


顧問が私一人を呼んだ。


「よく頑張ったよ」


黙れ、犯罪者。


なのにどうして、

欲しい言葉をかけるのがこの人なの?

本当に、本当に。


大人もみんな嫌い。

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