テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
8
えれめんたる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……嫌。私の体は、傷つけさせない」
鏡の中に映る自分は、やつれ果てていた。
人形が喋った「次は、だれ?」という言葉が耳にこびりついて離れない。
部屋の隅に鎮座する人形は、今や赤ん坊ほどの大きさに見える。
その肌は不気味に脈打ち、部屋全体に生臭い獣のような匂いが充満していた。
(溜まった不幸を吐き出させなきゃ、私が壊される……)
SNSの送り主の言葉が頭をよぎる。
『自ら不幸を呼び込めば、配当は倍になります』
私は震える手で、キッチンにある最も鋭いナイフを握った。
自分の腕を切り刻む?
いいえ、そんなの痛いし、傷跡が残る。
美しく、勝ち組になった今の私には、そんな泥臭い真似は似合わない。
「……そうだ。私が『事故』に遭いそうになればいいんだよね」
私は真夜中のベランダに出た。
10階の高さ。手すりに足をかけ、身を乗り出す。
下を見下ろすと、足がすくむ。
でも、バッグの中の人形が「ヒッヒッ」と喉を鳴らすのが聞こえた。
「ほら、見ててよ。死ぬかもしれないよ、私は!」
わざとバランスを崩し、虚空へ体を投げ出すふりをした。
その瞬間、内臓が浮き上がるような強烈な重力。
死の予感が全身の細胞を焼き尽くそうとした、その時。
ドォォォォン!!
階下で、凄まじい衝撃音と悲鳴が上がった。
私は、手すりを掴んで平然と立っていた。
一滴の汗もかかずに。
吸い込まれた「死」のエネルギー。
それが向かった先は、マンションの入り口付近にいた見知らぬ配達員だった。
上階から落下してきた巨大な看板が、彼を直撃していた。
「……ふふっ。あはは!」
涙が出るほど笑った。
私の「死の恐怖」という最高の御馳走を食べて、人形は満足そうに目を細めている。
そして、私のスマホには通知が届く。
『おめでとうございます。臨時ボーナス:300万円が振り込まれました』
「安いものね。他人の命なんて」
私はナイフを床に放り捨てた。
でも、私は気づいていなかった。
満足そうに笑う人形の背中に、私の一番大切な人
恋人の健斗の名前が、血の文字でじわじわと浮かび上がっていることに。