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えれめんたる
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「健斗、今日のご飯、何がいい?」
幸せな恋人の会話。
でも、私の指先はガタガタと震えていた。
クローゼットの奥から聞こえる、あの厭な呼吸音。
ドクン、ドクンと、部屋の壁まで脈打っているような錯覚。
(健斗にだけは、行かないで……)
私は必死に祈った。
でも、人形は私の願いなんて聞き入れない。
私が「得」をすればするほど、支払いの矛先は
私の「一番近くにいる人間」へと絞られていく。
「美月? 顔色悪いよ。……あ、あつ!」
キッチンで料理をしていた健斗が、突然叫び声を上げた。
見ると、コンロの火が異常な勢いで燃え上がり
健斗の腕をなめるように襲いかかっている。
「健斗!」
駆け寄ろうとした私の足が、何かに引っかかった。
床に転がっていたのは、クローゼットに隠したはずの、あの人形。
真っ赤な目で私を見上げ、口を歪めて笑っている。
(……待って。私が、火傷しそうになったから?)
そうだ。
さっき、私が鍋のふちに触れそうになった。
その「熱い」という一瞬の不快感が、何倍もの熱量となって健斗に転送されたのだ。
「うああああ!!」
健斗の腕に、どろりとした火傷が広がっていく。
私はそれを見て、恐怖と同時に、最悪な感情を抱いてしまった。
(……よかった。私が、火傷しなくて)
一瞬でもそう思ってしまった自分に、吐き気がする。
でも、人形はその醜い心を逃さない。
健斗が悶絶する中、私のスマホに通知が届く。
『おめでとうございます。恋人との仲が深まる“特別なプレゼント”をお届けしました』
玄関のチャイムが鳴る。
怯えながらドアを開けると、そこには高級なペアリングの箱が置かれていた。
健斗が血を流しているその横で、私は光り輝くダイヤモンドを見つめる。
「……あ、はは。綺麗」
健斗の悲鳴が、遠くのBGMのように聞こえ始める。
私は指輪をはめた。
その瞬間
指輪が肉に食い込むように締め付けられ、私の脳内に、人形のしわがれた声が直接響いた。
『もっと……もっと大きな“絶望”をちょうだい。そうすれば、あなたは永遠に美しくいられるわ』
私は、健斗の傷口を見つめながら
次の「不幸」をどうやって作り出すか、無意識に考え始めていた。