霧斗が俺達と同じ地面を踏みしめる。
まるで操り人形みたいに、身体に力が入っておらず、ふらふらとして立つことすら難しいようだ。
おぼつかない足取りで俺達に近づいてきた後、5Mほどの位置で止まった。
その後、一瞬しゃがんだと思えば、そこから立ち上がったと同時に、彼の両腕が化け物の腕と化す。
関節が嫌というほど強調され、指先が非常に鋭くなり、なんというか……全体的にごつくなった感じ。
彼の顔が恐怖と苦痛に歪み、その後髪が異常に伸び始める。
異形の腕で顔を抑え、次に顔を拝んだのは彼が彼ではなくなった時であった。
要は、bloodの神器になって俺達にもbloodを視認させ、攻撃を可能にしてくれたというわけだ。
で、猫手みたいな状態になって(猫手より酷い状態ではなかったが)、大量に体の内部の様々な物を吐き出す。
しかし、その姿に俺達は驚愕した。
「僕が幽霊だったころに、幾度かbloodを見かけたんですけど、これは……初めて見る姿です」
「え?じゃあ……今俺らの目の前にいるのは」
「bloodじゃない……別人、ということですか」
確かに、見た目としては俗に言うポニーテール、弓道とかやってるやつが着てそうな服(巫女っぽくも)完全に女だし、何かが起こらない限りbloodはこの見た目ではないような気がする。となると、
「まだ本物は出てきてないってことか」
「なんなら、第一形態がこの女性で、第二形態、もしくはそれ以上の形態で本物のbloodが出てくるのかも」
ゲームとかでよくある形態変化と同じように考えていいらしい。
そうなれば話は早い。第一形態の女を殺さなければ、本当のbloodは出てこない。つまり、偽物ではあるもののまずはこの女性を殺すことが先決だ。
全員がその共通認識を持ったら、いくつかの声が混ざったような声で、第一形態の女が話し出した。
「初めまして、いや二度目まして、諸君!おそらく諸君はこのプロジェクトに関しての真相を追い求めていることであろう、そうなれば私の名前も必然的に聞いているだろうな。私の名は黄楽天。付喪黄楽天だ」
その声に反応するように、切斗が軽く後ろにのけぞった。
彼はなんでかよくわからんが幼少期から黄楽天の神器として活動していて、俺と初めて会った時も既に神器だったらしいので、突如出てきた黄楽天に対し何か思うところがあるのだろう。
そんな切斗の様子を見て、黄楽天は豪快に笑った。
「あははは!!やっとおさらばできた神様と、まさかすぐに会うことになるなんてな!驚きだろう、切斗?」
「いやマジで……うん……本当に二度と会いたくなかった」
「ここでお仲間と共に私を倒せばいいだけの話ではないか。そうすれば、二度と会わなくなるだろう?ま、私だって決して弱いわけではないからな、全力でかかってくるがいい」
「全力だしたらblood戦に響くんですけどね……」
「おや、そのことももう気付いているのか。じゃあそのことについて教えてやろうではないか。私はbloodと生前兄弟関係にあった者だ。私には二人の兄がいる。名は憶清天、そして善穢天。私と憶清天と相対すれば、自動的に善穢天と会えるだろうな」
「憶清天はともかく、善穢天って?」
「bloodの神化人時の名前だな」
「なるほど。……ちょっと待ってください。憶清天ってjealousyの名前でしたよね?ですが、現在jealousyは船外にいるのでは?」
「まあ……ちょっと色々あってな。詳しくは本人から聞き出したらどうだ」
「……???」「小学校行ってない天竺さんには難しいですよね」「おい地味に煽るな」
「つまり、目の前にいる奴をぶっ飛ばせって言われてる」「なんか大切なことをすっ飛ばされたような……」
「……彼女の能力が不明な以上、作戦が通じるか分かりませんが、作戦を続行しましょう」
「もう撃てってか?」「……流石に急に禁忌の能力を使うのはリスキーすぎますね」
「ほう、諸君らにも何らかの策があるというのか。まぁ、まずはーー」
黄楽天は、自身の右腕を俺達に向けると、その腕を槍のような形に変形させた。
「ーー小手調べと行こうじゃないか、諸君」
彼女の槍から赤い矢印が可視化された状態で出現した。
変に平面的な見た目をしていて、単純な方向しか指せなさそうだなと感じた。
矢印は当然俺達の方を向いている。
「これは……」
「黄楽天は直進の神様だから、そういうことだろ」
「避けた方がよさそうだよな」
俺達は、矢印が指し示す方向から遠ざかるように動く。
結果、俺達が予想していた通り矢印の方向に黄楽天は進み、槍がそちらに突き刺さる。
大広間の壁に穴が開くほどの高火力だが、槍ということもあり単体性能が高いらしい。
「ふむ、攻撃の動き・狙いが見え見えすぎて拍子抜けしていると見えるな。だが、その程度で神は超せん。私の真骨頂は、まだまだこれからだからな」
「流石にこれが全力とは思っていませんけれども。とはいえ、ここからどのような方向に強化されるんでしょうかね」
「今に分かる事だ。刮目せよ、これが神の力だ!!」
黄楽天は再び先程と同じ動作をする。
槍を俺達に向けて、矢印を俺達の方に照準を合わせる。
しかし、矢印の数が異常だった。
一つ二つどころではない。
10、20、いや30……以上。
とにかく、ものすごく多い数の矢印が現れた。
今までは色も赤限定だったのが、青、黄、緑、紫……なんてカラフルなんだ、クソが。虹でも作れそうな勢いだ。
そして、全てが俺達に向かっている。
さっきまでの攻撃とは比にならないほど、威圧感を感じられる攻撃だ。
「遥かにまずい雰囲気がするんだが……」
「全員無傷で耐えるなど言語道断。さぁ喰らうがいい、第一神力・示相天花!」
矢印が一斉に俺らへ向かってくる。
俺達がそれを避けるように壁に沿って走り出すと、矢印も追尾するように走ってくる。
30はありそうな矢印が一気に俺達に来たらまずいと思っていたが、その矢印たちは一秒ごとに一つ一つ襲ってくる形式らしい。
一本目が壁に当たって消えたら、二本目が現れまた俺達を追尾する。
じゃあ大丈夫か、なんて思ったが、この技の真骨頂は単なるものであった。
ごくごく単純に、難しい。
思えば、彼女を倒せばこの戦いが終わるわけじゃなく、さらに第二・第三形態がある。
だから全力を出してはいけない。それが俺達の総意だ。
一つずつやってくる矢印を避けていくには走り続けないといけない。
そして、この技を終わらせるには黄楽天にダメージを与えないといけない。
それは、俺達が走りながら能力で黄楽天を撃たないと、この技、というかこの地獄は終わらないことが示唆される。
もうそれだけで単純にムズイのだが、俺のレーザーは溜めないと撃てないし、天竺は小指を背負ってて何もできないし、指揮は妨害特化で単純な攻撃はできないし、messiahの禁忌の能力はリスクがでかくて今は使えない。
messiahの第一能力、それから指揮の能力で矢印の方向を変えられるらしいのだが、矢印自体を消せるわけじゃないらしく、根本的に解決できていない。
それも、途切れることなくやってくる矢印達の数に見合っておらず、余裕で間に合っていない。
つまり、この地獄を終わらす手段は俺達に無い。
俺がタメなしで撃てれば話は別だが、溜めないと射程が伸びないので射程的に中央から矢印を飛ばしてる黄楽天に届かない。
「おい、どうした!この技はいたって単純な技のはずだが?この程度で私を倒せぬと思うなら、のちの兄たちに勝てんぞ!!」
「……この矢印、マジで途切れねぇな!これじゃ全然あいつに攻撃できねぇ」
「もう禁忌の能力使おうぜ!!あいつぶっ殺せるって!!」
「それだけは許可できません」
「なんでだよ!!もうそれぐらいしか……だって、星斗は溜めないと攻撃できないんだぞ、それにお前たちはそもそも能力が」
「……本当にタメなしで撃てないんですね、星斗くん」
「撃てるけど、タメなしだと黄楽天に射程が届かない。撃っても意味無いし、代償が発動するだけだ」
「な?やっぱ禁忌の能力使おうぜ、別に減るもんじゃないし」
「まだ代償が分からないから危ないって話だったんじゃ」
「あー分かったよ!でも私が第一能力でちまちま矢印の方向変えるのも飽きたんだよ、それに矢印自体を消せねーとなんも意味ないし!」
「その通りだ。当然俺様は小学校に行ってないから難しい事はよくわかんねぇしし、こういう時は指揮の出番だろ」
「小学校いじりも自虐ネタになったんですね」「お前のせいでな」
「で、実際どうなんだよ、指揮」
「……もう少し、時間が欲しいです」
と、指揮が言った時だった。
一つの矢印が飛び出す。
指揮の方向曲げも届かず、messiahの包囲網も潜り抜けた矢印。
それ自体に、何か特別な意味はない。別によくある事だ。
でも、その矢印は俺達の予想を反する動きをした。
その青い矢印は壁に突き当たる角度だった。
何がどうなっても、壁にまっすぐ当たる角度だ。
しかし、その矢印は、
壁に突き当たる直前に天竺と小指の方向に向かった。
今まで、矢印は飛ばされた方向にまっすぐ飛んでそのまま壁に当たるものだと思っていた。
しかし、どうやら対象物を追いかけるホーミング機能もあるらしい。
まあ、能力で方向を曲げられる時点で察しておくべきだったが……
天竺は小指を背負って走っていて(あいつの体力は化け物だ)、正直危ないとは思っていた。
でも小指があまり走れないらしく仕方ない、という結論に至っていた。
これまでもなんとかなっていた。でも今回は違う。
小指の腹付近に矢印が迫った時、天竺が後ろに小指を強引におろした。
つまり、小指が被弾しないようにあえて小指をおろしたことになる。
そのおかげで小指は助かっていたが、
矢印は天竺の左ひざ付近に直撃した。
「だから言ったろう、全員無傷なんて不可能だと。まあ、人を背負っておいてここまで動けたと言うだけであっぱれじゃないか」
「はぁ……いってぇな、割と……」
「足がやられたのか」「みてぇだな。ま、動けなくはないくらいだけど」
「改めてすげぇな」「職業:盗賊をなめんなよ?」
なんて言いつつ、天竺の表情は少し硬いようにも見えた。
赤色ほどやばい感じはしなかった(壁に穴が開いたりはしていない)が、間違いなく痛いんだろう。
そして動けるらしいが、この被弾は避けられなかったとはいえかなり痛手だ。
「て、天竺さん、ごめんなさい……僕が役立たずなせいで」
「……」
「ぼっ、僕……今のところ何もできてないから……」
「今のところ、な。……指揮、もうそろそろいいんじゃないか」
「まさか、ここまで最初から苦戦を強いられるとは思いませんでしたけれども。……ということは”準備”ができたんですね」
「おう。もういつでも行ける」
「……やるんですか」
「はい。溜めずにそこそこの射程を出す方法なんて一つしかありませんからね」
「あの能力で、あの代償な……頑張る」
「役立たずから解放されるんじゃないですか?本当の意味で」
「ほう、今度は諸君らのターンか。見せてもらおうじゃないか」
「……秘策、とやらを」
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