テラーノベル
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幕が降り、照明が明るくなる。
次々と外へ出る人達を追って、俺と仁人も劇場を後にした。
「あーー!面白かった!! 仁人はどうだった?」
「お、俺も!!来てよかった。」
「ははっ、そう言ってくれると誘ったかいがあったわ。」
満足そうな仁人の顔を見て、こっちの心も満たされる。
まあ正直に言うと、後半辺りで仁人の手が触れてから一切映画の内容覚えてないんだけど……。
手が当たってしまったのは事故だとしても、そこからずっと触れたままだったのは何でだろう。
仁人自身、気づいてなかったのか。
それともわざとなのか。
わざとだとしたら、物凄く心臓に悪い……。
「勇斗くん、次どこ行くの?」
「あ、次はね。あそこ!」
俺が指さしたのは、映画館の向かいにあるゲームセンター。
仁人はちょっと苦手かなと思ったけど、せっかくなら、あまり行ったことのないであろう場所に連れていきたかった。
「ゲームセンター……あんま行ったことない、、」
「嫌ならやめとくけど?」
「ううん、嫌じゃない。勇斗くんとなら行ってみたい。」
「よし、じゃあ行こ!」
俺の声に笑顔で頷く仁人。
俺たちは、映画の感想を言い合いながらゲームセンターへと向かった。
「わーー!!!勇斗くん、待って待って!!!!」
「っしゃーーー!!いけ!いけー!!」
「あっ、あっ!やった!!抜いた!!!」
「はぁ!?仁人今の上手すぎ!?は、は、やばいやばい!もう終わる!!あーーー!!!」
「………………や、やった!!勇斗くんに勝った!!!」
「負けたァ~…………。」
俺のモニターに青紫色の文字で『LOSE』と表示される。
格闘ゲーム、リズムゲームと一通り遊んだ俺たちは、レースゲームを楽しんでいた。
「あ~面白かった。俺、ゲーセンがこんなに楽しいところだなんて思わなかったよ。」
仁人の笑顔につられて、俺の口角も自然に上がる。
確かに俺も、今まで来たゲーセンの中で一番楽しいかも。
というか、仁人と一緒なら勉強だって映画だって、全部が楽しい。
こんなの初めてだな……。
「いやー、ゲーム楽しかったね仁人。」
「うん。……最後っ…ふふっ、最後の勇斗くんの顔、……あはは…ヤバかった…」
大きな目を細めて、口元を隠しながら無邪気に笑う仁人を見て、胸が少し熱くなる。
その笑顔はちょっとズルいって……。
「ちょっと、笑いすぎなんですけど?」
「くすっ……ごめんごめん。」
「もー、しょうがないなぁ。…………あ、そうだ。俺、ちょっとトイレ行ってきていい?」
「うん、待ってるね。」
小走りでトイレへ向かい、鏡の前で軽く身だしなみを整える。
トイレから戻ると、UFOキャッチャーを覗き込んでいる仁人を見つけた。
「お待たせ。」
「あ、おかえり。」
「仁人何見てたの。…あ、このぬいぐるみ!」
仁人が見ていたのは、前に俺とお揃いで取ったあのスタンプのチワワのぬいぐるみ。
「あの時のスタンプのやつじゃん!ぬいぐるみあったんだね。仁人、これ欲しいの?」
「うん、ちょっとだけね?でも俺こういうのやった事ないから取れないと思うし……。」
「じゃあ俺に任せて。取ってあげる。」
「えっ!?悪いよ!」
「いいから、いいから。」
機械にコインを入れ、レバーを動かす。
ぬいぐるみを掴んだアームは、そのまま離すことなく、ぬいぐるみを運んだ。
ぽとん、という音と共にぬいぐるみが落ちてくる。
まさか一発で取れるとは自分自身でも思っていなくて、一気にテンションが上がる。
「やった!ほら、取れたよ!!」
「すごい……勇斗くん、すごい!」
「はい、仁人にプレゼント。」
「あっ、ありがとう……////」
俺がぬいぐるみを差し出すと、それを受け取った仁人はぎゅっと抱きしめた。
「喜んでくれてよかった。…沢山遊んで疲れたでしょ。そろそろ帰る? 」
「うん、帰ろっか。」
駅までの帰路、仁人は腕にあるぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
ちょっとぬいぐるみが羨ましいと思ったのは内緒にしておこう。
ちょうど夕方の電車が混む時間になってしまった。
仁人と乗り込んだ電車は、少し身動きが取りにくい車内だった。
「結構混んでるね、仁人立ちっぱで大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。」
仁人がドアに寄りかかり、俺がその前につり革を持って立つ。
他愛もない話をしていると、駅到着のアナウンスと共に反対側のドアが開く。
すると同時に、大量の人が流れ込んできた。
人に押されて、前にバランスを崩す。
咄嗟に、目の前にいた仁人の顔のすぐ横に手をついてしまった。
「っあ……ご、ごめん…。」
「ううん……だい、じょうぶ…////」
あの時の保健室と同じか、それ以上に距離が近い。
仁人の吐息が俺の首にかかる。
ちょっと動くと顔が当たってしまいそうで、一切身動きが取れない。
動揺した気持ちを落ち着かせようと、深く息を吸うと柔らかい香りが鼻先をかすめる。
なんか、仁人いい匂いがする……。
一度意識してしまうと、もう腕の間にいる仁人のことしか考えられなかった。
もっと触れたいと思ってしまうのは良くないことだろうか。
湧き上がる想いが抑えられず、俺は仁人に気付かれないよう、そっと髪にキスした。
満員電車から解放され、どっと肩の力が抜ける。
自分が行ってしまった事への後ろめたさで、仁人の顔が見れない。
俺一体何してんだよ……。
「じゃあ、勇斗くん。俺の家こっちだから。」
最寄り駅を出て少し歩くと、仁人が口を開いた。
「あ、うん。……じゃあまた、学校でね?」
「うん。今日は誘ってくれてありがとうね、楽しかった。」
「良かった。また誘ってもいい?」
「もちろん!……また、デートしようね?」
いたずらっ子みたいな笑顔を見せた仁人に、俺の心は揺れ動いてしまう。
なんか今日の俺、変だ。
「……う、うん!また、絶対誘う!」
「ふふっ…それじゃ、またね?」
「うん。バイバイ!」
笑顔で仁人と手を振り合って、自分の家へ向かう。
この間考えるのは、仁人のことだけだった。
こんなに誰かと一緒にいて楽しいのも、誰かのために何かをしたいと思うのも、その人に近づきたいと思うのも。
全部が今までに無かった事だ。
この気持ちが何なのかは、少し想像がつく。
それでも俺は、まだ仁人と仲のいい友達でいたい。
仁人と今の関係のままがいい。
俺は外に漏れることのないように、そっとこの気持ちに蓋をした。
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