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#シェイプシフター
柊遊馬
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#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
196
#軍師
眠狂四郎
153
新しく元老院代表となったフラミンはアペニー山脈西側を、
ゲミヌスは東側を、それぞれ守備隊を含む三万の兵で固めた。
王都へ通じる街道は、すべてグラン軍によって封鎖される。
ただ一か所だけ――。
西方に広がる、水たまりのような広大な湿地帯。
「あそこを大軍が通ることはできない。」
フラミンはそう判断し、警戒を怠った。
だが――。
バルカは、そこにいた。
湿地帯へ足を踏み入れて三日――。
兵たちは泥に足を取られ、腰まで水に浸かりながら進み続けた。
地面はぬかるみ、横になって眠ることさえできない。
疲労と湿気、そして容赦なく降り注ぐ雨が、兵の体力を少しずつ奪っていく。
その過酷な行軍を、誰よりも先頭で進んでいたのはバルカだった。
愛象ダンボの背に揺られながら進軍していた彼は、不意に意識を失う。
高熱に侵され、そのまま象の上へ崩れ落ちた。
――闇の中だった。
「……ここはどこだ。」
静寂の中、一人の大男が立っていた。
長い髭をたくわえ、その身には雷光が走っている。
「お前は誰だ。」
男は豪快に笑った。
「俺はトール。」
「お前をここへ導いた者だ。」
バルカは男を見つめた。
「……俺は死ぬのか。」
「ああ。」
「人間は必ず死ぬ。」
「知っているだろう。」
「知っている。」
バルカは静かに笑った。
「ならば、それが俺の運命か。」
トールは首を横へ振る。
「運命だと?」
「人間が生きる道に決まったものなどない。」
「未来は、自ら切り開くものだ。」
バルカは小さく息を吐いた。
「ならば、俺はまだ戦えるのか。」
「戦えるとも。」
トールは口元を緩める。
「俺は、お前を気に入った。」
「人間のくせに、どこか俺に似ている。」
「ただし、代償はもらう。」
「代償?」
「左目だ。」
「それを差し出せば、お前を地上へ戻してやる。」
「神託も、加護も授けよう。」
バルカは静かに首を振った。
「いらん。」
「俺はただ、女王の仇を討ちたい。」
「それだけでいい。」
しばらく沈黙が流れた。
やがてトールは豪快に笑う。
「面白い。」
「ならば行け。」
「神の加護は与えぬ。」
「だが、一つだけ贈り物をくれてやる。」
雷鳴が轟いた。
「今日より、お前は――」
「雷光のバルカ。」
「その名を背負い、人として戦い抜け。」
世界が白い閃光に包まれた。
「兄者!」
「兄者、気がついたか!」
バルカはゆっくりと目を開けた。
目の前には、涙ぐむ弟マゴの顔があった。
「……マゴ。」
「よかった……。」
「死ぬんじゃないかと、皆で心配したんだ。」
バルカはゆっくりと身体を起こす。
「死んでは……いないようだ。」
ふと、左目へ手を当てる。
「……夢では、ないな。」
左目には、何も映らなかった。
数日後――。
バルカ軍はついに湿地帯を突破した。
泥にまみれ、疲労困憊の軍勢であった。
だが、その姿を見た者は誰一人、その苦難を知ることはない。
バルカはフラミン軍の眼前で、村々への略奪を始めた。
家々からは黒煙が立ち上り、人々の悲鳴が風に乗って響く。
その報せは、ただちに総司令フラミンのもとへ届いた。
「……何だと。」
「バルカ軍が街を襲撃しております!」
「我が軍の目前でございます!」
フラミンは拳を強く握り締めた。
「このグラン本国で……。」
「私の目の前で……。」
「おのれ、バルカ!」
副官が慌てて進み出る。
「お待ちください!」
「これは敵の挑発です。」
「出撃すれば、敵の思う壺かと。」
フラミンは鋭く振り返った。
「罠であろうとなかろうとな。」
「無辜の民が苦しむ声を聞きながら、ただ見ているだけなどできるものか。」
「それでもグランの将軍か。」
副官は言葉を失う。
フラミンはさらに言葉を重ねた。
「それとも、お前は私に臆病者となれと言うのか。」
「……。」
重苦しい沈黙が陣営を包んだ。
やがてフラミンは剣を抜き放つ。
「全軍出撃!」
「反論は許さん!」
鬨の声が大地を震わせる。
バルカは追撃を誘うように軍を進めた。
トラシム湖畔の北岸を、ゆっくりと東へ向かう。
その後方では、フラミン軍三万が距離を保ちながら追尾していた。
バルカは一度も振り返らない。
ただ黙々と進軍を続ける。
やがて一行は、湖と山々に挟まれた狭い谷へたどり着いた。
街道の両側には深い森が広がり、夜の闇が静かに迫る。
「ここだ。」
バルカは短く命じた。
兵たちは音を立てぬよう森へ分かれ、弓兵、歩兵、騎兵が次々と姿を消していく。
夜明けとともに、すべては始まる。
バルカは静かに目を閉じた。
一方、その西方では――。
フラミン軍が野営の準備を進めていた。
焚き火が次々と灯され、兵たちは明日の決戦に備えて武具を整える。
フラミンは兵たちの前へ立ち、高らかに声を上げた。
「諸君!」
ざわめいていた陣営が静まり返る。
「グランの苦難は、明日で終わる!」
兵たちの視線が一斉に集まった。
「非道なるバルカは、我らの眼前で民を苦しめた!」
「明日こそ、その暴虐に正義の鉄槌を下す!」
「グラン王国の誇りを示すのだ!」
「おおっ!」
歓声が夜空を震わせる。
兵たちは勝利を疑わなかった。
夜が更ける。
そして夜明けとともに、フラミン軍はトラシム湖畔へ向けて進軍を開始した。
夜明け。
雷光のバルカは、静かに立ち上がった。
コメント
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第52話「雷光のバルカ」、めちゃくちゃ熱かったです!トールとの邂逅、そして神の加護を拒否しながらも「雷光のバルカ」として生まれ変わる展開に痺れました。左目を失った代償と、それでも女王の仇討ちに邁進する執念が胸を打ちます。フラミンの正義感あふれる出撃も、罠と知りつつ民のために動く将としての魅力に溢れてて、両者の対比が鮮やか。次回、湖畔での決戦がどうなるのか待ち遠しいです!