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「あ、もうこんな時間。長いことお邪魔しちゃって…私、そろそろ帰らなきゃ」
緑は掛け時計に目をやると、鞄を手に持ち ソファから立ち上がった。
そして改めて、勇次郎と美愛子を交互に見ながら 謝罪の言葉を伝えた。
「本当にこの度は、大変なご迷惑とご心配ををお掛けしてしまい 申し訳ございませんでした。不徳の致すところで、心からお詫びします」
そう言って、緑は勇次郎と美愛子に頭を下げた。
緑が今度は、徹を見て言った。
「ありがとうね 徹君、色々気づかせてくれて。あまり自分を抑え込まずに、幸せになってね」
徹は緑に向かって微笑み、黙って頷いた。
緑が、陸斗を見た。
思わず戸惑う陸斗。
「さようなら、香坂先生。 お元気で…」
短い言葉だったが、陸斗を見る緑の目は 最初に会った頃のように穏やかだった。
(終わった) と陸斗は思った。
少しだけ 切なさに胸が痛み、残りはもう、諦めがついていた。
「陣ノさんも、お元気で…」
陸斗の視線を振り切る様にして、緑は瀬里香の傍まで歩いて行った。
「瀬里香さん、今まで辛い思いをさせちゃって 本当に、ごめんなさいね」
緑は瀬里香に深く頭を下げた。
「もういいよ、緑さん」
「瀬里香さんが こんな素敵な女性だったとも知らず、淫らな真似をして…深く反省してます。私が言う立場ではないけど、末永くお幸せに。もう2度とお目にはかかれないと思うけど、どうかお体を大切に。元気な赤ちゃんを産んでくださいね」
「ありがとう。 緑さんも元気で、 頑張ってね」
瀬里香は緑に微笑んだ。
緑はもう1度全員に頭を下げると、リビングのドアに向かって歩いて行った。
「あ、そだ。もしよかったら 駅まで車で送ろうか?」
瀬里香が声をかけると 緑は首を横に振り、
「大丈夫です、タクシーをつかまえるから もうここで…。
それじゃあ 失礼します。 お邪魔しました」
と言い、ドアを開けて出て行った。
少しの間、部屋の中に沈黙が流れた。
ふわあ〜 と勇次郎があくびをし、
「この後のことは、明日にしよう。もう疲れたし 眠い。悪いが 先に休ませて貰うよ」
そう言うと 勇次郎もソファから立ち上がり、ドアを開け リビングから出て行った。
「もう遅いから、私もそろそろ休ませて貰うわね。おやすみなさい」
美愛子も、勇次郎の後について出て行った。
「徹君、今夜はうちに泊まっていきなよ」
と 瀬里香が徹に言った。
「えっ、でも…」
「陸斗の部屋で、今夜は兄弟水入らずで寝たら? ダブルベッドだし 男2人でもゆったり眠れるよ」
徹ななぜか頬を赤らめ、
「はい。じゃあお言葉に甘えて、そうします」
と瀬里香の言葉を受け入れた。
(どうすりゃいいんだ。徹と一緒に寝るなんて、小学生以来じゃないか)
陸斗はなんだか照れ臭くなった。
「陸斗のパジャマとか、適当に借りてね。今日は疲れたと思うから 2人ともゆっくり休んで」
そう言うと、瀬里香もドアから出て行った。
リビングには、陸斗と徹だけが残された。
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赤井 里衣
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コメント
1件
**はる。** 第67話、読み終えたよ。緑さんの謝罪とお別れのシーン、すごく切なかったな…。最初に会ったときと同じ穏やかな目で「さようなら、香坂先生」って言うところ、胸に来たわ。陸斗の「終わった」って心境も、諦めと少しの痛みが混ざっててリアルだった。 でも最後の兄弟水入らずの展開はちょっと和んだ(笑)。小学生以来の同衾って照れるよな〜。全体として、大きな波が静まった後の余韻を丁寧に描いてて、じんわり来た。赤井さん、いい話をありがとう🔥