テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
2件
続き楽しみ!!
完全に虜になってますね、、
柔太朗side
夜。
豪奢なシャンデリアが輝く大広間。
音楽が流れ、色とりどりの仮面をつけた人々がゆったりと踊っている。
——敵組織の仮面舞踏会。
その中に。
ひときわ目を引く“彼女”がいた。
淡い色のドレス。
肩まで揺れる髪。
繊細に整えられたメイク。
完璧な“女性”、
(……大丈夫)
グラスを持つ手を、ほんの少しだけ握り直す。
(バレてない)
ここまでは順調。
情報を集めて、あとは頃合いを見て抜けるだけ。
なのに——
(なんか、落ち着かない)
視線を感じる。
さっきから、ずっと。
誰かに見られてる気がする。
仮面越しの世界。
誰が誰かなんて分からないはずなのに。
なぜか、視線だけははっきり分かる。
(気のせい…?)
そう思った、その時。
「——お嬢さん」
低く、落ち着いた声。
すぐ後ろ。
「っ」
振り向く。
そこにいたのは——
黒のタキシード。
銀の仮面。
整いすぎた輪郭。
仮面越しでも分かる、“顔の良さ”。
一瞬、息を呑む。
「一緒に踊りませんか」
手を差し出される。
自然で、優雅な仕草。
断る理由が、一瞬で消える。
(……いや、任務)
頭では分かってる。
でも。
「……はい」
気づいたら、手を重ねてた。
—
フロアの中央へ。
音楽が少しだけ大きくなる。
周りの人たちと同じように、
自然に距離を詰める。
腰に手が添えられる。
「っ」
一瞬、体が強張る。
「力、抜いて」
小さく囁かれる。
耳元。
近い。
「……すみません」
小声で返す。
(なんでこんな)
ただの任務。
ただの相手。
それなのに——
心臓がうるさい。
ステップを踏む。
ぎこちないはずなのに、
相手が上手くリードしてくる。
「上手ですね」
思わず言う。
「そっちこそ」
軽く返される。
余裕のある声。
(なんなの、この人)
視線が合う。
仮面越し。
なのに——
見透かされてる気がする。
「初めてですか」
聞かれる。
「……こういう場は」
曖昧に返す。
嘘はついてない。
「そう」
短い返事。
でも視線は外さない。
「慣れてない割に、落ち着いてる」
一歩、距離が詰まる。
(近い)
「……そう見えますか」
「見える」
即答。
逃げ場、ない。
音楽がゆっくりになる。
動きも自然とゆるやかに。
その分、距離が際立つ。
呼吸すら感じる距離。
「名前は」
ふいに聞かれる。
一瞬だけ間が空く。
でもすぐに。
「……ありさです」
偽名。
いつも通り。
完璧なはず。
そのはずなのに——
相手の目が、ほんの少し細くなる。
「ありさ、ね」
繰り返す。
その言い方が、妙に引っかかる。
「あなたは?」
聞き返す。
相手は少しだけ笑う。
「秘密」
即答。
(怪しい)
でも、この場所ではそれが普通。
なのに。
「でも」
一歩近づく。
耳元で、低く囁かれる。
「君のことは、知ってるかもしれない」
ゾクッとする。
背筋に何か走る。
「……どういう意味ですか」
声が少しだけ揺れる。
相手は何も答えない。
ただ——
ほんの少しだけ、顔を近づける。
仮面越しの距離が、ほぼゼロになる。
「男なのに」
小さく、囁く。
「ずいぶんと綺麗だな」
心臓が止まりそうになる。
(バレた)
一瞬で血の気が引く。
でも——
体が動かない。
逃げなきゃいけないのに。
「……っ」
言葉が出ない。
その沈黙を楽しむみたいに、
相手は少しだけ笑う。
「安心しろ」
低く。
「誰にも言わない」
その声。
どこかで聞いた気がする。
でも思い出せない。
「それより」
ぐっと手を引かれる。
ステップが変わる。
完全にリードされる。
「今は踊れよ」
逃がさないみたいに。
「スパイさん」
その一言で——
完全に確信する。
(この人……全部分かってる)
なのに。
怖いはずなのに。
「……っ」
目を逸らせない。
近すぎる距離。
仮面越しの視線。
心臓の音。
全部が混ざる。
(なんでだよ)
こんな状況なのに。