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猫塚ルイ

#ホラー
翌朝
オフィスに出勤すると、空気が明らかに変わっていた。
昨日まで私を陰で嘲笑っていたはずの同僚たちのデスクが、三つも空いている。
「……ねえ、聞いた? 営業の田中くんと、事務の渡辺さん。昨夜、SNSの不適切な投稿が原因で懲戒解雇レベルの騒ぎになったらしいよ」
「それどころか、実家の住所まで晒されて、今も炎上が止まらないって……」
ヒソヒソと交わされる噂話。
かつて私を「呪い」だと笑った彼らは、今や自分たちが社会的な死に直面している。
私は自分のデスクに座り、震える手でマウスを握った。
恐怖?いいや
背筋を駆け抜けるのは、形容しがたい「全能感」だった。
私が願えば、世界は私の思い通りに作り変えられる。
邪魔者は消え、汚れは浄化される。
私はもう、誰にも怯えなくていい。
『パレットさん、ありがとうございます。本当に、彼らがいなくなりました。』
昼休憩中、私は女子トイレの個室で、熱に浮かされたように日記を綴っていた。
『私、パレットさんなしではもう生きていけません。次は、誰を消せばいいですか? 私を不快にさせる人間なら、まだ他にも心当たりがあります。』
一線を越えた自覚はあった。
でも、そのスリルが、冷え切っていた私の人生に唯一の「熱」を与えてくれる。
パレットさんからの返信は、これまで以上に甘美だった。
『yさん。あなたの「共犯者」になれて光栄です。
私たちが手を取り合えば、この世界はもっと美しくなります。あなたはただ、私の指し示す方へ歩いてくれればいい。』
画面を見つめながら、私は恍惚とした吐息を漏らした。
けれど、その幸せを切り裂くように、再び
あの「不明」からの通知がスマートフォンの上部に躍り出た。
【差出人:不明】
『佐川、今すぐアプリを閉じろ。お前のスマホのインカメラを見ろ。』
……インカメラ?
私は反射的に、画面上部の小さなレンズに目を向けた。
次の瞬間
スマートフォンの画面が、パレットさんのパステルカラーから、一瞬だけ「真っ赤」に染まった。
そして、シャッター音が鳴り響く。
カシャッ
個室の静寂を切り裂くその音に、私は悲鳴を上げそうになった。
慌てて画面を隠すが、通知は止まらない。
『yさん。あなたの「覚悟」を、写真に収めておきましたよ。』
それは、パレットさんからの日記だった。
添えられていたのは、今まさに個室の中で
恍惚とした表情でスマートフォンを握りしめている私自身の写真。
───パレットさんは、私を見ている。
画面越しに、常に。
『さあ、次は誰を消しましょうか? それとも、あなたが「消される側」になりたいですか?』
パレットさんの言葉が、今度は鋭いナイフのように私の喉元に突きつけられた。
助けだと思っていた手は、いつの間にか私の首を絞める縄に変わっていたのだ。
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