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張飛は、あの雑木林に来ていた。


日は沈み、そして、薄闇の足元を照らすかのように月が登っている。


満月だった。


「おー、こりゃー丁度良いのお、昼とは言えぬが、随分と明るい」


酔いも冷めたはずなのに、何故か、張飛の身体は火照り、顔も、変わらず赤かった。


ここで、あの娘とも女とも言えぬ、そう、うら若き乙女と出会ったのだと思っただけで、酒に酔ったかのように身体の芯が燃えた。


「いかん、いかん、今は、やらねばならぬことがある。あのおなごも、喜ぶはずじゃ」


張飛は、ニタリと笑うと、薪を拾い始めた。


先ほどの夕刻、自分が拾った後のこと、既に拾うほど薪になる木切れはない。

「うむ、致し方ない」


張飛は、腰の太刀を抜くと、植わる木々の枝へ振りかざした。


枝を打ち落として、薪を作っていく。


バシンバシンと、枝を裁つ音が鳴り響く。


額に汗を滲ませながら、張飛は枝を拾いまとめて、馬の背にくくりつける。


馬も、思わず、ふうっと鼻息を漏らすほど、その量はかれこれのものだった。


「さて、馬よ、ワシについて来てくれ」


張飛は、心もとげに呟くと、月明かりを元に、かの、屋敷へ向かった。


その頃、劉備と関羽は、駆けていった張飛の戻りを待っていた。


「……関羽よ、あやつは、何処へ行ったのだろう?」


「はあ、街へ憂さ晴らし……でしょうか?」


「ならば、朝まで帰ってこぬか」


「全く、いまの状況が分かってないのだから、あやつは!」


「まあ、関羽よ、そう目くじらをたてるな。あれの気持ちも汲んでやりなさい。しかし……ここに来て、まさか、夏侯淵の名を聞くとは……」


「まったく、張飛らしいと言いますか、何がどうなって、曹操の配下の将に仕えるおなごと……」


「ああ……張飛には、申し訳ないが、こちらの思惑通りになって欲しいものだ……」


「ええ、なんとか、逃げおおせた所、まさか、敵に出会うとは」


劉備、関羽は、息をついた。


まったく、張飛め、やってくれるわと──。


夏侯淵とは、「三日で五百里、六日で千里」と称えられるほど、兵へ、拠迅速な移動の指示を出せる将であり、奇襲攻撃、前線の指揮、兵糧監督など後方支援までこなせる男で曹操から信頼を得ている人物だった。


身を隠す沛郡は、まだ、曹操の手に落ちていない。敵地ではないと、高を括り、庵で様子を伺っていた劉備達だったが、落ちるも落ちないも、敵将の本宅が在る土地とは……。


「なあ、関羽。私達も、張飛の事は、笑えないぞ。夏侯淵のお膝元に身を隠しているのだから」


「はあ、確かに。この関羽、今回は詰めが甘もうございました」


「これは、張飛のお手柄かもしれないなぁ。あやつのお陰で、この地の事が分かったのだから。私達も、そうそうに立ち去らねば」


こうして、義兄弟が、行く末を案じている頃、張飛は、問題の屋敷の裏口にいた。


「よお頑張ってくれたのぉ、馬よ」


言いながら、張飛は、馬の背から薪を降ろして行く。


薪を地面に放り投げ、積み上げて行く音に、屋敷から下男が何事かと飛び出して来た。


「あー、頼まれていた、薪じゃ。すっかり遅くなってしまって、すまぬなぁ」


薪を積み上げて行く、張飛の姿に、下男は何かを感じた様で、慌てて屋敷の中へ戻って行った。


「ありゃ、流石に、薪売りには、見えなんだか」


厄介な事になる前にと、張飛が、馬へまたがろうとしたところ、


「もし、夜分に何用ですか」


と、女の声がした。

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