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「なあ、見せたい動画があるんだ」

ゲームがひと段落ついて、龍斗はそう切り出した。

「はっ。お前みたいな趣味のエロ動画か? 悪いがおれの好みは——」

「いやそれがね、今回はエロいのじゃないんだ」

龍斗はニヤニヤしながら、ポケットからスマホを取り出す。そそくさと動画を開き、有無をいわせずおれに見せる。

「どう思う?」

おれは小さな動画プレイヤーに顔を近づけた。

モノクロームの、なんだか不鮮明な動画だった。黒く縦長の石碑のようなものが見える。それが少しずつ傾き、その奥から光が射してきたところでそれが扉だったことに気づく。

音声はない。そのまま開け放たれた扉があるだけで、面白くともなんともなかった。強いて言えば、まるでちょっと前に仲間内で流行った、呪いのビデオみたいな雰囲気があるだけだ。

映像が終わった。時間にして1分少々といったところか。

「どう? 怖かっただろ?」

おれの肩をぽんぽんと叩きながら、龍斗は言った。乾いた笑いがおれの口から漏れる。

「怖いもなにもさ……。まあ不気味ではあったけど、なにも写っていないじゃないか」

すると龍斗はきょとんとして、

「いやいやあの女を無視しないでくれよ。こっちに近づいてくる女が映ってるじゃないか?」

おれは思わず「はぁ?」と言い返した。

「女? そんなの映ってなかったよ。扉みたいなのが開いて、それで終わったじゃないか」

「いやいやいや。扉が開いて、髪の長い女がゆっくりこっちに近づいてきて、どんどん近づいてきたかと思ったらすこし顔を持ちあげてこっちを睨んできた——そうだろ?」

「なに言ってんだよ。怖がらせるんならもうちょっと——」

おれは言いつぐむ。龍斗はなんだか残念そうな、不貞腐れた顔つきになっていた。

「マジでやべえな」

龍斗はそう言って、またゲームのコントローラーを手に取った。しかし操作はせず、俯いたまま語り出す。

「……こんな噂があるんだ。『透明の女』っていう都市伝説なんだけど」

「透明の女?」

「ああ。その動画には扉が写ってて、そこからその『透明の女』が現れる。その動画を見てしまうと、その女が動画を視聴した人間を殺しにやってくるって」

「でも、おれにはなにも見えなかった」

「だからだよ!」龍斗は声をはり上げた。「おれだけに女が見えた。ということは、おれは死ぬ運命にあるんだ……」

「弱気になるなって。お前そんなひ弱じゃないだろ? それにさ、ふたりで居ればとりあえずなにかあった時に身を守れるかもしれないしさ。心配することないさ」

「そりゃそうかもしれないけど……不安だよ」

「大丈夫大丈夫。なんかあれば助けてやるよ。透明の女? フルボッコで帰してやる」

それでも、なぜか龍斗は浮かない顔のままだった。

「あ、ちょっとトイレ行ってくるわ。……ま、その、女の話は真に受けない方がいいよ」

「ああ」

だいぶ精気のない龍斗を後目に、おれは部屋のドアを開いた。


トイレのドアを閉めると、意外にも肌寒かった。今日はあまり陽もさしてこないし、それが妥当なのだろうということにした。決してさっき変な動画を見たからではない、と言い聞かせる。

ふと、妙な感じがした。自分は過去にも、いまこの瞬間とっている行動をとったことがあるような気がして。

だがそれはあくまでも、実際そうだからだ、としか言いようがない。龍斗の家でトイレに行って用を足し部屋を戻るまでの所作を何度繰り返しているのだろう。別段変なことではないじゃないか。

龍斗の部屋の扉を見る。なにも変なことはない、はずだった。

黒い、縦長の少しユニークな形をした扉。

なにかこの扉に印象深い記憶が……。

頭に何かが想起された。ノイズとモノクロームの映像。

——まさか、さっきの映像。

と思いかけたが、疑念は、龍斗が仕掛けたタチの悪い悪戯だという確信に変わった。自分の部屋の映像なんて簡単に撮影できるじゃないか。さてはおれにドッキリを仕掛けようとしたんだな。おれは龍斗を驚かせるため、わざと扉をゆっくり開いた。

しかしそこにあったのは予期しない光景だった。

部屋の中が、真っ暗なのだ。

遮光カーテンを全て閉め切っている。部屋の入り口から入る光だけが光源だった。

「龍斗?」

呼びかけても返事は返ってこない。

まったく悪質なドッキリだな——と思いながら部屋の中に足を踏み入れたその時だった。扉がものすごい勢いで閉まったのだった。

おれは扉をドンドンと叩いてみる。

「おい龍斗! 悪ふざけはやめなって!」

ドアノブを捻ろうとする。しかし内部が固着しているのかの如く、びくとも動かない。

おれはカーテンを開けようとした。だが、部屋が真っ暗でなにがどこにあるのか分からない。

突然平衡感覚を失い、体が床に倒れた。右肘をついたがいやに痛んで立ち上がれなくなる。

その時、朧げな光が天井からチカチカと射してきた。白熱灯が弱い光を発している。

おれはなんとか上体を持ち上げ、部屋を見渡した。黒い扉が微かな光の中、石碑のように見えた。

龍斗の言葉が頭の中で反芻される。

——その動画には扉が写ってて、そこからその「透明の女」が現れる。その動画を見てしまうと、その女が動画を視聴した人間を殺しにやってくるって……

おれは、その言葉の意味を吟味しなかった。

だが、今気づいてしまった。




その動画に映っている女が「見えている」のならば、なにも問題はない。

なぜなら、殺しにやってくるのは、見えていない「透明の女」なのだから——。



ゆっくりと扉が開く。外からの光が室内を射抜く。

その向こう側に誰かがいる。間違いなく誰かがいる。

扉が全開になったとき、そこに現れたのは……。

ホラー・ヴァキュイ 〜1話完結ホラーSS集〜

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