「んー、またあとでな。先に手駒を全部披露したらつまんないだろ。敵を騙すには味方から」
そう言って、尊さんは私の頬にキスをした。
私はお湯の中で膝を抱え、あぶくで形を歪めた自分の脚を見る。
腹部には尊さんの腕が回っていて、私の脚の外側には彼の脚がある。
普段、スーツ姿の時はスラッとしているのに、こうして見ると男性の筋肉質な脚だと思い知らされ意識してしまう。
照れてしまうけれど、彼の脚を見てもう一つ思う事があった。
(……こんな関係になる前に尊さんの脚を見た事があるけど、彼は絶対覚えてないんだろうな)
自分で〝なかった事〟にしたから、彼に「覚えてないんですね」って言うのはお門違いだと分かっているんだけど……。。
「……ねぇ、尊さん」
「ん?」
名前を呼ぶと、尊さんは優しい声で返事をする。
(……あの時の事、覚えていますか?)
私は心の中で尋ねる。
「なんだよ」
彼は笑いを含んだ声で言い、私の喉をくすぐった。
「……ううん、何でもないです」
――あれは、私だけの秘密にしておこう。
心の中で呟いた私は、彼に背中を向けたまま微笑んだ。
「話は戻るけど、クリスマスはお前とゆっくり過ごしたいから、その前に継母に会ってもらってもいいか?」
「はい」
そう言われ、現金にも嬉しくなってしまった。
「……へへ」
「なんだよ」
「……いや、今年もクリぼっちかと思ってたんですが、意外なところで拾う神がいたな、って」
「あー、去年フラれたんだっけか」
「そう! しかも誕生日に振らなくても良くないです!? クリスマスについて何も言わないから、いつものようにデートするんだって期待してたら……。…………あああああ! 腹立ってきた!」
「落ち着け」
ウガーッ! と腹を立てると、耳元で尊さんが言い、耳たぶを囓ってきた。
「ひゃんっ」
思わず悲鳴を上げた私を見て尊さんは小さく笑い、溜め息をついてから尋ねてくる。
「毎年、田村クンとどんなふうに過ごしてたワケ?」
聞かれた私は、まだムカつきはあるものの、「今はイケメンと高級ホテルにいるからいいか」と自分に言い聞かせて答える。
「……昭人がフレンチとかイタリアンとか、美味しそうなお店を見つけるので一緒に食べに行って、ちょっといいホテルに泊まってプレゼント交換をして……」
「普通だな」
バサッと切り捨てられ、私は唇を尖らせる。
「……確かに普通かもしれませんけど、当時は楽しかったんですよ」
「……普通だけど、俺も同じプランでいくか」
「え?」
そう言われ、私は思わず声を上げる。
彼の事だから、てっきり「田村クンができない事をする」って言うのかと思っていた。
「上位互換の同じ事をして、上書きするに決まってるだろ」
「うっわ……、性格悪い……」
「何を今さら」
わざと嫌そうに言ったけれど軽やかに笑う尊さんにつられ、私も笑ってしまった。
お風呂から上がったあと、今度はちゃんと体を拭いてスキンケアをする。
その間、尊さんは私の髪をドライヤーで乾かしてくれた。
(……昭人はこういうの、やってくれなかったな)
付き合っていた頃、昭人はいい彼氏でいてくれたけれど、尊さんほど私を甘やかしてはくれなかった。
昭人は私の大人びたところに惹かれたと言っていたから、私を甘やかす発想はなかったんだと思う。
その反動で加代さんみたいに可愛くて、ちょっと手が掛かりそうな人を選んだんだと思うけど。
(……あぁ、あの二人の事を考えるとムカムカするな)
私は溜め息をつき、鏡越しにドライヤーをかけてくれている尊さんを見る。
(……いい男だな)
勿論、見た目は申し分ない。
コメント
2件
『あの時の事』いつか話せる時があったら話してみよう! 尊さんの脚…ԅ(ಡ౪ಡԅ)テ”ヘヘ❤絶賛妄想中〜😍🤩
上位互換の上書き、サイコー🤭👍️💕 見た目も、性格、出世、頭のよさ、収入、性欲(絶◯)....あれもこれも全てランク🆙⤴️⤴️だね🤭♥️♥️♥️ やったぁー.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.♪~