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(凄く……堅そう……)




第一印象はそれだった。まあ、サソリなんてそこまで大きな生き物じゃないし、確かに、刺されたらまずいっていうのは分かるんだけど。大きな魔物を見てきすぎたせいで、大きさに対する感想は、まあ、これくらい大きいよね、っていう陳腐なものだった。

慣れちゃいけないんだろうけど、もし、ここが乙女ゲームの世界じゃなくてバリバリ、魔物がはびこる、勇者とかがいる世界だったら、魔物と対峙するのは日常茶飯事なんだろうけど。なんても、考える。というか、思った以上に小さい? とも思ってしまった。

まあ、そんなことはどうでも良くて、私は、目の前に現われた、鋼鉄の身体を持つ、大サソリを見て、何処を攻撃すれば良いか迷っていた。並の剣が、あの身体を貫けるとは思わないし、サソリ自身の血が毒っていう可能性も考えられなくはない。だから、安易に近付いて良いものなのかも……




(グランツは、どう、でるんだろう……)




ついてきてくれたのは良いけれど、こんな堅そうな見たい目だと思っていなかった。けれど、グランツは対策はしてきているはず、だと何処か安心感というかはある。けれど、あれは、魔法でも、砕けるかどうか分からない、エナメル質なつやつやとしたからだ。




「尻尾を切り落とすのは、まず、前提よね」

「エトワール」

「何、ラヴィ……今、考えてて……」




尻尾を切り落とせば、まず毒の攻撃は出来ないだろうと思った。ならば、狙うは、尻尾かと考えていると、ラヴァインが私の肩をポンと叩いた。彼の顔には余裕が見えて、自分に任せてくれといわんばかりに、口角を上げている。彼の魔法は、風魔法で、確かに刃にでもなるけれど。




「ちょっと、一人でなんていけるわけないでしょうが」

「まあ、まあ、二人はそこでみててよ。此奴は、俺一人で十分だって」

「そんな、一人で、無茶……グランツ?」




前に出たラヴァインを引き止めようと、私が一歩前に出れば、それを阻止するように、私の肩をぐいっと後ろに引っ張るグランツ。ラヴァインに任せようといわんばかりに首を横に振って、私を見つめるものだから、私はラヴァインを引き止める気も、グランツに対してものをいう気も無くなってしまって、伸していた手をプランと下げた。




「大丈夫です。信じましょう」

「う、うん……」

「問題は、あのレプリカを倒した後ですから」

「レプリカ?」




気になることを口にして、グランツは、目を細め、ラヴァインを見つめていた。




(レプリカ?それってどういう……)




「さて、こういうのは俺の腕の見せ所だよね。エトワールもいるし、さっさとやっちゃうか」




フワッとラヴァインを中心に集まった魔力はだんだんと威力と範囲を拡大していき、目に見えるほどの風魔法の渦をラヴァインは創り出した。結構な魔力をようしているけれど、これ、大丈夫? と思えるほど、彼はその勢いを止めなかった。魔力が尽きる、なんてこと、彼はバカじゃないからやらないとは思うけど、それでも、いくら何でも最初から飛ばしすぎなんじゃないかと思った。




「ら、ラヴィ……そんな」

「大丈夫ですよ、エトワール様」

「グランツ。でもでも、あれすっごい、魔力感じる。ヤバいって」




上手く言語化できなくて、ヤバい、何て言葉でまとめながら、私はラヴァインを指さした。グランツはいたって冷静に、状況を判断し、大丈夫だと釘を刺す。グランツは、普段魔法を使わないからそういうこと言うんだ! なんて、いいたくなったけれど、私よりも解析能力に優れているグランツだからこその発言だってことも、何となくは理解してる。けど。




「元々、レイ公爵家……その先祖はラジエルダ王国出身の貴族です」

「え……ラジエルダ王国って、グランツの……?」

「はい、魔法に優れ、魔力に溢れた島国だったラジエルダ王国でも、レイ公爵家はかなりの権力と、魔力を有していました。予言か、それとも、ただの気まぐれか……それは分かりませんが、ラジエルダ王国を捨て、ラスター帝国に移り住んだのです。まあ、国民からしたら、闇魔法とはいえ、島の結界を張るのにも一役買ってくれていた貴族がいなくなったんですから、当時はそうと荒れたそうですが」




と、グランツは、憎たらしそうにいう。


そんな歴史があったんだ、なんてぼんやりと聞きながら、レイ公爵家は、元々ラスター帝国の貴族ではなかったのだと。でも、そんなことって可能なのかとも思った。そんな移住じゃないけれど、他国の貴族になるって簡単なことではないのだろうけど。どういった経緯があったかも分からないし、グランツの口ぶりからしたら、二代前、とかそんな短い歴史の中で起こったことではないのだろう。レイ公爵家の先祖が……みたいな。




(ああ、だからそれもあって……)




グランツがアルベド達を嫌う理由ってそこからもきているんじゃないかと思った。一応、仮にも、ラジエルダ王国の王族であったグランつからしたら。




「レイ公爵家は、今でこそブリリアント家を除けばラスター帝国一の魔力を持つ貴族です。そして、あの家の厄介なところは、代を重ねるごとにその魔力量が増えていくと言うこと」

「え、え、じゃあ、アルベドって」




ラヴァインもそうなのかと思ったが、またこれは違うようで、長子にだけ、その特性が受け継がれるのだという。だとしたら、アルベドの魔力って、聖女に匹敵するんじゃ、とも思った。だって、レイ公爵家ってかなり歴史が長いみたいだし。

ここに来て、始めて知ることばかりで、頭が痛くなった。そりゃ、これまでアルベドがあんな風に戦えてきたわけだと納得することも出来て。

ラジエルダ王国の国民は、ラスター帝国よりも基本魔力量が多いのだという。魔法の国とか言われるほどだったみたいだから、そこの貴族っていうだけでも……




(心配なんて、しなくても良いってこと?)




魔法の扱いに、私以上に長けているだろうラヴァイン。そして、その上をゆくアルベド。魔力量があっても、私はまだ完全に魔法を使い切れていない。そう思うと、あの二人の戦い慣れしたのは、ただの場数を踏んだ、ということでは言い表せないと。




「グランツは……」

「何でしょうか、エトワール様」

「魔力がない……訳じゃないだろうけど、魔法を使えたらとか思わないの?」




もしかしたら、地雷だったかも知れない、と言葉にした後思った。グランツは、少し考えるような素振りを見せた後、きっぱりと「あればいいと、思いました」と、答えてくれた。

しかし、すぐにそれを否定するように、あらんだ心を落ち着かせるようにそっと剣の柄を握る。




「俺の場合は、ユニーク魔法に全て持っていかれているのです。多少の魔法は使えるでしょうが、魔法を使うためのからだじゃない。ユニーク魔法が身体全体にかかっているといえば良いでしょうか。俺は、特殊なんです」

「と、特殊」

「この間、エトワール様は、魔法……毒魔法に空気感染したでしょう。アルベド・レイや、ラヴァイン・レイは事前に防御魔法を自分に施していました。ですが、俺はその過程がいらない」

「つまり?」

「俺には、魔法攻撃が効かないって言うことです。向けられた魔法は切る必要がありますが、身体に特殊効果をもたらす魔法は、基本的には効きません。簡単に言ってしまえば、魔法無力化ですね」

「ひぇ……」




もう、本当にここに来て始めて知ることばかりだった。そんなの、魔法がある此の世界でチートじゃん。なんてことも思いながら、グランツを見る。何で、それをこれまで黙っていたのかと、滅茶苦茶に問い詰めたかったが、しれっとした顔をしているグランツを見ていると、聞く気も失せてしまった。

まあ、要するに、彼に魔法攻撃は効かない。状態異常の攻撃はさらに効かない。自分に向けられた攻撃魔法は、剣で切ればいい。そういうことなのだろう。

じゃあ、このゲームの中で一番チートじゃん。一番強いってことじゃん! って、そう思った。まあ、その強さをカバーして均衡を保つために、幼くて、心がまだ未発達とか、そういう設定が付け加えられているのかも知れないけれど。グランツの手綱を握っていなかったら、彼が一番厄介な敵になるかも知れないと思った。




「あ、あの、エトワール様」

「何、グランツ」

「黙っていてすみませんでした。これまで、聞かれなかったので、気づいているのかと思っていたのですが」

「私が気づくと思う?」

「…………」

「ごめん、答えにくい質問だったね。えーあー……事前にいってね?一応、私の護衛騎士なんだから」

「今後気をつけます」




と、グランツは素直に従って頭を下げた。


本当に、どうかしていると思った。私が分かるわけない。というか、多分、グランツ分かってて何も言わなかったんだと思う。隠した方が良いこともあるし、今回の場合、隠しておいた方が役に立つっていう面では、確かにそうだと。戦略的に、そして生き残るためには、グランツの行動は咎められるべきものではないと思った。でも、何だかなあ……って思ってしまうところもあって。




「何か、二人とも凄いね……私なんかって思っちゃう」

「エトワール様?」




ラヴァインも、グランツも凄い。そんな言葉で片付けちゃいけないんだろけど、それくらい、私の想像を越えて、尚且つ強くて。二人を連れてきて良かったと思うと同時に、私が足を引っ張っちゃうんじゃないかって、そんな影が心にさす。


ダメだな、矢っ張り、私、強くなりたい。


ぐっと握った拳は、手のひらに強く食い込んで痕になってしまった。


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