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(これ、本当に二人だけに任せて私来なくても良かったかも知れない……)
そう思えるほど、ラヴァインの魔力も、グランツの体質のことも、色々聞かされて、聖女だけど、一番無力なんじゃないかと自分のことを思ってしまった。私は特別じゃないんじゃないかって。特別が良いわけじゃないけど、でも、聖女っていう肩書きがあるだけで、ただの凡人なんじゃないかとは思う。
(まあ、攻略キャラと、ただのオタクだから……)
さすがの、大サソリも、ラヴァインの魔力にビビったのか、その長い尾をピンと伸ばし、ラヴァインに向かって猛突進を始める。地面が揺れ、砂埃が舞う。私は、グランツに抱きしめられながら、ラヴァインと大サソリの戦いの行方を見守った。
「脳がない奴だなあ。そんなに死に急ぎたいかよっ!」
集め終わった魔力を、一気に放出し、ラヴァインが創り出した風の刃が、大サソリの尻尾を、そして、両腕の鋭いはさみを切り落とし、その鋼鉄の足を全て地面に落とした。四肢を破壊され、ドシンなんて音を立てて、本体が、その場に倒れる。あれだけ堅いと思っていた身体をいとも簡単に切断し、使い物にならなくさせたラヴァインの魔力は、矢っ張り凄いと思う。風魔法だけで、これだけの攻撃を繰り出せるのは、彼の想像力と魔力があってのことだろう。
(た、倒したの?)
簡単すぎやしない?
だって、北の洞くつでの大蛇との戦闘は大変だったっていうのに……
「あ……」
「どうしましたか、エトワール様」
「う、ううん。ちょっと思い出して……あーうん、そうだったなあって」
いやいや、私が苦戦しただけだった。北の洞くつでの大蛇の戦闘、それを終わらせたのは、ラヴァインだった。そう、彼は強い。ダンジョンのボスみたいな感じで君臨していた大蛇を、私が苦戦していた大蛇を一発で倒したんだから。今回の大サソリを一発で倒せても可笑しくはないと思った。すっかり忘れていた。心配なんてするだけ無駄だったと、確かに思う。
本当にもう、職人みたいで、私は何も言えなかった。ただただ、口を開けて、倒れその場で紫色の血を流している大サソリの死骸をみることしかできない。
「惚れ直した?」
「ほ、ほれ……いや、惚れてないし。てか、ほんと……いや、凄いとは思ったけど」
「ほら、惚れてるじゃん」
「エトワール様に変なこと言わないで下さい。エトワール様には、婚約者がいます。貴方みたいな人に、エトワール様が惚れるわけないじゃないですか」
「自虐ネタかな?」
と、ラヴァインは私とグランツの顔を見て嗤った。
それを見て、グランツの眉間がピクリと動き、私は、これはまずいと思った。本当に、煽るのが、誰かさんと一緒で……いや、兄弟だから似ているんだろう。グランツは、この手の煽りに対して耐性がない。多分、ラヴァインだって、それを分かっていると思うけど。
「ま、まあ、ラヴィがやっつけてくれたわけだし、これで、もう何も心配ないんじゃない?うん、今から、真実の聖杯探そうよ」
「はあ……エトワールは、脳天気だね。そう思うでしょ、第二王子様」
「…………脳天気など、失礼なこと、エトワール様に言わないで下さい。首を跳ねますよ」
そう、グランツはいいながらも、私に対して呆れているのは一目瞭然だった。
(え、え、何で皆険しい顔してるわけ?)
頭が痛いみたいに、グランツもラヴァインも私を見ては肩をすくめる。あまりにも酷すぎやしないかって、思わず手が出てしまいそうになった。
けれど、幾らラヴァインが強いとは言え……確かに。
もしかしたら、レプリカっていっていたのと、何か関係あるのかな、なんて、思っていれば、グランツがスルリと鞘から剣を引き抜いた。
「いきなり、剣を抜いたら、エトワール驚かない?もうちょっと考えたら」
「随分と、余裕なんですね。勝てるんですか、彼奴に」
「俺が負けるとでもいいたいのかな。もし、負けたら、まず第二王子に勝ち目はないよ」
と、二人で話をどんどんと進めて行ってしまう。
おいけてぼりを喰らって、私は、あたふたしていれば、ラヴァインが懐に隠していたナイフで、神殿のある一角に向かってナイフを投げつけた。その瞬間、バチッと大きな音を立てて紫色の電撃が走る。パラパラと光の粒子になって消えたそこから、人影が現われ、ストン、と地面に足をつく。
「本当に、貴方の魔力探知はどうなっているんですか。ラヴァイン・レイ」
「……ラアル・ギフト」
「お久しぶりですねえ。偽物様」
藤色のたらんとした三つ編みが見えて、此奴か、と私は眉間に皺を寄せる。ねっとりとした喋り方、そして、その射貫く瞳が、もうまさに悪役、ろくな死に方しなさそうなキャラ、っていう風に見えて、私は言葉もでなかった。
ラアル・ギフト。この間、私が苦しんだ毒の魔法をかけた張本人。今度あったら、殴るって決めていたから、ちょうど良い。それと、会うたび、私への評価がだんだん下がっていくのは何でだろうか。
(偽物様って、貶してるわよね。絶対に)
言い方に悪意しか感じられない。
まあ、そんな私怨はさておいて、ラアル・ギフトがはじめから潜んでいたことを、グランツも、ラヴァインも気づいていたということなのだろう。だから、私に脳天気とか、ひっどい言葉を浴びせたんだと。でも、聖女なんだし気づくよね? 的なものも含まれていたかも知れない。そう思ったら、私が如何に無能聖女なのかって露見してしまう。
(――って、無能聖女って!)
自分でいっていて、泣けてくるけど、無能なところはあるのは認める。
「てか、いつから気づいていたの」
「ここに来てからずっとですが」
「じゃあ、あの大きな結界魔法張ったのって、ラアル・ギフト?」
「いえ、それは違うと思います」
そう、グランツはいうとばっさり切り捨てる。
じゃあ、あの結界魔法って誰が張っていたんだろうか。大サソリが張っていたのか、それとも他の誰か? エトワール・ヴィアラッテアっていう可能性も考えられなくはないけれど、真偽は定かじゃない。
もしかしたら、元々、この神殿に張ってあった結界魔法をグランツが切ったのかも知れない。そうなると、あんなに大きな結界魔法を一発で切る、グランツって矢っ張り……
(皆、チート過ぎるのよ)
私は、矢っ張り無能、無力なんじゃないかって、そう思ってしまって、だんだんと戦う気力なくなってくる。それじゃあ、ダメって分かっているから、気を持ち直すけれど、この二人がいれば、私なんかいらないって思っちゃうわけで。
「エトワール」
「何よ、ラヴィ」
「エトワールは必要だよ。俺にとっても、兄さんにとっても。だから、そんな自分を責めないで欲しい」
「せめてなんて……」
「エトワールには、エトワールにしか出来ないことがあるから。力が全てじゃないって、エトワールは、そう思うでしょ?」
「力が全てじゃない……でも」
力がなくちゃ守れないのは、ラヴァインだって知っている筈だ、と私は、言いかけてグッと言葉を飲み込んだ。ここで、何をいっても、ラヴァインの価値感と私の価値観は違うわけだから、きっと食い違う。
でも、そんな風に言って貰えるのは、元気が出た。私の事必要としてくれているってそれが伝わってきたからこそ、私はもうちょっと頑張ってみようかなって。
「ありがとう、ラヴィ」
「……エトワールが元気じゃないと、俺、調子狂っちゃうよ。エトワールは、いつも笑顔でいて欲しい。ね?」
と、私の頬をそっと撫でるラヴィ。何だかその触れ方が、妙に優しくて、懐かしくて、私は、つい、ぽろりと、彼の名前が出てしまう。
「アルベド……」
「……っ」
「ご、ごめん、比べてるわけじゃないんだけど、重ねちゃいけないって分かってるんだけど、似てるって思っちゃって。いや、兄弟だから……って、これもダメだよね。ごめん、忘れて」
「エトワールは、兄さんのことそんなに好きなの?」
「え、いや……そういうんじゃなくて。でも、大切っていうのはある」
今は、敵か味方か分からないから、彼を信頼して良いものなのかすら、分からないけど。じっと、ラヴァインに見つめられ、私は逃げたい一心で、視線を泳がせる。また、言っちゃいけないようなことを言ってしまったような気がして、口を縫い合わせたい。
「いいよ、兄さんと比べても」
「へ?」
「だって、兄さんは俺の目標だったから。似せてるって部分あるし、そう思われるのも仕方ないかも。まあ、血はつながってても、一緒なんてこと無いけどね」
「ラヴィ?」
「さて、エトワール。無駄話は、ここまでにしてさあ。彼奴をぶっ倒そうか」
と、ラヴァインは何かを隠すように、にこりと笑うと、ラアル・ギフトを指さした。
存在自体忘れていた。あまり、キャラが濃くないから。
でも、そんな奴に、私は攻撃喰らって、酷い目見せられた訳で。
(そうよ、今は集中……)
ラヴァインの言葉に引っかかりを覚えつつも、私は、今は目先のことに集中と頬を叩いて、スッと前を向いた。ラアル・ギフトが笑い、指を鳴らしたと同時に、先ほどよりも大きな地震が私達を襲い、空いた大きな蟻地獄のような所から、先ほどよりも大きなサソリが出てきた。
「う、うそ……」