michiruさんに捧げます🥰
二人で、「春」というお題で書いてみました。
私は、めめあべパート🖤💚
冬の終わりに、2年間付き合った彼氏と別れた。
2つ年上の、俳優業を生業としている人だった。冷たい2月の雨は、俺の身体も心も芯まで濡らして、次第に遠ざかる彼の後ろ姿を見送りながら、俺は少しだけ、泣いた。
別れると決めたのは俺の方なのに、悲しい顔をする資格は俺の方にはないのに。
はにかむと少し子供っぽくなる、日に焼けた彼の笑顔が好きだった。俺よりも大きな身体に肌を重ね、触れ合った時の包まれるような安心感にいつもこの上もない居心地のよさを感じていた。
別れのきっかけは共演している女優さんと彼がスクープされたからだった。
彼の目の中にわずかな動揺を読み取って、俺は勝手に傷ついた。話し合いになった時には俺と別れたくないとはっきり言ってくれて、本当は泣きたいくらいに嬉しかったけど、俺は結局彼を信じ切ることができずに別れることになった。自分の心を守るために俺は逃げ出したのだった。
もちろん嫌いになったわけじゃないから、当然、苦しい。一時期そのせいでテレビもあまり見なくなった。
そんな頃、演技の仕事を久々にいただいた。
彼から色々とアドバイスを受けたかったのにそれも無理になった。
🖤「阿部ちゃん、ドラマ、おめでとう」
💚「ありがとう、めめ」
🖤「緊張してる?」
💚「うん、かなり」
めめは笑って、手を重ねて来た。
💚「?」
二人の重ねた手を、自分の胸にあてる。
🖤「感じない?俺の心臓の音」
💚「………めめ?」
二人きりでいる控え室。
メンバーみんなの時間の都合が合うのが遅い関係で、そこからさらに深夜まで撮影が長引き、終わった後になんとなくめめと俺だけが残った。残っているスタッフもまばら。いつもは人の行き来で騒がしい廊下の音も、今はまったく聞こえない。
🖤「目を閉じて、耳を澄ませてみて?」
💚「…………」
とくとくとく。
めめの心臓は、早鐘のように鳴っていた。
🖤「俺ね、阿部ちゃんといるとこうなる」
おどけた顔に、思わず吹き出してしまう。 めめは、冗談を言って、和ませてくれたんだ。なんだか優しい気持ちになった。
💚「ありがとう、緊張ほぐしてくれて。俺、頑張るね」
そろそろ帰ろうかと、立ち上がる。
めめも黙って後からついてきた。
肌を刺すような寒さも、3月半ばすぎの今はだいぶ和らぎ、ところによっては桜の開花宣言もちらほら聞こえてきている。
それでも春は三寒四温。行きつ戻りつのもどかしい春の訪れだ。
外に出たら、なんと雨が降っていた。
それでもあの時の冷たいだけの雨とは違って、ほのかに温かく、匂うような優しい雨だった。
俺はなんだかこのまま帰ってしまうのが惜しい気がして、夜の散歩に、めめを誘ってみた。
このまま車の中に閉じこもるより、歩いて直に春の雨を感じてみたい。音とか、匂いとか。
💚「疲れてたら、別にいいんだけど」
🖤「疲れてないよ、歩こう」
二人で傘を差して並び、夜の道をわざと人気のない寂しい方へと歩いて行く。賑やかな表通りとは打って変わって、一つ路地を入っただけで、そこは穏やかで静かな散歩道に変わった。
💚「誰もいないね」
🖤「日付、変わってるから」
💚「そっか」
方向もわからず、適当に思いつくまま歩く。
こんなあてのない感傷的な時間にめめを付き合わせて悪かったなとだんだん俺は思い始めた。
そんな思いに呼応するように、雨が少し、強くなった。
🖤「ねえ、阿部ちゃん」
💚「んー?」
🖤「最近、何か嫌なことあった?」
💚「えっ…」
少し先を歩いていためめが、振り返った。
長身に黒いコートを着ていたので、一瞬彼のことを思い出した。彼もよく黒い服を好んで着ていた。
💚「……何もないよ」
🖤「俺はね、あったよ」
💚「そうなの?話、聞こうか?」
🖤「好きな人が、ちっとも気づいてくれない」
えっ。
めめも苦しい恋をしているのかな?
だからこんなふうに俺に優しくしてくれるのかな?
そう思った。
💚「そうなんだ」
🖤「ほら、気づいてくれてない」
そういうが早いか、めめは、傘を捨てて、俺を抱きしめた。
ぱらぱらと雨粒が傘を叩く音がする。
耳元に感じるめめの吐息があたたかい。
🖤「阿部ちゃん、俺、阿部ちゃんのこと好きなんだ」
💚「えっ、あっ?」
くすくす耳元で笑う、めめ。
🖤「可愛い」
思考が追いつかなくて、でも、自分より大きなものに包まれる感覚はやっぱり心地よくて。
耳元で囁かれた愛の言葉が甘くて。
薄暗い歩道の真ん中で、俺はめめに抱かれるままでいた。
郊外の、菜の花畑で有名な、今は廃線になってしまった無人駅。歳月に忘れ去られたような古ぼけたベンチに二人で並んで座っている。
この場所はめめがロケで知って、オフに合わせて連れて来てくれた。
空は快晴。抜けるような青い空と、眩しいほどの光が畑に燦々と降り注いでいる。春はまた進んで、今日はわずかに汗ばむような陽気だ。
目の前には一面の菜の花。その黄色い絨毯の真ん中で黄色の海に飲み込まれそうになりながら、二人でうっとりと眼前に広がる景色を眺めている。
圧巻の光景にしばらく言葉を失っていると、めめが言った。
🖤「阿部ちゃん、来てくれてありがとう」
💚「え?こちらこそありがとうだよ。こんな綺麗でいっぱいの菜の花、見たことない」
めめは俺の手を握る。
🖤「阿部ちゃん、俺と一緒にいてくれてありがとう」
💚「もう、何回言うの。ありがとうばっかり」
めめは、優しく唇を重ねて来た。
💚「ふふ。柔らかい」
🖤「阿部ちゃんの唇も、やわらかい」
唇が離れた後、めめが親指で俺の唇に触れた。
🖤「俺を好きになってくれて、ありがとう」
💚「ううん、こちらこそありがとう」
めめが何度もありがとうを繰り返すから、なんだか恥ずかしくなって、俺は笑った。
「ありがとう」が、まるで「好き」に聞こえる。
めめもつられて笑った。笑いがおさまって、二人静かになると、なんとなく目が合った。
そして、今度はもう一度、少しだけ深いキスをした。
おわり。
コメント
13件
素敵😍😍 映画みたい!!!めっちゃ好きです🖤💚
めめなべに続きめめあべで泣いてます‼️めめくんいっぱい‼️ めめあべだと優しい世界観でほっこりしてます🎵春のおとずれにピッタリですね!