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煙草もいい?って聞かれて頷くと、テーブルの隅に置かれた灰皿を自分の方へスライドさせた。
吹っ切れたというか、私の前で格好つけるのはやめたようだ。
煙草の火をつける手が、ゴツゴツして男性らしい。
パーツパーツを見るのは平気なのに私はどうして目の前で男の人と話すのが極端に怖かったのか。
「そうだ。結婚してエッチが気持ちよくなかったらショックじゃね? そんときは俺で試してみなよ」
「そーゆう話はあまり好きじゃないです」
「でも華怜ちゃんって婚前交渉絶対しないでしょ。相性最悪だったら、可哀そう」
「余計なお世話です」
それに愛がある結婚ではないので、セックスはしない。
この先、私はしない。
「あれー? 普通に話してるじゃん。やっぱ恐怖症克服?」
タイミングよく帰ってきた美香さんは、私と辻さんを交互に見る。
辻さんは灰皿を持ったまま、向かいの席に移ると美香さんが隣に座った。
「自分に気がある人が怖いみたいよ。饅頭怖いみたいな」
「いや、意味わからない」
「俺は眼中にないって。だから俺もフェロモン抑えたら、会話ができた」
「私にはもっとフェロモン出して」
ふふふとしなだれかかる美香さんに、髪を撫でてあげながら携帯を見だした。
辻さんはもう警戒するに値する人ではないと思う。
ここまで露骨に私に素を見せてくるんだから。
おばあちゃんの送ってくれる野菜は感謝しかない。けど、美味しくて素材そのままで食べれるから起こった悲劇なんだよ、生ハムきゅうり。
自分が悪いとはいえ、一生言われ続けるのはきっと恥ずか死ぬ。
悶々と考えながら電車に乗って、数駅でついてしまった。
彼の病院は、確かにカフェみたいな綺麗な外見だ。
弧を描くように作られたロータリーの真ん中の噴水には蓮が浮かび、ロビーの窓のステンドガラスは廊下に柔らかく色鮮やかな絵を映し出している。
一応、家に入る前に忙しくなさそうだったら病院に顔を出してって言われてたんだけど。
玄関横の窓から覗くと数人の患者さんが座っているので、どうしようか迷う。
いや、やはり仕事中にお邪魔するのは、いけない。
ここは、さっさと家に回って部屋を見て、メールをして帰ろう。
「あら、確か南城さんではないでしょうか?」
「えっ」
踵を返した瞬間、目の前に綺麗な女性が現れて内心飛び上がりそうなほど驚いた。
お団子頭に結んだ髪は全く乱れていないし清潔感が漂い、すらりとした高身長でパンツスカートが良く似合い、意志の強そうな凛々しい眉に自信がないとつけられないような真っ赤なルージュ。
とても目立つ方なので私も覚えている。ので、すぐに取り繕って微笑むことができた。
「お久しぶりです。日色さん。お世話になっております。前を通ったものですから、つい建物を眺めてしまいました」
ここの外科医さんだ。兄が、喬一さんが前の職場から引き抜いた女医だと紹介してくれた時がある。確か喬一さんより数歳年上だと言っていたっけ。
社交辞令だけで逃げろうとしたら、フッと笑われ私も笑顔が固まる。
「大丈夫です。院長から聞いてますよ。ご結婚おめでとうございます」
「え、あの、まだ、結婚はしていません」
しどろもどろになっていたら、不思議な顔をされた。
「そうなの? 院長が可愛いお弁当箱を使っているからどんな恋人がいるのかなってずっと気になっていたのよ」
「可愛いお弁当箱、ですか?」
「そう。紫色の水玉模様のお弁当箱。本人の趣味ではないって思ったんだけど」
「紫色……」
「年季が入ってるから、数年はお付き合いしてたんじゃないかなって思ってたんだけど、勘が外れたかしら」
#料理男子