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眠狂四郎
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#戦国時代
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153
バルカの末弟マゴ率いる騎兵千、歩兵千が、グラン軍の背後へ襲いかかった。
包囲は完成した。
グラン兵は、もはや逃げ場のない狩場へ追い込まれていた。
背を向けてトレビ川へ逃れようとした兵は、川に退路を阻まれる。
ある者はその場で討たれ、ある者は武器を捨てて捕虜となった。
「総司令、前です!」
「前方のガラリア兵が最も手薄です!」
「前を突破しろ!」
「はっ!」
センプロンは振り返った。
そこには、四方から迫る敵兵しかいない。
(……完全に囲まれた。)
「こんなはずでは……。」
最後の力を振り絞り、重装歩兵は盾を重ねて楔形陣を組む。
「総司令をお守りしろ!」
怒号とともに鉄の壁が前方へ突き進み、ガラリア兵の戦列へ激突した。
「ブラケルンだ。」
「あそこなら立て籠もれる。」
全軍へ命令が伝えられる。
突破に成功した一万余りの兵は、
大きく迂回しながらブラケルンを目指して退却を始めた。
(ガラリア歩兵では、あの重装歩兵は止められぬか。)
バルカは一瞥しただけで追撃を命じなかった。
(……まあよい。)
「残った敵を、一人残らず皆殺しにしろ。」
「はっ!」
包囲の輪はさらに狭まる。
バルカ軍は、逃げ場を失ったグラン軍をすり潰すように蹂躙していった。
グラン軍は死者二万、捕虜数千を出した。
バルカ軍もまた、ガラリア兵四千余りを失う。
さらに、アルペス越えを共にした軍象が一頭、厳しい寒さがもとで命を落とした。
バルカは静かにその亡骸へ歩み寄る。
「……よく戦ってくれた。」
そう呟くと、自ら毛布をそっと掛けた。
センプロンがブラケルンへ逃げ込むと、
武官たちは損害の確認に追われていた。
「……天候のせいだよな。」
誰に言うでもなく呟く。
「私は……間違っていなかったよな。」
センプロンは縋るような目で、副官たちを見渡した。
しかし、誰一人として口を開かなかった。
重苦しい沈黙だけが、部屋を支配していた。
グラン正規軍敗北の報は、瞬く間に北部ガラリア全土へ広がった。
人々は狂喜し、各地の部族は次々とバルカの旗の下へ集う。
バルカ軍はついに五万を超えた。
勢いそのままに、さらなる戦果を求めて南進を開始する。
――グラン王国にとって、本当の地獄は、まだ始まったばかりだった。
おそらく各地で呼応した反乱軍と戦っていたアグリは、
イージプでバルカ出現の報を受けた。
彼はすぐさまライナーへ書簡を送る。
「バルカの本当の目的は、おそらく……。」
その推測は、王国の命運を左右するものだった。
同じころ――。
キュラリアでも、父・大スピリタス負傷の報を聞いたスピリタスは、
パーカーブラザーズを呼び寄せた。
「こちらの反乱軍は、私が何とかする。」
「ライナー王の返書を待って、準備が整い次第スパルーニャへ向かってくれ。」
「承知しました。」
ジェームスとチャールズは一礼すると、静かに部屋を後にした。
一人残されたスピリタスは、地図へ目を落とす。
「さて……。」
「誰をもってしても、あの魔人に勝てる気がしない。」
しばらく沈黙した後、小さく笑った。
「だが――魔人は、一人なんだよな。」
トレビ敗戦の報は、グラン王宮を揺るがした。
宮殿は蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、
王に召集されたフラミンとゲミヌスは足早に書斎へ向かう。
書斎にはライナーとマエクス、
そして重傷を負った大スピリタスから届けられた辞表が置かれていた。
やがて二人は静かに一礼する。
「失礼いたします。」
重苦しい沈黙を破るように、ライナーが口を開いた。
「諸君も知っての通りだ。」
「四個軍団、五万の兵を率い、バルカを阻止せよ。」
「はっ!」
二人が退出すると、書斎にはライナーとマエクスだけが残った。
ライナーは静かに尋ねる。
「……勝てると思うか。」
マエクスは少し考え、ゆっくりと首を振った。
「わかりませぬ。」
「ただ……。」
「ただ、何だ。」
「今回の敗戦で、同盟諸都市の本音が見え始めております。」
ライナーの表情が険しくなる。
「……それは。」
「笑い事では済みませぬ。」
グラン王国本土――ナガグツ半島。
半島の中央には、南北へアペニー山脈が盾のように連なっている。
その西側中央に、王都グランは築かれていた。
新たに正副の元老院代表へ選ばれたフラミンとゲミヌスは、それぞれ軍を率いる。
バルカが東西いずれの街道から侵攻しても迎撃できるよう、
二つの軍へ分かれて布陣した。
バルカがどのルートを選ぶのか。
その答えは、誰にもわからなかった。
ライナーの許可が下り、命令書が届くと、
スピリタスはパーカーブラザーズへ一軍を託した。
「スパルーニャを討つ」
「バルカの帰る場所を奪うのだ。」
「承知しました。」
一方、スパルーニャでは、
バルカの弟ハスドバルが迎撃のため軍を率いて立ち上がる。
兄がグラン本土を揺るがし、弟は祖国で戦っていた。
戦火は、もはや一つの戦場では終わらない。
世界そのものが、この戦争へ飲み込まれていった。
コメント
1件
第51話、一気読みしちゃったよ…!😭💕 トレビの戦い、もう手に汗握る展開すぎて息するの忘れたわ!! バルカが軍象に毛布かけて「よく戦ってくれた」って言うシーン、あれで完全にやられた…。あの一瞬でただの敵将じゃないのが伝わってくるんだよね。 しかもセンプロンの「間違ってなかったよな」って弱音が痛すぎて胸が締め付けられた…。 スピリタスの「魔人は一人だ」って台詞にも痺れたよ〜!!🔥 各所で動き出す登場人物たち、まさに戦争のうねりって感じで、次がどうなるか気になって仕方ない!!続きが気になりすぎて夜しか眠れない…!!笑