TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

そして、表面に粉雪のようなイチゴパウダーが散らされた、温かなココア。


尊さんは、慣れた手つきでタルトにフォークを刺し、一口ずつその味を確かめるように


静かに、けれど美味しそうに味わっている。


その落ち着いた姿に誘われるように、俺もミルクレープを一口分、フォークで切り出した。


けれど、口に運んでも、いつもなら喉を鳴らすはずの甘さがどこか遠い。


昨夜の記憶が、まだ胃の奥に冷たく居座っているせいだろうか。


まるで砂か粘土を噛んでいるような味気なさを感じながら


「残してはいけない」という義務感だけで、機械的に咀嚼を繰り返す。


「恋、大丈夫か?」


不意に名前を呼ばれ、肩がびくんと跳ねた。


「えっ? あ、は、はい!」


驚きのあまりフォークを取り落としそうになり、慌てて握り直す。


視線を上げると、そこには食事を止め、こちらをじっと見つめる尊さんの瞳があった。


「食欲、ないのか」


尊さんの端正な顔立ちが、微かな曇りを帯びる。


隠しきれない心配が、その低い声から伝わってきた。


「……すみません、ちょっとだけ」


情けなさが込み上げ、思わず視線を逸らす。


せっかく尊さんが連れてきてくれたのに。


「別に謝ることじゃない。無理して食べなくていい」


尊さんの深い低音が、店内のBGMと溶け合って耳に心地よく響く。


その言葉に甘えるように、俺は重いフォークを皿の端に置いた。


代わりに、温もりを求めてココアのカップを両手で包み込む。


伝わってくる熱が、かじかんだ指先を少しずつ解かしていく。


熱を確かめるように、何度もカップを回した。


甘い香りを吸い込み、一口ココアを飲んで体を内側から温めると


溜まっていた思いが少しずつ、言葉になって溢れ出した。


「あの、尊さん」


「なんだ?」


「……俺、今、すごく複雑なんです」


「……」


尊さんは何も言わず、ただ俺が言葉を紡ぐのを待ってくれている。


「俺、尊さんのこと守りたいとか言っといて、元カレ相手にあんなに手も足も出なくて…弱いままで」


視界がじわりと滲み始める。


「そのくせ、自分一人じゃ何一つ解決できなくて。警察に行くのも、こうして前を向こうとするのも、全部尊さんに頼ってばかりで……迷惑かけて、なんだか、自分がすごく情けなくなっちゃって……っ」


言ってしまった。


せっかくのティータイムに、こんな重くて面倒な話。


自覚はあったけれど、一度決壊した感情はもう止められなかった。


「このままじゃ……駄目だってわかってるんです。だからっ…」


情けなさに耐えかねて俯いたその時、頭上から静かな、けれど有無を言わせぬ声が降ってきた。


「顔を上げろ」


心臓が跳ねる。


おそるおそる顔を上げると、尊さんは突き放すような冷たさではなく


諭すような、深い慈愛に満ちた目で俺を見ていた。


loading

この作品はいかがでしたか?

84

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚