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うわあ、冒頭から引き込まれた……。雨の夜、段ボールの中で震える小さな毛玉。読んでるこっちまで「そんな目で見るなよ」って声が出そうになったよ。目ヤニだらけだった子が、拭いたら美人さんになって、しかもそれを「あっ」て声が出るほどの変化って描写に、もう完全にやられた。最後の「運命の歯車がガチリと噛み合う」で物語の空気が一変したのも、めちゃくちゃ好き。これ、ただの猫拾い話じゃ終わらない予感がしてならない。続きが気になる……!
ダンボールを覗きこんだ私の目に飛び入ってきたのは、小さな毛玉であった。
なんだこれ。と突いてみると、毛玉はわずかに揺れ動き、私を見た。
—毛玉の正体は猫であった—
真っ白の、まるで雪のような体を小さくまとめ、じいっと寒さに耐えているらしい。
ニュースキャスターが嘘を吐いていなければ、今日の気温は3℃ほど。その数字が何を指し示すか——もとい、猫にとっていかに過酷であるかなど、私でも簡単に想像できた。
目ヤニだらけの、雨に濡れそぼった小さな琥珀色の瞳が、私を静かに見上げている。
—そんな目で見るなよ。
そう思った。
他の生物を愛する私にとって、何かを訴えている様にも見えるその目は、心を揺れ動かす大きな撞木となった。
気がつけば、私はダンボールの前で背を丸めて座り込んでいた。
—もしかしたら私は馬鹿なのかもしれない—
そう思って、私は微笑を浮かべた。
雨が、猫と私に遠慮なくぶつかり続ける。
—着いてくる?—
その一瞬、時が止まった様に感じた。
ずぐ、と心臓の奥が痛んだ感触が一瞬だけ肺腑を満たし、息が詰まる。
猫がか細く、み。と鳴いた。
私の意識が急速に現実引き戻され、猫を見る目に力が籠る。
水にふやけたダンボールの中に小さく鎮座していた猫の小さな体を、私は持ち上げた。
驚くほどに軽かった。見た目によらず小さく、ガリガリだ。
コートの中に腕ごと猫を突っ込んで、私は早足で路地を抜けた。
その先は、すぐに私の家だ。
大学に行くと言って、ど田舎にある実家を出てからというもの、約5年。ずっと世話になっている、こぢんまりとした一軒家。そこが私の家だった。
30年ほど前まで住んでいた家主が相当な猫好きだったらしく、壁や床が傷だらけのため、格安で売られていたのを私が借りているのだ。東京郊外にある家ということもあり、家賃はかなり安く済んでいる。
ゆっくりとドアを開けた。立て付けの悪いドアが、ぎ、ぎ、ぎ。と笑っているかの様な音を響かせる。
ドアの鍵を閉めてから、私は家に上がり込み、浴室に駆け込んだ。
と、その瞬間、一陣の風と共に、雨がいますぐ窓を開けろ。と怒鳴り始めた。
びち、びち、と雨が窓を叩く音が、すぐ真横で聞こえるのを横目に見ながら、風呂場へのドアをこじ開けた。
浴槽には、もちろんお湯など溜まってはいない。事前に沸かしていなかったのだから、当然である。
シャワーのノブを捻ると、数秒後に暖かいお湯が居場所を求めて飛び出してきた。
そんな彼らを桶の中にため、そこに猫をそっと置いた。
元々濡れていたためかは知らないが、猫はわずかに体を震わせただけで、特に何の抵抗もなく桶に収まった。
猫を飼っていない私が、猫用のシャンプーやらを持っているわけはないので、猫をお湯で温めてから、タオルで猫の小さな体を潰してしまわない様に丹念に拭き、私の家の中でも一級品の毛布で猫を包み込んだ。
猫を小脇に抱えて浴室から出ると、私は綿棒を手に取って猫の目ヤニを落とす。すると、みすぼらしかった猫は、あっと声が上がってしまうほどの美人へと生まれ変わった。
—明日病院に連れて行こう—
そう思い、私は猫をかごの中に入れた。本来ならば、そこは私の洗濯物の居場所だが、致し方なく譲ってもらうことにした。
かごにカイロを一つ入れてから、私と猫は寝室へと向かった。
現在時刻、午前4時。なぜ私はこんな時間に外に出ていたのかと不安になるが、それを考えるのは後でもいいだろう。
電気を消し、床に就く。この時にようやく自分が風呂に入らなかったことに気付いたが、すでに後の祭りで、睡魔が私の体を掴んで闇の中へ引き摺り込んでいった。
抵抗する間もなく、私の意識は深い闇の中へと消えていった。
—運命の歯車がガチリと噛み合う—
ネジが締まり、ボルトがハマる。
私たちの運命は、今この瞬間に、全て決定されてしまったのだ。
それは例えでもなんでもない、この世の極みの様な真実だった。
————歯車は止まらない。永遠に。ずうっと。
第二話:彼は、私の腕にいた。