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オレンジタイフーン
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オレンジタイフーン
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シンカスル悪夢④
…言葉とは裏腹に、彼の瞳からは希望の光は消えてはいなかった。
《くぬぬぬぬ~ッ!!
しぶといヤツですねぇ!
つまらない、つまらない、つまら~ないッ!!
もっと…もっとだ…醜く命乞いしてみせろ。》
彼は…しがみつくのが、やっとの身体にも関わらず、もう一度…よじ登ろうと無意識ながら全身に力を込めた。
トンネルの淵に薄ら笑いを浮かべたピエロが腰掛けながら彼の方向に身体を向けた。
すると…ピンと指先を弾いて甲高い音を鳴らすとポワンと小さな煙が立ち上り、その煙が消えると…何やらピエロ宛てのハガキを持っているのであった。
《ハ~イ!それでは…おハガキの時間となりました。
ピエロ大好きっ子さんからのハガキですね。
こんばんは…ピエロさん。
ハイ…こんばんは。
ふむふむ…鉄棒などの遊具にしがみついている時などに一本づつ指を離していって、どれくらい我慢出来るか?で遊ぶ事があります。
それで大人だったら一体、何本の指があれば…しがみつく事が…また、どれくらいの時間まで耐えられる事が出来るのでしょうか?
これって調べられませんか?
オ~ホッホッホッホッホ!
なんと…ピエロ大好きっ子さんの質問に相応しいモルモットが目の前にいますよ~!
オ~ホッホッホッホッホ!
それでは…検証してみましょうかねぇ!》
彼は苦々しい表情でピエロを睨み付けた。
《ホッホッホッホッホ~!!
今…目の前には死に損ないの大人の男が一人、十本の指で懸命にしがみついていますねぇ。
それでは死に損ないの貴方…一本づつ指を離してみてくれませんか?》
彼の鼻先にくっつきそうな程、ピエロは顔をにじりよらせて、これ以上ないくらいの笑顔を見せてくるのであった。
彼は顔を背け、煙たがると…また全神経を集中させてトンネルまで登りきろうと身体を動かし始めた。
《おやおや…素直に聞き入れては貰えませんか?
それじゃ仕方ないですね。
クイズを出しますから答えられなければ罰ゲームですよ!》
彼の意思に関係無く…クイズは開始される。
腰掛けていた淵からフワフワと彼の頭上に浮かぶと小躍りしてからクイズを出題し始めた。
《それでは…第一問、ベニサシユビとも呼ばれる事のある指は…一体、何指の事なんでしょうか?》
不敵な笑みで解答を待つピエロ…
「な、何のつもりだよ!
こんなのが楽しいのか!」
彼は…わなわなと肩を振るわせて憤る。
《……………ブッブ~!
残念ながらタイムオーバーです。
正解は…主に女性の小指の事を差す言葉なんですよ!
あ…ほら、こんな風に口紅を艶っぽくね。》
くねくねと身体中をくねらせながら口紅をさす女性の真似をしてみせる。
《ハイハ~イ…それじゃ、楽しい罰ゲームの時間ですよ~!》
ピエロは彼の背後に回り込み…彼の左手の小指をつまみ上げると、もう片方の手にしたナイフで野菜か果物でも収穫するみたいにザックリと刈り取るのであった。
「ぐ、グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーッッ!!!!!!!!!!」
断末魔にも似た声に鳴らない叫び声が夜の闇に響き渡る。
その声は次第にかすれた呻き声へと変わっていく。
ピエロは口をもごもごと動かしている。
至福の表情で…彼の小指を美味そうに食べているのであった!?
そして…ひとしきり味わうとブドウかスイカの種でも吐き出すように爪と骨をプップップッと夜空に向かって弧を描く様にして、器用に飛ばすのだった。
彼は…激しい痛みに耐えるしか無かった。
もしも…手を離せば、地獄へと…まっ逆さまに落ちていく。
こんな状況は…蜘蛛の糸に掴まるカンダタと同じなのであって…もっとも、蚊さえ殺した事の無い善良な青年が受けるべき仕打ちでは無いのだろうが………
彼の左手の小指があった部分からは…赤とピンク色のテラテラと光る筋肉の繊維と、ザラザラとした白い骨と、その中の赤黒い髄液らしき何かが確認出来る。
切り口の断面からは…湧き水みたいにドクドクと血が溢れ出していた。
そもそも…流れ出るだけの血など、彼には…もう無いハズなのにも関わらず、ドクドクと血が溢れているのは不可思議で奇妙である。
彼に恐怖と苦痛を与えるだけの悪夢なのだとしたら、これほどに惨たらしい事は無いだろう。
ピエロは…意地悪そうに微笑むと、お構い無しに続けて出題する。
《次は…是非とも正解して下さいね!
それでは第二問です!
人間の指の中には…心臓に繋がっていると言われている指がありますが…さて、一体、何指の事なのでしょうか?》
ピエロは軽快に口笛を吹き鳴らしながら…彼の解答を待ち続けた。
彼は…何かに急かされるかのようにして慌てた様子で答えた。
「あ…あ、あれだ、え~と…く、く、薬指だ!」
怯えるように不安そうに、震える声で彼は…答えた。
《んん~!?
ホッホッホッホ~!
大正解!………と言いたいところですが、惜しくも不正解ですねぇ!
正解は左手の薬指なんですよ。》
「ふざけるな!」
もはや、今のピエロの含み笑いを見てしまっては…どうあっても、少しづつ、少しづつ、自分の身体を切り刻んでいく事のみを楽しもうとしているようにしか思えず、何を答えたところで…いずれは殺されてしまうであろうと予測する事が出来た。
全てピエロの脚本通りの茶番劇だ…
そう感じると…痛みや疲れなどを考えている場合では無い訳なのである。
火事場のクソ力とでも呼ぶべき…何かに導かれるように両腕の力だけでトンネルの淵を登りきったのだった。
まるで男子体操の鉄棒競技で最初の大車輪へと移る際のように両脚を揃え、振り子の要領で加速して一気に行くのであった…
メダリストも真っ青の美しいフォームだ。
転がり込むようにトンネルの入り口に飛び込むと…そのまま一目散にピエロの横を掠めて駆け抜け、出口を目指すのである。
後ろから…大声で待て~ッ!と喚き立てるピエロの声が聞こえるが…もちろんと言うか、当然、無視する!
入って来た時とは何かが違う気もしたが…構わずに走り続ける。
数十センチ後ろからは…ピエロの声が聞こえている。
ようやく、出口らしき光が見えてきた。
弾けるように出口へと飛び出すと………
彼の目の前には見るからに怪しい大きな黒い影があった。
黒い塊は人のように口らしき赤々とした裂け目でニタァ~リと笑う。
すると…ドン!という衝撃を胸に受けた。
まさかと思いながら、無情にも再びトンネルの中へと転げ落ちていくのであった!
背中に刺さっていたままのナイフが…衝撃でさらに深く突き刺さる。
あまりの痛みに耐え兼ねて手の届く範囲のナイフを一本一本抜いていく。
ヌチャリとか…グチャリとか気持ちの悪い不快な音と皮膚を筋肉を焼くような痛みで、くいしばった歯が折れそうなくらいに力強く噛み締めて我慢する。
よくわからない黒い影に邪魔されたものの…
幸いにもピエロを振り切って出し抜けられたらしい。
自らの身体から抜き取ったナイフを片手に握り締めて出口へと身を乗り出そうとする……
出口の付近…いきなり彼の頭上から大声を上げて、ピエロがひょうきんな顔をして…舌をベロベロベ~と動かしつつ飛び出して来た!!
不意をつかられたものだから…口から心臓が飛び出るくらいに驚いた!
まるでビックリ箱の仕掛けのようである。
《オ~ッホッホッホッホ!
…お帰りなさ~い。
罰ゲームの続きの前に…先程の正解の詳しい説明をしないとね。
左手の薬指には心臓が繋がっていると言う事から結婚指輪をはめる慣習が出来たらしいのですよ。
言うなれば…互いに心臓を差し出すようなもの…永遠の愛を誓い合うには、とても素敵で実に愚かな行為ですよねぇ!》
うやうやしく…そう語りながら、バトントワリングみたいにくるくるとステッキを回転させてから、ゴルフのスイングでもするかのように…彼の負傷した脇腹を目掛け、猛烈な勢いで不気味なシャレコウベを叩きつけた!!
あばら骨が粉砕し、低く鈍い音がトンネル内にこだまする…
「………カハァッ!!」
彼は口から…おびただしい量の血と胃の中の内容物が混じり合ったものを一気に吐き出すと…もんどりをうって転げ回る。
すでに…幾つかの臓器は破裂し、あばら骨も何本かは折れたみたいだ。
もう、彼は…「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」と弱々しく声にならない呻き声を上げるのが精一杯であった。
カツカツ………
足音が…聞こえる。
静かに…マイペースに…苦悶の表情で苦しむ彼に、至上の快楽とばかりの愉悦に満ちた笑顔で近付いてくるピエロ。
《んん…どうしました?
…具合が悪いのですか?
でも…大丈夫ですよ!
まだ…殺したりしませんからね。
ふふふ、愉しいよぉぉ!!》
ピエロは…彼の頭の近くにぬらりと立つ。
当たり前のように右足を後ろへ振りかぶるとサッカーのシュートでもするかのように頭をボールに見立てて蹴り始めた…
ゴス…ゴスッ…と鈍く低い音を立てながら蹴り続ける。
…その度に彼はゴロゴロとトンネル内を転がり続けていく。
何度も何度も際限なく蹴り上げ続けられているうちに鼻は次第に、ぐにゃりと折れ曲がり…滝のように頬を伝って鼻血が流れ溢れていた。
目蓋は腫れ上がり…どす黒い紫色に変わっていて、血の混じった痛々しい赤い涙が零れていた。
耳の穴からも細く…一筋の線を引いたような糸みたいにして鮮血が静かにタラリと流れていた。
恐らくは…鼓膜が破れた影響による為では無いかと推測出来るのであった。
彼は…マネキン人形のように、呻き声ひとつ無く…くたりと動かなくなってしまっている。
ピエロの容赦無い凶行は…尚も続けられる。
ピエロが脚を振り上げる度に動けない身体でありながらもビクッと身を潜める。
もはや全てが無駄な行為であるのに………
但し…何故なのか、不可解で仕方がないのは…未だに虫の息と言った様子でありながらも意識はハッキリとしているのだ。
永遠に恐怖と痛みに耐え続ける地獄のように思えれる。
もう…どこが…どんな風に痛いのかも感じられない。
否、身体の防衛本能が痛覚を遮断したのかも知れない。
《あ~ぁ、飽きてきました…もう少し遊べるかと思いましたがね。
そろそろ…ゴールを決めましょうかねぇ!》