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第1話:招待された眠り
目を開けた瞬間、そこは焼けるような砂の海だった。
砂漠。見渡す限りに地平線。陽光は容赦なく照りつけ、砂が熱を孕み足裏を焦がす。
「……ここは?」
遠藤 蓮(えんどう れん)は黒髪短髪、眠そうな目をこすりながら立ち上がった。大学生の普段着、グレーのパーカーにジーンズ。だが、背筋に冷たい汗が伝う。――これは夢だ。明晰夢の感覚が確かにある。
次々に人々が目を覚ます。
茶色のショートボブを風に揺らす少女、相原 凛。モカのシャツの袖をまくり、まだ事情を掴めず怯えた目をしている。
筋肉質でスポーツ刈りの男、高城 翔はTシャツ越しに張りつめた腕を見せ、砂を踏み鳴らして周囲を睨んでいた。
派手なピンク髪をポニーテールにまとめた南雲 さやは、蛍光色のパーカーを羽織り「ドッキリじゃないよね?」と半笑いで言う。
スーツ姿の八坂 圭吾は汗ひとつ見せず、冷たい視線で人々を数えていた。
その瞬間――空に響く声。
「参加者は三十名。ここは夢の戦場。生き残れるのは最後の一人のみ。敗者は現実でも死ぬ。初期スキルを授与する――」
全員の頭に情報が流れ込む。
「体術」「応急処置」「直感」「詭弁」……スキルが脳に刻まれていく。
ざわめきが走る中、最初の混乱が起きた。
元暴走族の堂島 龍一。金髪リーゼント、革ジャン姿の巨体が、隣にいた痩せ型の青年に拳を叩き込む。
「ふざけんなッ! ここから出す方法を言え!」
青年は悲鳴を上げ、砂上に崩れ落ちる。高城 翔がすぐさま前に出て堂島の腕を掴んだ。筋肉と筋肉が軋み合う。汗が飛び散り、皮膚の摩擦音さえ聞こえる。
「やめろッ!」
しかし堂島は笑みを浮かべ、再び拳を振りかぶる。その刹那――青年の胸が裂けた。血が砂に飛び散り、熱にじわりと蒸発していく。現実の死と同じ重み。
凛が駆け寄り、袖を血で濡らしながら手を震わせる。
「……脈がない……」
静寂。三十人のうち、二十九人が砂漠に立ち尽くした。
誰もが理解した。これは本当の死のゲーム。
その砂漠を渡る風の音だけが、やけに鮮明に響いていた。