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初の外出に、ルティ様の過保護ぶりが遺憾なく発揮された。
「……まず馬車に行かれても、ダメージを受けない竜蚕の布で編んだコートです。夏でも冬でも調整の利くように付与魔法を駆使しています」
「ふよ」
付与魔法効果はブリジットが知る限り、通常数時間程度なのだけれど。
「次にペンダントは、海竜の鱗の一部を使って作りました。これでどこにいても、すぐにわかります。万が一にも誘拐された場合に備えて、避難転移魔導具。それから……」
(どれも国宝級の素材っ!?)
着替えだけでお昼前になりそうだった。そして外の世界、町を歩くのだけれど私はルティ様に抱き上げられている。
今年十九歳なのに、こんな扱い嫌だ。そう思ったけれど、肉体年齢はなんと六歳。十歳ですらなかったのだ。
それに気づいたのは、鏡で自分の体を見た時だった。六歳なら手を繋いで歩けると重いのだが、そこは過保護なルティ様には通用しない。
「さて私たちが住んでいる都市について少し話しますね。西の森フェアリーロズの中で最も栄えているのは エルフが統治をしている世界樹都市カエルラ、他種族の集まる貿易都市アルブム、観光名所かつ癒しの温泉都市のリディスと大きく三つの都市が別れている。私の家は温泉都市リディスにあるんですよ」
私の知っている頃は西の森フェアリーロズと呼ばれていたけれど、今は世界樹を中心にそびえ立つ西大陸を覆うほどの森となっていた。
(やっぱり似ているけれど、違うことが多い)
温泉都市というだけあって、至る所で湯気が上がっているのが見えた。硫黄臭さはなく、ハーブのいい匂いがする。家は白い壁、オレンジの屋根で統一されていて、三階建まで。商店は看板が出ているので、分かり易い。
緑も多く、たった十九年でここまで樹木は成長しないはずだ。
「人もそこまで混んでなくて良かった。シズク、近くに雑貨屋があるので食器類を揃えましょうね」
「……無駄遣いは良くないです。マグカップだけ買いましょう」
「シズクは謙虚ですね。そんなところも可愛い」
頭の中がお花畑満開のルティ様に訴えるが、全く効果がなかった。そのまま雑貨屋に。
カララン、と耳に響く鐘の音で来客を出迎える。店内は落ち着いた雰囲気で、オシャレな家具や陶器類があった。
「ひとまずシズク用の物は、私とお揃いに」
「そこまでしなくても……」
白銀の耳が一瞬でへにゃりと垂れ下がった。放っておいたら死んじゃいそうなほど、悲壮感に溢れている。絶望のオーラが凄い。
絶望のオーラって、そう簡単に出る者じゃないと思うのだけれど。
「……お揃い」
「うう……、分かりました。ティーカップと、マグカップはお揃いにしましゅ」
「シズク!!」
(うう……大事な所を噛んでしまった)
ぱああ、とルティ様は満面の笑みを浮かべた。その笑顔を直視していた女性が何人か倒れる音がしたが、見なかったことにする。お揃いのマグカップは私が選んで、ティーカップはルティ様が選ぶと提案したら快諾してくれた。
お揃い。
ふと二つのカップが揃うと、両翼になる可愛いデザインを見つけた。可愛い。
「シズクはコレが気に入ったのですか?」
「あ、えっと、はい」
ルティ様は店員さんに声をかけて、お会計と発送を頼んだ。この都市では常連客へは発送のサービスもしているらしい。
「ルティ様。お金は……」
「シズクが心配しなくても、十分蓄えはありますよ」
そこでルティ様のお仕事内容を聞いて驚いた。森の声を聞いて、問題を解決することと薬師として生活している。基本的に西の森丸ごとの管理者なので、領地運営から得る財産はすごい数字だった。
(そういえば、家に来る人は薬とかなにか貰っていたわ……)
「魔物が出ないように、森の調整も行っていますからね。たとえ百年は何もしなくても、お金は入ってくるばかりなので、問題ないですよ」
(忘れていたけれど、ヴィクトルは天狐族の次期国王だった。地上の統治なんて朝飯前よね。……同一人物とは思えないけれど)
私を抱っこして歩く姿は、間違いなく仲の良い親子だ。そんな私たちを見る視線は微笑ましい眼差しと、敵意が混じっていたことを私は気づいていなかった。
***
(思った以上にルティ様は顔が広いみたい)
「まさかフードとコートを止めただけで、こんなに話しかけられるとは……」
普段はコートとフードで顔を尻尾を隠しているらしい。ここに来るまでに色んな人に呼び止められて、私が《片翼》だと紹介して、ルティ様は祝福の言葉を貰っていた。誰も彼も笑顔で、私にも優しい。
人族の《片翼》なのに。
どうして自分のことのように、喜んでくれるのだろう。
「少し遅くなりましたが、シズク。ここが希望の図書館です」
「!?」
ファンタスティックな建造物を前に、ワクワクが止まらない。私がニコニコだからか、ルティ様も笑顔で尻尾がブンブンと揺れている。
本当は本屋に行きたかったのだが、臨時休業でお休みだったのだ。そこで急遽、図書館に行くことになったのだが、こちらで正解だったと思う。
「図書館!」
「はしゃぐシズクも可愛いですね」
圧巻とも言える本の数々に感動した。
本の香りに、静謐な雰囲気。円形の書架には様々な本が見られた。微かにラベンダーの香りが鼻腔をくすぐる。
ラベンダーはドライフラワーにして飾ってあるのが見えた。なんとなく祖国のラベンダー畑を思い出した。
「シズク?」
「あ。本は何冊まで、借りても良いのですか?」
噛んだ。すっごく恥ずかしい。でもルティ様は笑顔のまま。馬鹿にもしないし、呆れもしない。
「シズクが借りたいだけ良いですよ」
「……!」
心躍る返答に、思わず嬉しくてルティ様にギュッと抱きしめた。前世でも本は高級な物だったし、天狐族の天空都市には本はなかった。いや正確に言えば、見たことがなかったが正しい。
「シズクからのハグ……っ」
「ルティ様! 本を見て歩きたいので、下ろしてほしいです」
ジタバタしてみたのだが、ルティ様は離そうとする気配がない。いつになく真剣な顔をしている。
「図書館は危険がいっぱいだから、一緒に見て回りましょう」
「(図書館にいったいどんな危険が!?)でも……」
「図書館は魔界の巣窟です。気づけば時空が歪み、ふとした時に探していた本が見つかるというトラップが至る所にあり、気を抜けば最後の一冊を奪われる」
元の世界のように、重版や同じ本を売っていることは少ない。そう言われてしまえば本の出会いは一期一会で、運の要素も大きいだろう。
「ゴクリ。危険しかない」
「そうでしょう」
「勝手にうちの図書館をダンジョンみたいにするのは止めてくれ」
そう言って声を掛けてきたのは、ほっそりとした紳士服の初老の男性だった。これから社交界にでも出かけるようなキッチリとした姿で、灰色の髪に、長い髭がチャーミングだ。
「マスター。事実でしょう」
「そんな評価を下すのは本狂いぐらいだ。さて、お初にお目に掛かるルティ殿の片翼、リトルレディ。私はここの館長を務めますマスターと申します、探している本があるのなら言ってくれたまえ」
おお、紳士的な挨拶は貴族のそれだ。もしかしたら元貴族、今も貴族なのだろうか。趣味で本の亭主をしているとか。興味津々に見ていると、ルティ様が視界に入ってくる。琥珀色の瞳と目が合った。
「シズクはマスターが気に入ったのですか?」
耳がそわそわと揺れて、今にも泣きそうな顔をしている。なぜだか分からないので、首を傾げる。
「本を好きな人に、悪い人はいません」
「それは異性として好きではないということですか?」
「はい?(この人、何を言い出すの!?)」
ルティ様の意図が分からず、小首をかしげる。初対面で好きとか嫌いとか分からないのに。
「……ルティ殿、狭量すぎでは?」
「分かってはいるのですが、シズクが異性と接触するのを見るのは心臓に悪いのです。ここまで……とは」
「?」
どうして私がここで出てくるのだろう。これも種族による感覚の違いなのかもしれない。とにかく心配そうな顔をしているので、ルティ様の頭を撫でて見たら少し回復した。角のほうもさわさわしたら、頬が赤くなる。もしかしたら角に触れられるのは種族的に好きなのかもしれない。これは新しい発見だ。
「初々しいですな。普段無愛想なルティ殿が、ここまで表情を崩されるとは」
「私は《片翼》のことよくわかないので、詳しい本が読みたいでしゅ」
#悪役令嬢
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