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「いきなり出てきやがって、どういうつもりだあんた!」
「はっ、怒鳴り散らして何が怖いんだ」
玄関から続く廊下の先にあるドアを開くと、大きく広がるリビング。その奥にあるソファーで脚を組みこちらをギラリと射抜くように見据えるのは高遠はじめだ。
「……随分な言いようだな」
立ち尽くす雅人の背にそっと触れる手は、避け続けた母のものだ。「雅人」と短く名を呼びかけてくるが、正直冷静に話せそうにもない。
「散々好き勝手生きてきて今更出てくるな!罪滅ぼしのつもりかよ? つまらない爺さんに成り下がったもんだな!」
雅人が声を荒げようとも、表情を変えないはじめにますます怒りが増していく。
「なんの気まぐれだか知らねぇけど、母さんや優奈を巻き込むなよ。自分が何してきたかわかってんなら一人で寂しく老後でも過ごして死ねばいいんじゃないのか!?」
「ちょっと、まーくん!」
握りしめる拳に、今度は優奈の手が触れる。
重苦しい空気の中、そんなものを感じとっていないかのよう。口を開いたのははじめだった。
「ああ、そうだ。俺は女子供を幸せにしてやれる男じゃなかった」
「わかってんなら……」
「ああ、なるほどな、お前もか。だから逃げるか」
(いちいち……この男)
「意味がわからない」
「中途半端な男だって言ってんだ俺はよ。こんなもんだろと予想してたけど、まあそれ以上だな。優奈を巻き込んでるのはテメェだろ」
「高遠のパパ! ちょっと……」
割って入った優奈の声には反応を見せずに、はじめの声は雅人を責めるように続いた。
「俺は派手なのが好きだから結婚式なんかはなぁ! 盛大に祝ってやりたいし、お前も祝ってやれよ。要は優奈が惚れる相手見つけりゃそれで丸く収まるわけだろが? そこにお前が口出すも邪魔するも、なんの権利もないってもんだな」
「祝う?」
「おう。見合い写真なんかも早苗に用意させてよぉ」
はじめが座る隣に見えるものは書類ではなく見合い写真の台紙だったか。
(なんてもん……用意してくれてんだ! 見たくもない!)