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姫野浩二支援者が集まる晩餐会が開かれている、神戸メリケンパークオリエンタルホテルのグランドホールを埋めていたのは、ほとんどがZ党の支援者だった
優雅な晩餐会のテーブルの上座に鈴子達の席は用意されていた、増田と榊原に挟まれて食事をしてもなぜか鈴子は食べ物が喉を通らなかった、鈴子の目はあちこちのゲストと握手を交わして回る姫野浩二の姿を求めてキョロキョロ動き回っていた
彼女の頭から離れないのは、ほんの数週間前に彼と鈴子のオフィスで一緒にランチボックスを突ついた楽しいひと時だった、そしていよいよ姫野浩二が鈴子達のテーブルにやってきた、鈴子の喉は急にカラカラになった
「お礼を申し上げるのが遅くなってすみません、私の基金にご寄付いただきましてありがとうございました、本当に心から感謝しています」
鈴子は周囲を見回して言った
「ずいぶん大勢お集まりですね」
浩二は笑顔でうなずいた
「ええ、皆さんに支援して頂いて、私は果報者です」
瓶ビールを手に持って姫野浩二が増田に酌を進めている
「よっぽど今の知事をみんな引きずり降ろしたいんですね」
酌を受けながらガハハと増田が失礼な事を言って笑う
「応援しますよ!」
「応援するからにはわが社にも良い思いさせてくださいよ」
酔っている増田と榊原が浩二に冗談を飛ばす
―もうっ・・・二人ったら彼に失礼じゃない!―
鈴子は少し彼に無礼な態度を取る二人に不機嫌になった、それなのに彼は嫌味も誉め言葉と嬉しそうに冗談を交わして増田達と笑っている
その時彼を見ていた鈴子の心臓が止まるのではないかと思った、いつもぼんやりしてはっきり描けなかったイメージが浮かび上がった
今日のこの日まで心の奥に漠然と抱き続けてきた理想の男性像が目の前に立っていた、Z党のバッジをブラックのスーツに光らせた素敵な男性・・・
まるで天から降りて来たように、鈴子の夢の男性が二本の足で立って、みんなと笑っていた、鈴子の記憶は、もうふた昔も前の少女時代へ飛んだ。
「伊藤会長?どうかされしたか?ご気分でも?」
浩二が心配そうに鈴子の顔を覗き込んでいる、ハッとして今、昔へトリップしていた自分に驚いた
「いえ・・・・私・・・なんでもありません」
鈴子は息が詰まって呼吸するのもやっとだった、姫野浩二が顔に浮かべたその優しい微笑みは、鈴子がずっと心に温めてきた理想の男性の優しい笑みと寸分違わなかった
―ああ・・・私・・・この人に恋してるわ―
鈴子がずっと憧れていたハーレクィンのヒーローが小説の世界から生きたまま飛び出して来たのだ、途端に鈴子の世界が彼を通して色づいた
「それでは・・・そろそろ我々はおいとましようか?」
増田が鈴子の顔を覗きながら尋ねた
「そうですね、顔を出したんだし、義理は果たしたでしょう、料理はなかなかよかった」
榊原もビジネスバックを持って立ち上がった
―私・・・まだ居たいわ・・・―
鈴子はそう心に思ったが、夢の世界から出て来た王子様は遠くの方で裕福そうな支持者のおばさんに掴まっていた
「ええ、おいとましましょう」
鈴子は明るさを装いながら、しぶしぶその場から増田達と立ち去った、帰りのリンカーンの中でも鈴子は二人の話にはうわの空だった
―個人的にあの人と二人で会うのはどうすればいいのかしら・・・―
鈴子はその考えを頭から払いのけることがいつまでも出来なかった