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第六章 満ちゆく月
第七話 光の国へ
翌朝。
宿場町は朝から騒がしかった。
通りには、既に多くの人が行き交い、 馬車の音や商人の呼び声が響いている。
窓から差し込む朝日を眩しそうに見ながら、 ダイチは大きく伸びをした。
「ん゛〜……よぉ寝た」
ベッドへ座ったまま欠伸を噛み殺す。
その向かいでは、ジントが静かに荷物をまとめていた。
黒いローブのフードを深く被り、淡々と旅支度を整えている。
「ジント、ちゃんと寝れた?」
「……まあまあ」
「絶対寝れてへん顔やん」
「うるさい」
無愛想な返事。
けれど昨夜よりは、少しだけ表情が柔らかい。
ダイチは小さく笑う。
「今日は物資補充したら、そのまま帝国方面の街道出る?」
「うん。
満月までに帝国へ入りたい」
その言葉に、ダイチは少しだけ真顔になった。
満月。
その単語が出るたび、最近は胸の奥がざわつく。
けれど今は、何も言わなかった。
「ほな行こか」
宿を出ると、冷たい朝の空気が頬を撫でた。
空は高く晴れている。
けれど街の空気は、どこか落ち着かなかった。
広場には、簡易的な柵が作られている。
武装した兵士の姿も多い。
昨日より明らかに警戒が強い。
「……なんか物々しいな」
ダイチが辺りを見回す。
通りを歩く人々の声も、どこか張り詰めていた。
「また東門付近で出たらしい」
「満月前だからだろ」
「最近多すぎる……」
魔物。
瘴気。
そんな単語が、あちこちから聞こえてくる。
ジントは無意識にローブの袖を握った。
ざわざわする。
街の中へ入ってから、
ずっと胸の奥が落ち着かない。
人々の不安。
恐怖。
苛立ち。
色んな感情が、微かに流れ込んでくる。
「……っ」
突然、ジントが小さく顔をしかめた。
「ジント?」
「……平気」
そう言う声が、少し掠れている。
ダイチは眉を寄せた。
けれど。
「いらっしゃい!焼きたてだよ!」
露店の店主の大声が響き、空気が途切れる。
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香ばしい匂いが漂った。
ダイチは少し迷ってから、無理やり明るく笑う。
「なんか食う?」
「……いらない」
「またそうやって」
ダイチは半ば強引に、焼きたてのパンを二つ買った。
「ほら」
「……子供扱い」
「ちゃんと食わん奴が悪い」
ジントは不満そうな顔をしながら、小さくパンを齧る。
その様子を見て、ダイチは少し安心したように息を吐いた。
市場は広かった。
保存食。
薬草。
水袋。
必要なものを揃えながら、
二人は街を歩く。
その途中。
教会の前を通りかかった瞬間だった。
「――っ」
ジントの身体が、
ぴたりと止まる。
高い鐘楼。
白い石造りの壁。
太陽の紋章。
その中心を見た瞬間、頭の奥が鋭く痛んだ。
「……ぁ」
視界がぐらりと揺れる。
耳鳴り。
胸のざわめき。
嫌な感覚が、一気に膨れ上がる。
「ジント!?」
ダイチが慌てて腕を掴む。
ジントは咄嗟に、教会から目を逸らした。
すると少しだけ、呼吸が戻る。
「……どうした?」
「……分からない」
けれど、本当は分かっていた。
あの場所。
嫌だ。
近付きたくない。
まるで本能が、拒絶しているみたいだった。
ゴォンーー
低い音が街に響く。
町の門が開く合図だった。
帝国へ続く街道。
門の向こうには、広い道が真っ直ぐ伸びている。
行き交う旅人達が、次々と外へ出ていく。
ダイチが荷物を背負い直した。
「行くか」
「……うん」
ジントも静かに頷く。
そして二人は、人の流れに紛れるようにして、ゆっくり門の外へ足を踏み出した。
第六章 完
コメント
1件
comiさん、第6話読み終えました! ジントの胸のざわつきや、教会の前で足を止めた時の拒絶反応がすごく生々しくて、思わず息を呑みました…。「本能が拒絶している」って表現が、言葉にできない過去の重さを感じさせて苦しい。 でもダイチが無理に明るく振る舞ってパンを買ってくれるところ、ああいう優しさが沁みますね。満月が近づく緊張感もあるし、次が気になります!