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第六章 満ちゆく月
番外編① 青い力の目覚め
ラディスを旅立ってから、およそ三か月。
今二人のいる東の小国の王都は、収穫祭を控えた人々で賑わっていた。
通りを行き交う馬車や荷馬車。
その両側には様々な屋台が並び、店主の声が飛び交う。
そんな喧騒に包まれた王都の中央。
立派な石造りの仕事案内所。
その壁一面に貼られた依頼書を前に、ダイチは腕を組む。
「薬草採取、鉱石集め、畑仕事……」
依頼書を一枚一枚眺めながら唸る。
「やっぱ魔物討伐が一番ええなぁ。」
ジントは苦笑した。
「危ないし。」
「でも報酬は倍以上やで?」
「……今のオレたちじゃ厳しいよ。」
ジントは掲示板から目を離し、小さく息をつく。
今の自分にできることは少ない。
旅の途中で買った、火属性の魔石を埋め込んだ杖で援護はできる。
けれど魔物を倒せるほどではない。
それに魔道具は、魔石の魔力が切れたらそれ以上は使えない。
最後は、ダイチが弱らせた魔物の瘴気を吸収するしかない。
そしてその瘴気を受け止めるたび、胸の奥は焼けるように苦しくなる。
それでも、平気な顔をしているだけだった。
ダイチ一人に頼るわけにはいかない。
そんなことを考えていると、一枚の依頼書が目に入った。
「……これ。」
ダイチも覗き込む。
『月白草採取』
「報酬、魔物討伐とほとんど変わらへんやん。」
「満月の夜しか咲かないから。」
ジントが説明する。
「貴重な薬になるし、数も少ない。」
「確かに明日が満月やけど……」
ダイチの表情が曇る。
「ジント、大丈夫なんか?」
ジントは少し考えてから頷いた。
「ここへ来る途中、街道沿いの森で蕾を見たんだ。」
「城門から近いし、見つけたらすぐ戻れば平気だと思う。」
ダイチは少し迷ったあと、小さく笑う。
「……分かった。」
「無理や思たらすぐ帰る。」
「約束やで。」
ジントも静かに頷いた。
-–
翌日の夜。
満月。
城門を抜ける頃には、空は厚い雲に覆われていた。
月明かりは届かない。
それでも森には、薄い瘴気が漂っている。
「寒ないか?」
「……平気。」
そう答える声は、少し掠れていた。
満月が近づくたび、身体の奥がざわつく。
けれど今日は目的がある。
長居はしない。
二人は魔石灯の灯りだけを頼りに森を歩いた。
やがて、
「あった!」
草むらの奥で、小さな白い花が月を待つように咲いていた。
月白草。
淡く青白く光る花弁は、本当に月の欠片のようだった。
「これやな。」
二人で丁寧に摘み取り、籠へ納める。
「よし。」
ダイチが立ち上がる。
「帰ろか。」
その瞬間だった。
厚い雲が流れた。
満月が姿を現す。
白い月光が森へ降り注ぐ。
そして漂っていた瘴気が、一斉に形を持ち始めた。
「……っ!」
気がつくとそこには、狼のような魔物が三体。
赤黒い瞳が、一斉にジントを見据えた。
「ジント、下がっとれ!」
ダイチが剣を抜く。
青い魔石が月光を受けて輝いた。
飛び掛かる一体。
鋭い剣閃。
火花。
もう一体はジントへ迫る。
ジントは杖を構え、小さな火球を放つ。
魔物が悲鳴を上げる。
しかし最後の一体。
一際大きな魔物だけは止まらない。
一直線にジントへ飛び込んだ。
「ジント!!」
ダイチが叫ぶ。
届かない。
そう思った、その瞬間。
胸の奥が熱く燃えた。
守りたい。
ただ、その想いだけだった。
拳から雷が弾ける。
脚へ水流が巻き付く。
身体が勝手に動く。
轟音。
雷を纏った拳が魔物を吹き飛ばした。
その勢いのまま、蹴りが残る二体を薙ぎ払う。
雷光と水飛沫が夜の森へ散った。
静寂。
動かなくなった魔物から瘴気が立ち昇る。
ジントは目を閉じる。
深く息を吸い、心を静める。
恐怖も、苦しみも、一度胸の奥へ沈める。
そして静かに瘴気を受け止めた。
魔物が抱えていた感情が押し寄せる。
苦しい。
それでも受け止める。
やがて瘴気は静かに消え、森に夜の静けさが戻った。
ダイチは自分の拳を見つめる。
まだ青白い雷が小さく弾けている。
足元では、水が意思を持つように揺れていた。
「……なんやこれ。」
ジントも驚いた表情で見つめる。
「ダイチ……。」
ダイチは拳を握ったり開いたりする。
「自然に出た。」
「守らなあかんって思ったら……身体が勝手に動いた。」
しばらく沈黙したあと、足元へ落ちた剣を拾い上げる。
水属性の青い魔石の埋め込まれた剣。
しばらく見つめてから、苦笑した。
「……俺。」
「こっちより拳の方が向いとる気ぃする。」
ジントは思わず笑う。
「確かに。」
「昔から喧嘩する時は拳だったもんね。」
「そら喧嘩は拳やろ!」
ダイチが笑う。
その笑顔を見て、ジントも少しだけ肩の力を抜いた。
ーーー
王都へ戻った頃には、夜も更けていた。
月白草を納品し、報酬を受け取る。
宿へ戻ると、二人はほとんど同時にベッドへ倒れ込んだ。
「疲れたぁ……。」
仰向けになったダイチは、自分の拳を見つめる。
まだ微かに残る熱。
今日生まれた、新しい力。
ゆっくり拳を握る。
ーーこの力で、俺はジントを守るんや。
そう心に誓って隣を見る。
ジントはもう、静かな寝息を立てていた。
窓から差し込む満月の光が、黒髪を静かに照らしている。
ダイチは小さく微笑み、安心したように目を閉じた。
月だけが、二人を優しく見守っていた。
コメント
1件
うわあああ番外編で青い力の覚醒シーン来たー!!😭💕✨ 満月の夜に咲く月白草、瘴気に反応する魔物、そして「守りたい」って一心で雷と水流がほとばしるシーンがもう映像のように浮かんでエモすぎた…!ダイチの拳闘士覚醒も熱いし、ジントが瘴気を必死に受け止めてる姿に胸がギュッとなる…。二人の距離感と信頼関係がにじみ出てて、今回も最高でした!次話も楽しみにしてます🔥✨