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第三十五章 青の朝
湖畔近くのホテルにふたり。
窓の外は、レイクルイーズの夜。
深さを増した深藍の湖面。
闇に吸い込まれそうなほどの深い青。
雲に隠れていた、お月様が湖を照らした。
湖面に映ったお月様が漣にゆらゆらとダンスしてた。
コーヒーの香りが立ち込める。
「寒いだろ?いい加減こっちへおいで」
窓を閉めると、結露するガラス窓に、微かに蓮の姿が映った。
ソファに座ると、ブランケットを肩に掛けてくれる。
膝を抱えて座ると、温かいコーヒを啜った。
「あったかい」
「ふふっ」
時計の針が、二人の時を刻む。
別れの時が近づく音……じゃない。
二人の時を刻む音だ。
愛し合う音。
寂しくないと言ったら嘘になる。
離れたくない。
それは変わらない事実だ。
「離れたくない」
「うん」
「寂しい」
「うん」
「たまには魔法使いになってもいい?」
「だめ……
懲りてないの?ダメに決まってるだろ」
「違うよ……」
「?」
「蓮が俺のこと
もっと好きになる呪文かけたいの」
「……」
少し笑った蓮。
「これ以上どうしろと?
食べちゃうぞ」
「きゃあっ///」
ソファから立ち上がり窓際に逃げる。
追う蓮。
「ちょっ…ほんとに!?」
「言っただろ」
「バカ何考えてるんだよ!」
「エッチなこと」
「きゃあっ////」
月明かりが、白いシーツの上で揺れていた。
カーテンの向こうで、湖の水が静かに呼吸している。
シーツが擦れる音。
小さく息を飲む声。
蓮の腕が、逃げ場をなくすみたいに俺を抱き寄せた。
二人の奏でる音が、レイクルイーズの夜に静かに溶けていく。
朝の湖は靄に覆われていて幻想的だった。
時間と共に視界は晴れ、
湖面の上を湯気のように立ち昇って消えると、
レイクルイーズの青と同じ、
真っ青な空が高く広がっていた。
「おい……もう朝だぞ蓮」
「ふふっもう一泊してよ翔太」
「無理言うなよ」
キッチンに立つ蓮。
湯気の立つ台所。
纏わり付く俺。
「料理しづらいんだけど」
「うん」
「うんじゃないのよ……はぁまったく」
「離れ難いのさっ」
「知ってる」
もう背伸びなんてしない。
我慢もしない。
「俺はお客様だぞ。早く朝ごはん食べさせて」
「代金は身体で払ってね」
「なっ!」
思わず、蓮の腰に回していた腕が離れた。
クスクス肩を震わせて笑う蓮。
当たり前の風景がそこにはあった。
「冷蔵庫からお味噌とって」
「俺が入れてあげる」
お玉にお味噌を入れて溶かす。
「なに?怖いんだけど」
「ふふふっ……最後にひと匙」
不適な笑みを浮かべて混ぜる。
「魔女からの贈り物」
「こらっ翔太!魔法はもうダメって言ったろ!」
「巻いて巻いて」
揺れる鍋。
慌てる蓮。
混ぜる俺。
「早く帰ってこい」
泡立つ味噌汁。
俺は鍋を混ぜながら笑う。
「とびっきりの〝おまじない〟
かけといたからな」
愛をひと匙。
外はまだ、冬を纏っている。
湖畔の日の当たる場所に、
早とちりした春の花が、恥ずかしそうに咲いていた。
♡終わり♡
君と僕のユートピア【奥様は魔女編】 完
コメント
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まとめて読み返してみる💙🥺