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そよ風の気持ち良い大きな草原の一角には木の柵の囲いがあって、その囲いの中では何頭かの動物が草を喰んでいる。そこに大きな白いリボンをつけた少女と水色のコートを着た初老の女性がやってきた。
「ねぇ、おばあさま、みてあの動物。とても変わってるわ、顔はゾウみたいだけれど、体はパンダのように白黒、で体格はまるでサイみたい。」
水色の老女は、あらゆるとこに興味をもつ少女をしばらく微笑ましく眺めていたが、やがて説明書きを見ながらその少女に話し始めた。
「これによると、あの動物はね、『バク』というらしいわよ。哺乳綱奇蹄目バク科バク属に含まれる動物。 この仲間は、中央・南アメリカに3種、東南アジアに1種が分布するが、生息域の減少と狩猟が原因でいずれも絶滅のおそれがあるとのこと。へぇ、それから『バク』は人の夢を食べて生きてるって伝説があるらしいけど。。。」
僕は草原に寝転がってラム肉ハムを挟んだパンを食べながら、この2人の話を聞いていた。青い空に白い雲、遠くの丘の上には赤レンガの建物。その建物の傍の煙突から、白い煙の輪っかが、一つ、また一つ、空へと吸い込まれていく。
しばらくして少女が声をあげた。
「ねぇおばあさま、あの煙は、いったいなんの煙なのでしょう?」
すると、どこからともなくやってきた見知らぬ黒づくめの老爺が話を始めた。
「あれは『バク』を埋葬しているんじゃ。昨日、偉大な『バク』が亡くなってね。」
埋葬と聞いて、少女は一瞬怪訝そうな顔をしたが、老爺は黒眼鏡を指で少しだけ上にあげると話を続けた。
「お嬢ちゃん、『バク』はとっても偉い動物なんじゃよ。『バク』は実にいろんな人の悪い夢を食べてくれるが、それらを一切外に漏らさずに死んでいくんじゃ。あの白い輪っかの一つ一つは『バク』によって昇華された夢の抜殻じゃよ。」
それから程なくして、大粒の雨がパラパラと降ってくると、再び老爺が話を続けた。「ふぉっふぉっふぉっ。お嬢ちゃん、この雨は『バクの涙』と言われているんじゃ。どんな夢にも必ずいいことと悪いことが含まれている。『バク』は夢に含まれるいい事だけを結晶化して死ぬ直前に涙として流すんじゃが、埋葬された時にはそれが煙とともに天に上り、しばらくして、ほらっ、このように雨となって降って来るんじゃ。あそこの丘を見ててごらん。今回は偉大な『バク』が亡くなったから、さぞかし大きな虹がかかるじゃろ」
老爺のいう通り大きな虹が丘にかかりはじめたのを見て、そういえば『バク』にはそんな言い伝えもあったかもしれないなと思った途端、午後の微睡からふと目が覚めて、そしてまた一つ、大きな涙が頬を伝って流れた。