食後を待たずに慌てて納骨堂の扉の前に集まったメンバーは、コユキと善悪、地蔵のパパンであるシヴァをはじめとしたスプラタ・マンユの面々、シェルターに掛けた魔力錠の鍵役のキンキラカイム、単に面白そうだという理由で付いてきた能天気なアスタロトの十一人である。
カイムが善悪に聞く。
「まだ狂い切ってい無いと思うよ? 本当に開けちゃってもいいのぉ? キョロロン?」
善悪が頷いて答える。
「ああ、実は身内だったのでござるよ、こうなるといつもとは逆に、まだマトモな事を祈るのみでござるよ」
「なんだそうか、ならまだまともでいる事を祈るのみだね、キョロン♪」
物騒な話をサラッとしていやがる。
カイムは何やら呪文のように呟き出して暫くすると羽で扉の中央にそっと触れるのであった。
カシャン! ズズズズズ……
重い音を響かせて開いた扉の中からは、七色に明滅してシェルター内を照らし出す極彩色の照明のドギツイ輝きと、大音量で鳴り響く国民的アニメ、日曜の夕方、美味しい海産物を食べる事に何故だかカニバリズムっぽさを覚えてしまう例の番組のオープニング、あの曲の皆とお日様が笑っている二小節をエンドレスリピート、トランスっぽくリミックスして延々と繰り返し流されていたのであった。
シェルターの中央には蹲り(うずくまり)両手で頭を抱えた地蔵が体を震わせながら叫んでいた。
「止めて止めて止めて止めてアアアアァァァァ! 止めて止めて止めて止めてアアアアァァァァ! 止めて止めて止めて止めてアアアアァァァァ! 止めて止めて止めて――――」
うんこれは順調に壊れていく途中だったようだ、流石(さすが)は善悪と彼が全幅の信頼を置く幸福寺の古参メンバー達であった、やる事が中々にエグイ。
あまりの騒音に耳を抑えた姿勢でコユキが大声で言う。
「ちょっとこの騒がしい音楽止められないの? 善悪ぅ!」
善悪も大声で答えた。
「これね、カギが掛かってから三日間自動で鳴り続けるのでござるよ! ちょっと待っててぇ!」
そう言うとズンズンとシェルターの中央へと進み、蹲る(うずくまる)地蔵の首根っこを掴んでズルズルと引き摺って外まで連れて来ると、ぽいっと床の上に投げ捨ててからシェルターの扉を閉めたのである。
まだ頭を抱えてブルブル震えている地蔵に向けてシヴァが厳しい口調で話し掛けたのであった。
「おい! スカンダ! お前は一体何をしてくれてるんだ! 選りによって幸福寺を襲撃するとは! おい! ちゃんと説明しないか!」
「止めて止めて止めて止めてアアア…… あれ? ここは? …… そ、そのオーラは、お、親父? あれ、オジサンたちやオバサンまで…… コレハイッタイ?」
キョトンとスプラタ・マンユの面々を見回している地蔵にラマシュトゥが呆れた口調で言う。
「まあ、やっぱり私たちがいる事を知らなかったのね、イスカンダル? あなた何でこんなことしたのよ」
「いやいやいや、私は責められるような事はして居りませんぞオバサン、私は只、さる御方(おんかた)から仰せつかった通り奥羽(おうう)の地に有ったアーティファクトを守護していたまでです! たいそう働き者で立派な甥なのであります」
何やら誇らしげに錫杖(しゃくじょう)を頭上に掲げて大仰な口調で、ちっちゃな親世代に向けて胸を張る地蔵、スカンダだかイスカンダルだかは言い放ち、言われたオルクスが聞くのである。
「ンデ、サルオンカタ、ッテ、ダレダ?」
問われた地蔵は一転体を縮こめて、オルクスに向けて内緒話でもするように頬に両手を立てて返すのである。
「本来他言無用の重大な秘匿事項なのでございますが、ほかならぬオルクスオジサンには特別にお話しても問題ないでしょう…… 実は私に指示したのはオジサンの主ルキフェル様なのですよ、それも直々に…… あの傘と手拭を守れ、と…… それをあのデブ女が姑息な手を使って根こそぎ奪い去ったのですよ、お判りでしょう? 私の憤懣(ふんまん)をぉ!」
「フゥ」
オルクスは短い嘆息を漏らした。
その脇からシヴァが鋭い叱責を浴びせる。
「この馬鹿め! ルキフェル様に成りすました偽物の手先となってあろう事かコユキ様の事を侮辱するとは、な、情けない奴だっ! ほらっ早く、み、皆に謝れ! ほら、ごめんなさいって、ごめんなさいってしなさいっ!」
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