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侑は再び瑠衣の前にドレス代を差し出す。
「…………ごちゃごちゃ言ってないで、大人しく貰っておけ」
「……先生に気を遣わせてしまい、すみません。ありがとう……ございます」
瑠衣は両手で丁重に受け取り、ドレスの胸元にお金をそっと忍ばせた。
「ならば俺はそろそろ行く。当日までに準備しておけ」
「わかりました。…………響野様、本日もありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
腹の前で両手を重ね、背筋を伸ばして恭しく一礼する瑠衣に、侑は困惑した面差しを向けた後、前を向いて廊下を歩き出した。
娼館を出た侑は、近隣のパーキングに駐車してあった愛車に乗り込み、早速双子の兄へメールで連絡を取った。
『急で申し訳ない。創業パーティで連れていきたい人がいるんだが、いいか?』
二〜三分もしないうちに返信が届き、そこには
『ああ。是非とも連れてきてくれ。親父にも伝えておくよ』
と書いてあり、思わず緩く笑みを映し出した。
(さっき渡した金で、アイツ、どんなドレスを選ぶんだろうな……)
思いの外ワクワクしている自分に苦笑しながら、侑はアクセルを踏んだ。
***
後日、瑠衣はオーナーの凛華に付き添ってもらい、創業パーティに着ていくドレスを買いに銀座を歩いていた。
「同伴で創業パーティかぁ。いいなぁ…………羨ましい。それにしても響野様は随分とあんたを気に入っているみたいじゃん。あの人、必ずあんたを指名するもんねぇ」
「気に入られているんですかね? よくわからないですけど」
侑と瑠衣が大学時代の師匠と弟子だった事は、流石にオーナーには言えないな、と彼女は思う。
「まぁ固定客が付くって事はいい事よ。それだけ銭を落としてくれるって事だから」
それはそうなんだけど、瑠衣は自分を抱くために娼館へ訪れている侑に、申し訳ないな、と思っている。
「しかも、パーティ用のドレス代まで愛音にくれたんでしょ? っていうか響野様って、かなり凄いトランペット奏者なんでしょ? ドイツに留学して国際コンクールで何度も優勝したとか。あんた、確か昔トランペット吹いてたんだよね? 響野様の事、知っていてもおかしくないのに、知らなかったの?」
凛華に色々突っ込まれている感じではあるが、最初は本当に気付かなかった。
あの緩く癖の掛かった長めの髪に、騙されたと思ったくらい。
四年前、大学でレッスン受けていた時の侑と今の侑は、外見が全然違う。
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