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あんなに髪を伸ばしていたなんて思いもしなかったし、大学でレッスンを受けていた頃の『髪が短めのクールなイケメン』のイメージが瑠衣の中では強い。
今の侑は、風格漂うロックミュージシャンのようだ。
「響野先生は、トランペット吹きの人だったら、ほぼ知ってるんじゃないですかね」
「響野先生? 愛音、響野様の事を先生って呼んでるんだ?」
「そうです。っていうか吹部だと、著名な演奏家や指揮者の方の事を、面識とか一切なくても『先生』呼びしている人が多いですよ」
「そういえば、あんた吹奏楽部だったんだっけ。なるほどねぇ〜」
二人は、銀座四丁目交差点周辺にあるデパートを数軒回り、凛華に見立ててもらいながら瑠衣はドレス選びをする。
「あ、このドレス、愛音の雰囲気に合うかも」
呉服店系列のデパートで、凛華は一着のドレスを手に取った。
総レースで明るいネイビーブルーのミモレ丈パーティ用ドレス。
飾り気のないノースリーブのVネックドレスは、瑠衣が大好きなデザインだ。
試着してみても身体のラインが綺麗に見え、購入を決めた。
ドレスに合わせて、柔らかな色合いのゴールドのストールと、光沢控えめの同色のパーティバッグ、ゴールドにもシルバーにも見える不思議な色合いのパーティ用パンプスもお買い上げした。
「愛音、いい買い物ができて良かったじゃん。同伴するのが楽しみでしょ」
凛華がニヤけながら瑠衣に質問すると、はにかんだような表情で瑠衣が頷く。
「同伴の日はお泊まりでしょ? まぁ楽しんでおいで」
「はい」
二人は、デパートの地下駐車場に向かうと、凛華の車に乗り込み、赤坂見附へと戻った。
***
すっかり秋めいてきた十月のある日曜の午前中、瑠衣は自室で、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの創業五十周年パーティに出席するために身支度を整えていた。
ドアが三度ノックされ、顔を出すと凛華が立っている。
「凛華さん、おはようございます」
「おはよう愛音。支度はできた? 響野様が来てるよ?」
「え? もうですか?」
「待たせたら悪いから、早く下りておいで」
凛華が慌てて下へ向かうのを見て、瑠衣も急いで支度する。
一階の玄関ホールへ向かうと、侑は待合スペースのソファーに座り、スマホを見ている。
光沢感のあるダークグレーのスーツに、シルバーのネクタイを締めている姿が、不覚にもカッコいいと思ってしまう。
緊張しながらも瑠衣は一歩一歩侑に近付いていくと、ヒールの足音に気づいたのか、侑がこちらへ眼差しを向ける。
普段とは違う雰囲気の瑠衣を見た瞬間、鋭い眼差しがほんの少しだけ目を見張っているように見えた。