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そして。

誰にも、何も尋ねることもなく、ただ、時代だけがゆっくりと変わっていった。

家に帰れば兄が必ず待っていて、何一つ欠けるところのない日常が帰ってきたのだ。


帰ってきた平穏を失いたくはなかった。もしも自分が全てを「知ってしまった」と口にしたら、きっと何かを喪うのだと分かっていた。

ーーーそれでも、変わっていくことがあり、それが受け入れがたいことでもあった。

そして、その変化が、蓋をした不安と別の恐怖を呼び覚ました。


前にも増して兄は自分に何かを教えようとすることが多くなった。

それも、昔そうだったような幼い子どもに足りない知識を与えるためのやり方ではなく、ただ自分の全てを託そうとするかのようだった。


この前のフルートのことは、特におかしかった。

自分の知っている兄であれば、コンサートを開くなどという提案を呑まないはずがなかった。楽しそうなことなら少々考えなしに突っ込んでしまうところがある人だから。

それなのに、あの時の兄はそうすることはなく、ただ自分にフルートを託そうとした。


しかも、そのときの顔は、同じ顔を、していた。

もうとっくに忘れたと思っていた昔、「神聖ローマ」の名前を出したときに貴方が見せた顔。

僅かに目を伏せ、無理やりに広角を上げた笑顔。


このフルートにも彼の思い出があるというのだろうか。

そして、その神聖ローマはどこに消えたのか。

その答えは、もう手の届くところにある。昔一度だけ会ったローマ帝国がそうであったように、恐らく。彼は後をあの兄弟に託し、力を失って、消えたのだ。


それを、自分に託したら、貴方には何が残るのか?

それとも、何も残さないようにしているのか?

持ちうる全てを託し終えたら貴方は…


不安で堪らない。この可能性を誰かに否定してほしかった。ただ、そんなことは性質の悪い妄想なのだと言って欲しかった。

戻ることも進むこともできない。

「神聖ローマ」と自分の関係を問いただせば、今の平穏を失うかもしれない。

兄との関係も、フェリシアーノとの関係も全て。

だが、何も聞かなければ、貴方との未来を失うかもしれない。

どちらを、選ぶべきなのか、わからない。

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