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ルートはギルベルトが帰ってきてからも、家によく遊びに来ていた。今までとなにも変わらない、ただの友人として。一つだけ変わったことがあったとすれば、彼が海に行きたがらなくなったこと。
俺にとっても、彼と海を見ていると、どうしてもあの子を思い出してしまうから、少しだけ都合のいいことではあったけれど。
「お前は海みたいだ」
心の深いところから漏れでた言葉と、言えなかった言葉が身を抉っていく。
けれど、彼が俺のように海を見るのを恐れるのなら…
ーーー彼は知っているんじゃないかな?
そんな、恐ろしい想像が溢れだして、夢を見た。
目の前に彼が立っている。
確かに彼なのに、彼の口から聞こえる声はあの子のものだ。
「なぜ、お前は俺の手を取らなかった」
「なぜ、お前は俺を探しに来なかった」
夢だと、分かっているのに。
神聖ローマがそんなことを言うわけがないのに。
口一杯に海のような塩辛い味が広がる。
警報を知らせるような音が鳴り響いている。
ーーー電話が鳴っていた。
慌てて布団を放り投げて受話器を取ると、相手は彼だった。口の中にまだ残る塩辛いものを飲み込みながら応答する。
「おはようルート!早いね!どうしたでありますか??」
返事はない。息苦しくなるほどの沈黙が続いたあと、布が擦れるような音がして、ようやく返事が返ってくる。
「フェリシアーノ、今日お前の家に行ってもいいだろうか」
出し抜けにでた言葉は拍子抜けするほどいつもと変わらない内容だった。
「ヴェー…もちろんいいけど、急にどうしたんだよルート」
彼が唾を呑み込む音が聞こえたような気がした。
「海が見たいんだ、フェリシアーノ」
咄嗟に言葉を喪う。
どうして、そんなに苦しそうな声で言うの。
ーーーやっぱりお前はもう、気がついてしまっているの。
どんな返事をしたかも思い出せないほど混乱した頭で電話を切る。
今日、きっと何かがある。そんな背筋が寒くなるような予感があった。