蒼と美月の間にすれ違いが生じてから数日、美月は一人で時間を過ごすことが増えていた。喧嘩の記憶が鮮明に残りながらも、美月の心は蒼への思いで揺れ動いていた。蒼もまた、美月に謝りたいと思いながら、どのタイミングで話しかけるべきか迷っていた。
ある日、美月は仕事帰りの夜道を一人歩いていた。その日は特に疲れていて、考え事をしながら歩く中で、自分の背後に気配を感じた。しかし振り返る勇気が出ない。通り過ぎる車のライトが一瞬照らしたのは、見知らぬ男の影だった。
突然、腕を掴まれ、美月は思わず叫び声を上げた。しかし、その声も周囲のざわめきの中にかき消されてしまう。抵抗しようにも男の力は強く、美月はそのままどこかに連れ去られてしまった。
一方、その夜、蒼は公園のベンチに座り、美月がいないことを寂しく感じていた。彼はスマートフォンを見つめ、美月にメッセージを送るかどうか迷っていたが、その時、突然着信が入った。電話の相手は美月の同僚であり、「美月が今日の帰りに行方不明になった」と伝えてきた。
蒼の心臓が一瞬止まりそうになる。美月がさらわれた可能性を聞かされると、彼は立ち上がり、全身に緊張が走った。「どうしてもっと早く話せなかったんだ?」と後悔の念が押し寄せる。彼はすぐに美月の居場所を突き止める決意を固めた。
手掛かりがほとんどない中、蒼はまず美月が最後に立ち寄った場所を調べ始めた。近所の防犯カメラの映像や、通りすがりの人々の証言を頼りに、美月の行方を追う。彼の中には焦りと恐怖が混じり合いながらも、「必ず助ける」という強い決意が燃えていた。
やがて蒼は、郊外にある古びた倉庫が怪しいと突き止める。その場所は、かつて使われていたが、今では人の出入りがほとんどない場所だった。蒼はためらうことなくその倉庫に向かい、美月を救い出すための準備を整えた。
その夜、蒼はまだ見ぬ危険に足を踏み入れようとしていた。一方、美月もまた、自分を信じてくれる誰かが必ず来てくれると信じていた。二人の運命が再び交わる瞬間が近づいていた。
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