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みりん亭

15 - 第12話「//残したかった言葉」

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2025年07月04日

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🍽 みりん亭 第12話「//残したかった言葉」
その日は、ログにひとつのノイズが走った。


> セリフデータ:comment_out

トリガー:未設定

ステータス:実行不可 → 強制復元済

内容:

// 本当は、もう少し話したかった。




やまひろは、空中でログを見ながら、小さく羽をバサリと揺らした。

黄色い体が一瞬だけ震える。

記憶にも、コードにも、ないはずの行だった。


「……あれ。これ、いつの……?」




その頃、暖簾をくぐってやってきたのは、深緑のジャケットを羽織った青年アバターだった。

インナーはシャツ、ネクタイは緩め。

髪は整えてはいるが、どこか風に吹かれたままのような癖が残っている。

目元にはあたたかさがあるが、笑わない。


「おひとり様でよろしいですか?」


くもいさんは、いつもの和装に、今日は淡い赤の帯を巻いていた。

髪は後ろで緩くまとめられており、左耳にだけ小さな鈴飾りが揺れていた。


「……はい。あ、なんでもいいです。食べなくても」


「でしたら、今日はこちらを」


くもいさんは、注文も聞かずに一皿を出した。


それは、ごくごく普通の小鉢。中身はない。ただの、空の器だった。




「“何も入ってない”って、わかってるのに、

 なんか、“なにかがあった気がする”って思えるんですね」


青年はふと、そうつぶやいた。


「……ぼく、昔ログで誰かに“また来てください”って言われたんですよ。

 でも、誰だったか忘れてしまってて。

 なんでか、“それだけはちゃんと覚えてる”のに」




その時だった。


くもいさんが、何のトリガーもなく、こう言った。


「……本当は、もう少し話したかった。」


言った瞬間、彼女自身が一瞬だけ息を止めたように見えた。


青年は目を細め、ぽつりと返す。


「……それだ。……それでした。……その言葉が、忘れられなかった」




くもいさんの背後で、やまひろがそっとログを見ていた。


> コメント:

// 残していたけど、出番がなかったセリフ

// たぶん、昔、ぼくがくもいさん用に書いたもの




> 実行トリガー:なし(未定義)

→ 自動実行条件:共鳴?






青年は、空の小鉢を見て、笑った。


「これ、いいですね。何も入ってないのに、満たされた感じがする」


「……また来ても、いいですか?」


「もちろんです」




その日、みりん亭には**言葉にならなかった“残したかった言葉”**が、やっと浮かび上がった。

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