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🖤side
あの人から連絡が来ない日は、少し寂しい。
メンバーだからといって毎日顔を合わせるなんてこともなく、個々に仕事が来るよなった今は全員が忙しくしていて、全体での仕事を除けば集まることも少なくなった。
最後に連絡が来たのは、2ヶ月半ほど前か。
スマホの画面をスクロールしながら、過去のメッセージのやり取りを淡々と眺める。他のメンバーに比べて絵文字や色味の少ない文章。だけれど冷たくはなく、ちゃんと彼のやさしい温かな部分が感じられる言葉たち。
これは全体での収録の時に、俺の体調が崩れかけていることに気がついてメッセージを送ってきてくれたときのこと。メンバーにバレたくないという俺の思いをしっかりと汲み取っての行動に、今更胸が苦しくなる。
これは俺がCMキャラクターを務めてる企業さんのパネルをわざわざ撮って、「いたよ」と俺に送ってきてくれたときのもの。
これは、……俺が、俺と舘さんが、行く道を間違えてしまって取り返しがつかなくなった日の。
🖤「……会いたい」
自然と口からこぼれ出た自身の声はどこか幼く、酷く寂しく感じられた。
映画の番宣で出演するバラエティ番組の楽屋。これほど大きな部屋に割り当てられるなんて昔の俺は思ってもいなかった程に光栄なことで、頑張ってきたものが分かりやすく感じられて嬉しいことなはず。そのはずなのに。
今に至っては広い部屋なんて孤独が浮き彫りになるだけで、自分の栄光なんてどうでもよくて。
ただただ、彼に会って、言葉を交わして、触れ合いたいだけだった。
❤side
ある火曜日のこと。まだ世間が静まり返っている時間に起床して、丁寧にスキンケアをし、朝食を取り、さっさと身支度を済ませて家を出る。
隔週で入っている生放送のバラエティ番組に2時間出演して、その後自分がパーソナリティを務めているラジオの収録をする。
そしてタクシーに乗り込み、自宅ではない家へと向かう。車内で、ある男に定型文と化した文章を送信し、予定を確認するなりして、気がつけばいつもの道へ到着していた。
目的地の高級マンションから少し離れた道を歩きながら、抱えた若干の疲労感を全身で感じとる。冬の温かな日差しに思わず欠伸が出て、途端に眠気が俺の中に現れた。その眠気を背負ったまま、合鍵で解錠した男の部屋へ足を踏み入れ、部屋の主から口酸っぱく言われているオートロックがしっかり機能しているかを確認し、洗面所へ直行した。
タオルで拭った指先からは、いつもとは違う香りがする。そんなことをぼんやりと思いながら、荷物を床におろして、俺は自分のものでないベッドへと横になった。
手繰り寄せた布団を適当に被ると、まるでその男に抱きしめられているような錯覚に駆られる。まぁ、数時間後にはそうなるんだけど。
微かな物音に反応した意識が徐々に浮上していく。何度か瞬きを繰り返しながらゆっくりと目を開けると「営業用じゃないのか」と言いたくなるほどの輝かしいアイドルスマイルで目の前の男は俺の目覚めを迎える。その笑顔を見る度に俺は、恋人がいないというこの男を疑ってしまう。もしいつか出来たとしたら、その恋人は、幸せなんだろうな。
出来たらできたで、その日に俺達の関係には幕が下りるけど。
❤「……おつかれ、目黒」
🖤「お疲れ様です。舘さん、お腹空いてますか」
❤「あー、うん。俺がなんか作るよ」
🖤「いいですよ、俺が作ります。お風呂ももう沸いてるんで、よければ先に入ってください」
❤「ん、ありがと」
目黒の言動を受け止める度に、スパダリという言葉がいちいち脳裏に浮かんでくる。視野が広く、気が使えて優しくて、物腰も柔らかくて、おまけに顔が国宝級イケメンとやら。
そんな世界中の誰でも選び放題だといえるような男が、どうして。
どうして俺なんかを選んでしまったのか。
❤「風呂、ありがとう」
🖤「ちょうど作り終えたんで、一緒に食べましょ」
目黒の家に来ると、いつも同じような後悔ばかりが思考を埋め尽くす。あの日、状況に飲まれて私利私欲のために自ら流れていかなければ、目黒もきっとこんなことにならずに済んでいたのに。全部俺のせいだ。そんな黒く粘着質な感情が腹の底で渦巻いて、思考に靄をかける。
目の前で楽しそうに話をする目黒が健気な大型犬のように思えた。そんな男をどうしようもない程に愛おしく思ってしまって胸が苦しくなる。
こんなどこまでも綺麗な男の瞳に映っていいは俺じゃない。そう、頭では分かっている。
夕食を終えて風呂からあがり戻ってくる目黒を、俺はモノトーンで纏まった寝室で待った。下がっていた体温がじわじわと高まっていくのを肌で感じて、嫌気が差す。初めてではないはずなのに、脈拍は柄にもなく駆け足になっていく。
静かな足音が近づき、寝室の扉が僅かに音を立てて開かれた。そこから現れるのは、いつも通りの笑顔に、どこか哀しそうな影がかかった表情を浮かべる目黒。
「そんな顔して、無理してまで俺の相手しなくていいよ」
そう言いたいはずなのに、言わなければいけないはずなのに、喉からそれらの言葉が出てくる気配は微塵もなかった。
🖤「舘さん」
❤「おかえり」
元から静かな部屋に沈黙が漂う。そして一歩二歩と近づいてきた目黒の姿に、俺はそっと目を瞑る。優しく触れた唇は柔らかくも、冷たかった。
徐々に深くなっていく口付けに身を任せながら、ゆっくりと目黒に押し倒される。どこまでも丁寧な俺への扱いに、ぐらぐらと感情が揺れ動く。
もっと酷くしてくれれば、無情に捨ててくれれば、冗談で一度手にしてしまった愛おしいものも、簡単に手放せたかもしれないのに。
🖤「だてさん、難しいこと考えてるでしょ」
❤「え?」
🖤「顔に出てましたよ。……舘さん、今は何も考えなくて大丈夫ですから」
そう言われ、再び口は塞がれた。口内を縦横無尽に行き交われて耳を塞ぎたくなるような自身の吐息が唇の隙間からこぼれ出る。
衣服の上から身体をなぞられて、その先を期待するように腰が震えた。そんな俺のみっともない反応に笑みをこぼす目黒は、何を考えているのかいまいち分からない。なんでもいいから嘲笑ってくれよ。なんでそんなに優しく笑うんだよ。
俺のベルトに手をかけて器用に抜き取っていく目黒の指先を意味もなく見つめた。「腰、浮かせてください」柔らかな声でそう囁かれ、俺は従順に従う。
お互いの愛情の上でなければ行為は成立しない、なんて純粋な考えは当たり前に捨て去っていた。でも、自分が他でもない目黒とこんな関係性になってしまうとは、微塵も思っていなかった。
目黒が躊躇いもなく俺のものを口に含む様には何度身体を重ねても慣れず、手の甲で口を塞いだまま俺は空虚へと目を逸らした。
❤「ん、、ぁ、ぃっは、め、ぐっ、ろ、まっ、で」
🖤「気持ちいれふか (気持ちいですか)」
今口を開けば、抑え込みたい意識とは裏腹に情けない声をだらだらとあげてしまいそうで、俺は必死に頷いた。
そうすると目黒は「よかった」と微笑んで、俺を追い詰めていくように動きの速度を上げていった。
水気の多い淫猥な音とベッドが軋む音、そして互いの微かな吐息が静かな寝室に響く。
前を刺激されているはずなのに後孔が疼いてばかりで、意識的に止められないそれに熱に浸りぼやけた思考でさえも苛立ちを覚えた。
それに目黒も気がついていたようで、限界が近くなり吐き出す息にさえ嬌声が混ざり始めた頃、ふと口を離して俺に問いかけてきた。
🖤「このまま1回出しておきますか、それとも、もう挿れたほうがいいですか」
❤「はぁ、っは……めぐ、ろのが、ほし、ぃ」
この辺りまでくると思考は職務を放棄しだす。何も考えられず、ただ熱に浮かされ、ただ好きな男に抱かれて、乱れたシーツの上で身体を揺さぶるだけ。
なまぬるい水に全身で浸ったような、中途半端な感覚にどんどん俺は溺れて、曖昧な快楽に酔っていく。
一瞬、目黒が苦い顔をしたように見えた。けれど、瞬けばそこにはいつも通りの目黒がいて、そんな気がしただけ、ということにしておくことにした。
夢のように心地の良い感覚に、柄にもなく泣きたくなった。
これは間違えてしまったがゆえの行為で、目黒は優しいからこんな風にしているけどきっとそこには愛なんて無くて、ただただ欲を埋め合うだけの空虚な関係性だから。余計なことは求めてはいけない。
考えたった無駄なことを妙に冷え始めた頭が考え始めたところで、質量を持った目黒のソレがゆっくりと俺の中へと入ってきた。風呂で十二分にほどかしているから痛みは全くなく、拾い上げるのは快感だけで逆に苦しくなり、思わず背中を反らせた。
❤「あっ、はっぁ゛、め、ぐろ、んぁ、ぃぁっ、んっ゛、ん」
🖤「痛くないですか、舘さん」
❤「う、ん゛、あっ、んぇっ、だ、いっ゛じょ、、ぶ」
最奥まで突き当たったところで目黒は動きを止め、長い腕でやさしく俺を抱きしめた。重なった肌は温かく、今目黒と行為に耽っているという現実を明白にさせた。
まだ挿れられただけなのに、体力があるはずの身体は軽く息切れを起こしていた。
上から覆いかぶさるように俺を抱きしめながら、どちらからともなく口付けを交わす。何度も何度も角度を変えては舌を絡め合い、互いの欲を煽っていく。
電気のついてない部屋、閉め切られていないカーテンの隙間から月明かりが微かに差し込んでどうしようもない俺らを照らす。
俺がキスに満足して唇を離すと、目黒は再び腰を動かしていく。内壁が擦られる度に嬌声が漏れ出す口を手の甲で押さえつけた。目黒に奥を穿たれる度に、快楽に脳が溶かされて、必死になっていたその手すらも力が入らなくなっていく。
❤「や、っらぁ、っあ゛、ぃっは、ん、ぅぁっ、ふ、ぁっ、ま゛っっ、、」
🖤「だてさん……」
本来の使用用途とは異なる行為に生理的な涙が溢れ出てくる。滲んだ視界で懸命に捉えた目黒はなぜだか哀しそうで、今にも泣き出してしまいそうに思えた。現状と釣り合わないその表情に混乱は深まっていく。
ねぇ、なんで? どうして?? いや、違う。泣かないで、目黒、ごめん、全部俺が悪いから、だから、
❤「きらいに、っならなぁっ゛いで……」
無理な願いだった。俺のせいで、好きでもない俺を抱くことになってしまった可哀想な目黒に、これ以上なにも強いたくなんかなかった。
でも、こんなの我儘だって分かっているけど、離れたくなかった。
最中に放った言葉なんて全部うわ言として捉えられるだろうから、そんな思考に甘えながら漏らした本音に、目黒は小さな声でなにか言った。
🖤「……嫌いになれるわけないじゃないですか」
けれどそれと同時に突然、強く痕を付けるように執拗に最奥を叩かれ、それどころではなくなってしまい、全く聞き取れなかった。
❤「は、っあ゛っい、んぁ゛、んっ゛、め、っむ゛ろぉ゛、んぁっ、っは」
🖤「舘さんちゃんと覚えて、っ俺としてること、全部ちゃんと覚えて」
❤「は、げしっ゛、んぃ゛、あ、うっ、っんぁぁ゛っっ、あ、っふぅ゛」
目黒が必死になにか言ってるのに、頭でちゃんと考えられない。
こんなこと、少なくとも今まではなかったのに。なんで急に。
俺なんか言ったっけ、あれ、ずっと何考えてたんだっけ。
❤「あ゛っ、でちゃぁ゛、っう、めぅ、ろ゛、ま、っで、い゛く゛、ぁ゛っく」
🖤「いいですよ、俺に抱かれてイってください、だてさん」
耳元で囁くように呼ばれる名前だけが、確実に思考に入り込んでくる。
もっと名前を呼んで、酷くしていいから俺のことを求めて、全部埋めてくれ。
❤「い゛っく、あっ゛、まっ、っだぁ゛、ぅ゛あっあっ゛っ〜〜〜゛!!!!」
🖤「ははっ、すげえ量。ちゃんとイけましたね」
❤「まっで、めぅ、っろ゛、どまっれ゛、んっ、っふぅ゛ぁんあっ゛」
🖤「止まりませんよ、俺まだイってないし。あぁでも、こっちにしましょうか」
そう言って腰を引いたかと思えば、先程よりも浅い一定の部分を何度も抉るように貫かれて、また違った種類の快楽に殴られるようだった。
いつもは触れ方もキスも行為も丁寧すぎるくらいに優しいのに、今日はどうしてこんなことになってるんだ? 目黒、なんか怒ってる……?
そんなことを思いながらも閉じることもままならない口からは吐息と甘ったるい声がだらだらと止めどなく流れ出た。
果てたばかりの身体には強すぎるその刺激が、先程とは別の快楽を押し上げていく。
悦びも過度に与えられれば苦しみに変わっていく。潮を噴くと気持ちよすぎて危うく意識がトビそうになるから、できるならしたくない。ただ、そんな事を言っておきながらも、そんなキケンな快楽に身を投げたい気持ちを抑えることが今の俺にはできなかった。もっと、もっとと欲張る後孔は、目黒のソレを象るようにぎゅうぎゅうと締め付ける。
溺れて藻掻いても、どんどん身体は沈んでいくばかりで、もう元になんて戻れない。浮遊した思考でさえも、そんな気がした。
❤「やっ、だ、め、っろ、ま゛っんあ゛、ま、で、でちゃ゛」
🖤「っふ、俺もそろそろ、限界……ねぇ、ここ、気持ちいいですか」
不敵な笑みを浮かべながらも時折顔を歪ませる目黒の姿に、より一層欲を煽られる。僅かに乱れた呼吸の中で目黒はそう言うと、俺の下腹部を指先で優しく押し潰すように触ってきた。
自分の中に、目黒のものが入っている。年下の、後輩の男に、抱かれている。そんな事実が分かりやすく伝わってきて、不覚にも感じてしまった。
❤「やっ、あ゛、んぃっ゛あっ、っはぁ゛、ぁあ゛っい、っ゛ぁっ〜〜〜゛」
🖤「だてさっ、かわいぃ……っ゛」
もう妄想や幻聴の類いなのかも分からない言葉を降り注がれながら、俺は意識を手放した。
「こんなこと、もうやめにしよう」
そんな言い出せない言葉が、延々に俺の中で木霊している。