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その夜、百合は初めて隆二以外の男性の事を考えて眠りについた
彼は百合より15歳年上で、面長な顔はブ男の部類に入るだろうが、知的で、40手前の割には長身の引き締まった体つきに右眉の上5センチほどの切り傷跡が目立っていた
百合が傷の事を聞くと「昔ヤンチャした名残だ」と照れて言った
後日、ママに定正の事を聞いたら、彼は成金で無情な実業家だと噂されていた、そして独身だが、彼に手ひどく捨てられた数々の女性の逸話もあり、危険な男だと聞いた
―世の中にはなんと隆二の様な男が多いこと・・・あんな男にひっかかるような私ではないわ―
ある金曜日の夜、店が閉店してから百合は控え室の鏡の前でメイクを落としていた、ドアがノックされ、ホストが控室に入って来た
「失礼します、百合さん、伊藤様からこれを届けるように頼まれまして・・・」
百合が振り向くと、ホストが美しいラッピングに装飾された目も覚めるほどの巨大なバラの束を抱えて立っていた
「そこに置いてちょうだい」
百合はホストが丁寧に薔薇をテーブルに置くのを見ていた
一月下旬のことであり、この時期のバラの花は養殖でとても高額だ、百本はあると思えるほどの大きな花束だった
真っ赤な花びらと長い茎には、一本一本枯れない様に茎に水滴まで装着されていた、誰からだろうと思って、百合は花束の所へ歩いて行き、添えられているメッセージカードを取り上げて読んだ
『美しい百合嬢へ、私と夕食をしていただけませんか?食事をしながらあなたの美しさを一つ一つ伝えたい―伊藤定正―』
―ほら、はじまった、あの男は財力をひけらかしたら女は誰でも自分になびくと思っているのよ、だったら鼻をへし折ってやるわ―
バラの花束を包装しているピンクのラッピングは複雑な手書き模様を施された逸品で、実際大変高価なものだが結果はとんだ散財をしただけだ、彼は完璧に送る相手を間違えている
「お返事が欲しいそうです」
ホストが言った、百合は薔薇の花束を睨みつけて言った
「夕食はしません、この花束を彼の所に送り返してちょうだい」