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「そっか〜もう夏休みになったのねー。時間が早いわぁ。部活や塾は大丈夫?」
いつもより一オクターブくらい高い、上機嫌な母親の声が近づいてくるのに気付いた時には、もう遅かった。
俺が振り向くと同時に自室のドアが開き、ここ最近で見たことないくらい笑顔の母さん。
と、腹立つくらい満面の笑みの若井がいた。
「は?え?!なんで!!?」
「今日から夏休みで、時間があったから来てくれたんですって〜!今お茶持ってくるからね。
適当に座ってね!」
「いやいや、急に上がり込んですみません。お構いなく。」
いや、それ言うべきは、俺にじゃない?!
てかなに部屋まで上げてんの母さん!?
目の前で交わされる自分を完全に置いてけぼりにした会話の意味がわからない。
勝手に空いた口って閉じれないんだ。初めて知った。
でも1番意味がわからないのは
「ここが大森の部屋か〜!」
と勝手にまじまじと部屋を眺めてるこいつ!!!
「いやいやいや意味わかんない!何しに来たの?!」
「夏休み入ってさー。暇だったからさー」
「いやせめて連絡くらい…!」
「したよ?」
机の上に無造作に置いていた携帯を力の限り引っ掴む。
「2分前じゃん!馬鹿じゃねーの!!?」
思いつく限りの罵詈雑言を並べ立てる。
何一つ応えてない顔で、俺の機材ばっか眺める若井に、次第にこの怒りが無駄なものに思えてきて。
だってこいつ、機材を隅から隅まで眺めるてるのに、絶対に触らないから。
1人で「へー!ほ〜ん」なんて、片手を顎の下に添えてそれらしい仕草してるけど、絶対なんも分かってないだろ。
その滑稽な姿に、いつしか笑いまで漏れてた。
ああ、こいつは。
人の大切なものを、ちゃんと大切に出来るやつだ。
「…ギター、触ってみる?」
「え!いいの?!!」
太陽の様な笑顔が、俺にはまだ眩しかった。