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side:wki
大森の家の前に着いて、もう何分経っただろうか。
背中を伝う汗は、暑さのせいだけじゃなさそうだ。
でかいサッカーの試合でも、こんなに緊張したことは今までない。
心臓がバクバク言ってる。
おれ、めちゃくちゃ無謀なことしようとしてない?
でも、こうでもしないとちゃんと話せないし…!!
ゴクリと唾を飲み込んで、意を決して
メールの送信ボタンと同時に呼び鈴を押した。
大森のお母さんにすんなり部屋まで上げて貰えたのは、毎朝の功労だろう。
すげぇ遠回りだったけど、来ててよかった。
問題は今。
大森は帰れだの非常識だの喚いてるけど、そんなの分かってる。
だって事前に連絡したら、絶対会ってくんねーじゃん。
まともにやり合ったら帰る流れになりそうだから、取り敢えず部屋を眺める。
中学生らしからぬ機材の数々、高そうなギター。
これが、大森の世界…
浮き足立っているのが、自分でもよくわかった。
「…ギター、弾いみる?」
「え!いいの?!」
振り返りながら答えたら、大森は一瞬合った目を逸らしながら、ぶっきらぼうに言った。
「もう、いいよ。お前、暇人変態だから。」
「なにそれ笑」
そこからは完全に大森の世界だった。
この前の曲はこんな意味を込めたとか、こうやったら気持ちよく聴こえるとか。
その知識量に驚くばかりで、相槌打つしかできない。
でも、子供のように目をキラキラさせながら語る大森が、綺麗だと思った。凄く。
2時間ほど過ぎた頃だろうか。
「このコードがさ、指ムズいんだよね。どうやったら弾ける?」
「あ〜これは…」
自分の椅子に座ってた大森がスっと立ち上がると、俺の背に回った。
俺の手に添えるように手を重ねて、こうだよ。と耳元で囁かれた。
大森にしたら、ただの親切だったんだろう。
この2時間で少し心を開いてくれたんだろう。
純粋に嬉しい。
でも耳にかかる吐息に、俺はそれ以上の何かを感じた。
ドクッと心臓が脈打つ。
「いやっ近くね…?!」
そう言って大森の方へ振り向いた瞬間。
口と口が触れた。
ただの事故。
ほんの1秒もあったかどうか。
気がついたら俺は、大森の家を飛び出していた。