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あれから十数年の月日が経った。

マモルにとって、忘れられない過去。姉を失い、ヒーローという伝説が生まれたあの日。


あの日を境にマモルの生き方は変わった。

ヒーローのように強くなりたくて、自らの虚弱体質を変えたくて、あらゆる方法で努力を続けた。


努力でどうにもならないことはある。しかし、マモルの場合は違った。医者にも驚かれた。決して快方へは向かわないと思われていた体質が、良い方向へと変化したのだ。

少しずつではあったが、マモルは健常な人間と変わらないほど元気に活動できるようになった。


そして、マモルは23歳になり、ジャーナリストを志した。マモルはあの西京宏ことヒロさんの活躍をずっと追い続けていた。

あれからというものさまざまな怪人が街へ何度もやってきた。街をめちゃくちゃにし、猛威を奮い続けた。

しかし、そんな時必ずスーツ姿に身を纏った男が現れる。そして、すぐさま怪人をやっつけてしまうのだ。

人々は歓喜し、ヒーローとして崇め始めた。しかし、誰もその正体を知らない。ただ一人、マモルを除いて。


だが、いまだにマモルは西京宏との邂逅かいこうを果たせずにいた。どこに住み、どのような職についているのか。それすら何もわからない。


それを知るため、そして活躍を世の人に届けるためマモルはジャーナリストとなったのだった。


会社へ向かう途中、マモルは電車に揺られながら人々のこんな噂を耳にした。


「おい、またy町で怪人が出たってよ」


「あー、ニュースで見たわそれ」


「でも、また謎のヒーローがその怪人を倒しちまったってさ」


「やっぱ凄いな。そのヒーロー」


「そう、凄いんだよ。何せ怪人が現れてから間も無くヒーローも現れるんだから。だからさ、怪人が現れるても犠牲者0なんだぜ」


「一体、どこで見張ってるんだがな」


マモルは密かに思う。ヒロさんがすぐさま駆けつけ、犠牲者を出さないようにしているのは、まさにマモルの姉であるカナの死を経てのことであると。


怪人の力は驚異的で、とてもではないが警察の力が及ぶものではない。ヒロさんが居なければ、これまでに何百、何千人と犠牲者が出ていたはずだ。


マモル自身もどうやってヒロさんが怪人の出現をすぐさま把握しているの分からないが、ともかくその迅速さから「遅れないヒーロー」として名が通っている。


マモルはなんだか誇らしい気分だった。


しかし、同時に複雑でもあった。

遅れないヒーローとしてヒロさんが知られている裏で、唯一ヒロさんが遅れたことで、姉が犠牲者となってしまったのだ。


いや、こんな考え方はいけない、とマモルは思い直す。


ヒロさんは遅れたのではない。きっと、あれは運命だったのだ。ヒロさんは最速で到着した結果、姉は犠牲になった。悪いのは、すべて怪人のせいなのだ。


マモルは次の駅のアナウンスで思考を中断した。会社がある駅だ。


会社に行く前に、コンビニに寄る。

雑誌などには、連日のヒロさんの活躍が堂々と誌面に踊り出ていた。


マモルは輝く目で高揚した。



「それで、怪人出現の起源に関するレポートはどうなったね」


「はい。順調です。今月末までには完成するかと」


「ふむ……しかし、結局のところ怪人はいつから出現するようになったんだ? 少しおさらいしようじゃないか」


「そうですね。僕もその点は気になります。ええと、そのデータは確か……ありました」


マモルは会社に着くと、早々に上司の笹岡から呼び出され、現在取り掛かっている怪人の起源に関するネタの進捗を問いただされた。

世間の注目も集まるこのネタは絶対に外せないものだった。

取材や調査は綿密に行い、正確な情報を読者に届けることを方針としていた。

マモルとしても、いい加減な記事にはしたくなかった。怪人の謎に迫り、ヒロさんの貢献を世に伝えたかったのだ。


マモルは該当する箇所を確認して報告する。



「政府が公開しているこれまでの怪人出現地と被害数を示したデータをもとに、大型の目星が付いています。13年前、T県T市にて小規模の被害が伴った怪人襲来がその起源かと目されます」


「小規模の被害、か」


「ええ。公共物がいくつか破損した程度にとどまるもので、その際に例のヒーローがすぐさま退治した模様です」


「だが、その頃はヒーローの存在は認知されていなかったようだな」


「そうなんです。認知されることになったのは、あの悪夢のような牛型怪人が襲来した日のことです。街に甚大な規模の被害をもたらし、人々に怪人の脅威を知らしめた象徴的な出来事を境にですね」


「ヒーローは基本的に目視できないほど素早いからな。しかし、あの時は証言者が何人もいたらしいな」


「はい……」


笹岡には明かしていないが、その証言者の一人こそマモル自身なのだった。

まさに全てが一変した象徴的なあの日。姉を失い、自身の進路を決めたあの日。


あの日を境にヒーローは世に認知されたのだ。


物思いに耽っていると、笹岡がある疑問点をぶつけてきた。


「それで、怪人は一体どこからやってきたんだ」


「はっきりしたことは分かりません。しかし、これまでの傾向から、諸外国では一切その姿が確認されていないことが分かっています。つまり、怪人は国内だけに現れています」


「そうなんだよな。それが、なんとも不可解で不気味だ」


「まあ、なかには怪人騒ぎに乗じて犯罪を犯す輩もいるにはいるようですが……いずれも、眉唾な話ばかりです」


「よく分かった。発生場所はわからないが、国内から出現することは確かのようだ。何か重要な意味が隠されている気がする」


「はい。僕もそう思います。……しかし、そもそもなぜ怪人が現れて、街や人を襲うようになったのか、そこが一番の謎です」


「それを言うならヒーローの存在も謎だ。ヒーローが現れたのは、怪人の出現時期と同じなんだろう? なかにはヒーローが黒幕で、自作自演の可能性を示唆する者もいるそうだ」


「それは違うと思います」


思わずマモルは語気を強めて言った。

不意に出た言葉だった。

しまったと思って笹岡の顔を見ると、やや怪訝な顔でこちらを見つめ、ただ一言述べた。


「何か根拠でもあるのかね」


マモルは咄嗟にそれらしい仮説を立て、自身の態度を擁護した。


「いえ……しかし、その仮説ではヒーローが名誉や自尊心から怪人を使役して、自ら倒して名声を得るという構図ですよね。でも、おかしいですよ。それならもっとメディアに露出して、実質的な利益を得ることだっていくらでもできるのに、あくまで匿名性を保っています。それは、ヒーローが利己的な存在という前提では矛盾すると思うんですー


「なるほどな。確かにそちらの方が納得はできる。いずれにしても、統計的な数値はわかっても根本的な原因は分からずじまいってことか」


「そう、ですね」


「ヒーロー、一体何者なんだろうな」


マモルだけはその素性を知っている。 西京宏……。しかし、顔も名前も脳裏に焼き付いて離れないのに、考えてみればそれ以外何も分からない。それを、素性を知っていると言っていいのだろうか。

未だ謎が増えるばかりだった。



業務を終えて、マモルは帰宅の準備を整えた。

挨拶をしてオフィスから出る。

廊下を進み、自販機の前まで歩み寄る。140円の缶コーヒーのボタンを押し、ガチャンと落下した缶コーヒーを、受け取り口から取り出す。

ピピピピピといつも当たりが出ない数字の並びに目をやる。

4桁揃えば、なんでももう一つだけ無料ということらしい。

マモルはこれまで一度も当たりを引いたことがない。そして、社内で当たりを引いたという者も聞いたことがない。

ただの演出だと割り切り、自販機から背を向けて歩き出す。


ピピー!


マモルは振り返る。

見ると、自販機の当たりを表示する番号が「7777」と表示されていた。

小走りでマモルは自販機の前まで戻り、その表示をしげしげと眺めた。

しかし、時間制限があるようで、すぐに押さないと当たりが逃げる仕組みであるようだった。

マモルは急いで適当に指を突き出した。


ガチャン。


マモルの目の焦点が合うと、自身が押したものを見やった。

本当かと思いつつ、受け取り口からそれを取り出す。

おしるこだった。

マモルはため息をつき、缶を二つ持ちながら廊下を進んだ。

廊下には清掃員が一人掃除していた。


「お疲れ様です」


挨拶をして、通り過ぎる。

その時。


「お疲れ様です」


脳内に電撃が走ったようだった。

マモルは立ち止まり、硬直したまま動けなかった。


一瞬、何がそうさせたのか分からなかった。

しかし、はっきり分かった。


同じだ。


あの時の声と。


マモルはばっと振り返り、清掃員の方を見た。


しかし、先ほどまでいた清掃員がいない。忽然と姿を消してしまったのだった。


マモルは廊下をかけ戻り、ありとあらゆる部屋を見て回った。だが、一向にどこにいるか分からなかった。


マモルは呼吸も荒いまま思考する。

もしかすると、幻覚だったのかもしれない。ヒロさんに会いたいという思いから、居もしない清掃員を見て、幻聴まで聞いてしまったのではないか。


「でも、それにしては、やけにはっきりと聞こえた……」


マモルは茫然自失の体でその場に立ち尽くした。自分を信じられないとは、このことだった。


そして、その時。


「おい、怪人がすぐそこに現れたそうだ!」


オフィスの方から声が上がった。




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