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第八話「飢えた殺意」
🔪新たな標的
暗闇の中に佇む影。冷たい夜風が吹き抜ける路地裏で、ひとりの男が煙草をくゆらせていた。
標的の名は伊原 俊彦(いはら としひこ)。年齢は四十代前半。背が高く、スーツの袖から覗く腕は細いが異様に長い。黒縁眼鏡をかけており、その奥の瞳は常に計算高く動いている。
「……君が、新しい“食材”?」
スケアリーは紅茶のカップを傾けながら、興味深そうに見つめた。
「ふぅん……見た目は“あっさり”してそうだけど、果たしてどんな味がするのかな?」
ユリウスは伊原の資料を見ながら呟く。
「こいつは……人の心を壊すのが趣味だ。」
「仕事では部下を精神的に追い詰め、転職させたり、時には自殺に追いやることもあったらしい。」
「法律的には問題ない範囲で、ゆっくりと獲物を“殺す”タイプだな。」
スケアリーはニヤリと笑った。
「ほぉ……なるほど、これは“じっくり煮込む系”の食材ってことだねぇ。」
「短時間で焼くには向かない……それなら、『飢え』を与えて、内側から味を引き出すべきだ。」
アリアがじっと標的を見つめる。その灰色の瞳が、ゆっくりと染まっていく。
「……私、もうお腹が空いたの。」
スケアリーは満足げに微笑んだ。
「じゃあ、食事の時間だねぇ。」
スケアリーの実況「飢えの調理法」
「さてさて、本日の食材は“精神を食う男”伊原くん。」
「この手の食材は、慎重に調理しないといけないんだよねぇ。」
スケアリーは指を舐めながら続ける。
「伊原くんは、いつも“獲物を飢えさせる”ことで満足してきた。」
「だったら、こっちも同じことをしてやろうじゃないか。」
彼は紅茶をすすり、にぃっと笑う。
「“飢えた肉”は、旨味が増すんだよ。」
ユリウスは眉をひそめた。
「……つまり?」
スケアリーは軽く指を鳴らした。
「簡単さ。こいつには“自分が獲物になった”と理解させればいい。」
「“捕食者”だった奴が、“捕食される側”になったとき……恐怖は極限まで引き出される。」
アリアがそっと囁く。
「彼の心を、壊すの?」
スケアリーは彼女の頭を撫でながら答えた。
「違うよ、アリアくん。壊すんじゃない。“乾燥”させるんだ。」
「ゆっくりじわじわと……恐怖で内側から“水分”を奪い、カラカラに仕上げる。」
「さぁ、“乾燥熟成”を始めようか。」
🔪伊原の崩壊
最初の一週間。伊原の家の周りでは、妙な出来事が頻発した。
>毎晩、誰かが窓をノックする音がする。
>見知らぬ影が玄関の前を通る。
>仕事用のPCのデータが、少しずつ書き換えられている。
>スマホに、“録音したはずのない音声”が残っている。
そして、決定的だったのは三日目の夜。
「お前の番だ」
不気味なメッセージが、彼のデスクに貼られていた。
伊原は、初めて冷や汗を流した。
「……これは、誰かの嫌がらせか?」
だが、証拠は一切見つからない。監視カメラにも何も映っていない。
彼の“日常”が、少しずつ崩れ始めた。
スケアリーは、そんな彼の様子を眺めながら、恍惚とした表情を浮かべた。
「おお~! いいねぇ、目の下のクマが“乾燥熟成”のサインだ!」
「肌の艶がなくなり、体が痩せていく。このままじっくり寝かせたら、最高の状態になりそうだ!」
ユリウスは、わずかに顔をしかめた。
「……お前、どこまで楽しんでるんだ。」
スケアリーは、口元を舐めながら囁く。
「恐怖ってのは、最高のスパイスだからねぇ。」
🔪恐怖の頂点
伊原の“精神”が削り取られていく中、ついに決定的な夜が訪れる。
彼のスマホに、知らない番号から着信が入った。
震える指で通話ボタンを押す。
『……お前の番だ。』
伊原の呼吸が止まる。
「……誰だ!!」
その瞬間――背後から、冷たい手が首筋に触れた。
「ごちそうさま。」
アリアの囁きが、最後の言葉だった。
🔪スケアリーの総評「飢えの完成」
「いやぁ~、最高の一皿だったねぇ!!」
「“捕食者”が“捕食される側”になったときの絶望、じわじわと削り取られる精神……。」
「この“乾燥熟成”された恐怖、濃厚な味わいだったよ!!」
スケアリーは、恍惚とした表情で語った。
「これが、スケアリーイズムだよ。」
ユリウスは、ただ静かに、それを聞いていた。
次回 → 「禁忌なる呼称の咎」